00-SS-00 アドウ王国物語 生贄
「さあ準備できましたよ シエリ・ア・スミカ様。
あなたのような歳では男の子でもちょっとしたメイクでこんなにかわいい女の子のようになれるんですよ。」
「ねえメイア……どうしても行かなきゃならないの?化け物を閉じ込めてある檻なんでしょ?」
「いいえ、化け物ではなく宗家のお姫様、あなたと同い年のかわいらしい女の子ですよ。」
「でも……送られた子供が何人も殺されたって……」
「はい、男の子は入室して姫様のお目に留まるや否や、女の子でも一番長くもって1時間ですね。
ですから、少しでも可能性の高い女の子の衣装をご用意しました。
今回はラスバウ家からカルナ姫様が、カノアル家からはクラム様が、そしてクレイアス家からはシエリ・ア・スミカ様がいらっしゃいます。」
「僕、いやだよ……」
「そうは参りません。宗家からの特命なのですから。拒めばお家の存続に関わるのです。どうかお聞き分け下さい。」
とても分厚い扉が開き……閉じた。
迷路のような曲がりくねった通路を歩き、何度か分厚い扉を超えた。そして最後の扉が開き、閉じた。
そこは丸い大きな部屋。地下なのに天井には月と星が見える。
右手と左手の向こうの壁にそれぞれカルナとクラムを見つけた。
そして、中央の大きなクッションに寝そべる少女が。
僕たちはゆっくりと中央を目指した。
5メートルぐらいに近づいたときに、クッションに寝そべっていた少女が身を起こした。
薄暗い中に見える整った顔と瞳、ながれるような長い髪。僕は見とれていたのかもしれない。
「誰だ?」と美しい声。
「ラスバウのカルナでございます、リマド様、初めまして。」
彼女は精一杯の作り笑いをしながらクッション上の少女に近づいた。
そして、歩む速度のまま血の煙に変わった。
血しぶきがクッション上の少女に降り注ぐ。
悲鳴を上げてクラムが彼の来た扉の方に走り出し、やはり血の煙になった。
僕は逃げられなかった。足がすくんだのだろうか?そうかもしれない。
それよりも僕は心囚われていたのかもしれない。人工の月明かりの下、血を浴びて立ち上がった薄衣の少女に。
怖いけれど綺麗だ。
この少女に殺されるのか。それもいいかもしれない。なにかが僕の身体を一瞬覆い、通り過ぎた。
「名前はなんという?」もう一度美しい声。
「クレイアスのシエリ・ア・スミカと申します。」つかえずに答えられたのが不思議だ。
「長い名前、スミカでいいよね?怖がらないなんて変な子。汚れたから体を洗いたい、手伝って。私はリマド。」
それがリマド様からの最初の命令だった。




