歯車は何処で狂った?
亡き祖父上と父上が、無理な侵略戦争を仕掛け国力の低下さえ引き起こさなければ……私は今頃、何の憂いもなく将来有望の王太子として幸せだったのだろう。
著しく低下した国力は中枢を失っており、もはや王家や貴族でも手立てが無かった。
そんな時、父上が気紛れに愛妾にした元聖女を母に持つ異母弟、第二王子カフスに呪いの力があると判明する。
その呪いの力とは、カフスが惚れた相手を性転換させると言った物だった。
実験した結果、侍女は男に、侍従は女に代わるが……カフスが執着しなくなると呪いの効果が弱まる弱点があるが……呪いを上手く利用すれば失った国力を回復させられると思ったんだ。
私が目を付けたのは、戦争に参加しなかったクリスタル辺境伯一族。
武、知、商、影など全ての武力、知力、商力、諜報網を備えたクリスタル辺境伯一族は、影の王家だと上位貴族から詠われていた。
私の呪いしか使い道の無い愚弟と違い、辺境伯家の嫡男は、利発で文武両道、民や側近からも慕われており、幼い身でありながらも神童と言われていて気に入らなかったからだ。
辺境伯夫人譲りの美貌を持つ嫡男に期待し、私は愚弟を誕生パーティーに無理矢理捩じ込む。
案の定、カフスは嫡男に一目惚れして執着を発揮し、呪いで嫡男は嫡女に。
今すぐにでも、闘いを辞さない構えの辺境伯一族を私は加害者の兄として上手く謝罪し宥めた。
そのお陰か、嫡女が折れてくれてこの事件は一段落した。
クリスタル一族の次期当主を婚約者に据えたことで、分家一族が王家の要請に答え与えられた役目に付いてくれる。
あぁ、これで全て上手く行くし元通りだ。
私は安心した、いや、カフスから目を離してしまったんだ。
無事に今日、カフスと辺境伯嫡女が長い婚約を得て二ヶ月後に盛大な結婚式を行う事を発表する記念すべき日だったのに。
カフスは何を血迷ったのか、辺境伯嫡女に婚約破棄を突きつけ、素性も卑しい男爵令嬢と婚約をすると言い放つ。
慌て私が飛び込んだ夜会会場には、既に辺境伯一族の姿はなく、辺境伯一族の近衛騎士達に男爵令嬢は拘束されたらしい。
怒りに身を任せ、私はカフスを殴り付けると、カフスの調査を侍従に命じた。
調査によれば、王立学園に入学したカフスは礼儀や常識を知らぬ男爵令嬢に夢中になり、婚約者を蔑ろにしていたとか。
私は目の前が真っ暗になり、項垂れていると突然カフスが叫ぶ。
「シファの呪いが解けた!!男に戻ってしまったんだ!!兄上、どうしよう!?このままシファを失いたくない!!」
カフスの言葉に私の思考は一気に現実へ引き戻される。
「辺境伯家の王都屋敷を襲撃するんだ。もう一度シファに呪いを掛ければ女になる!!」
「わっわかった!!」
私とカフスは、慌て部屋から出ていった。