忌まわしき呪い
私が辺境伯嫡男として、8歳の誕生パーティーを開いていたあの日。
異世界から召喚された聖女を母に持つ第二王子は、私の美貌に見惚れて執着し呪いで私の性別を女に変えてしまった。
辺境伯一族は戦の姿勢を辞さなかったけど、国王夫妻は頭を下げて謝罪する。
王子が私に執着を示す限り、呪いが解けることはない。
王子を私に婿入りさせるから責任を取らせて欲しいと。
私は怒りで頭が痛くなる程、屈辱に我慢の我慢をした。
そんな時だ。
我が屋敷に盗みに入った女の娘を偶然、学園で見付けたのは……。
上手く誘導してやれば、あの第二王子は頭空っぽの女に無知になるかもしれない。
だから打てる策なら喜んで打つ。
そして今日、全ての努力が実を結び、晴れて私は執着から解放されたんだ。
「姫様、王宮筆頭魔術師ケイト様が御目見えになっております」
「あぁ、わかった。直ぐに行きますわ」
王都の屋敷で、湯浴みをしていると侍女から待ち望んだ魔術師来訪の知らせを受ける。
バスローブを着て、髪をタオルで拭きながら広間に向かうと、腐れ縁なあいつが待っていた。
緑色の長い髪を三つ編みにし、紫色のローブを着た青年はソファーから立ち上がる。
ケイト・アイス・エメラルド(18)。
エメラルド侯爵家当主で、俺の親友であり戦友でもある。
俺が呪いを掛けられた時、ケイトは呪いを解くために魔道塔に入ったんだ。
「俺を呼んだと言うことは、解呪して良いんだな?」
「あぁ、構わない。頼む」
ケイトに確認され、私は頷いて頼む。
「分かった。それじゃ行くぞ……」
「!!」
ケイトの言葉に、私は目を瞑る。
『生きとし、生ける者の偉大なる神よ。この者を掛けられし邪悪なる呪いから解き放ちたまえ。ホーリーディスペル!!』
ケイトが詠唱を終えた途端、私の身体の中が熱くなる。
「もう目を開けて構わないぞ」
「……」
ケイトの言葉に、私が目を開けると……すかさずルーカスが手鏡を私に差し出す。
十年前に奪われた私の男としての姿、端正な顔立ちの私が手鏡に映っていた。
「これが……今の私か?……長かった……此処まで来るのに……」
感激して私は思わず涙を流す。
幼かった声も、声が男性らしく声変わりしている。
「解呪御目当御座います」
ルーカスが膝を付いて私に祝福の言葉を掛けた。
「で?辺境伯一族はこれからどう動く?恐らく呪い掛けた張本人は気付くだろうし、王宮も中枢をごっそり失って慌てるだろうぜ」
笑ってケイトは私に言うと、私の肩に手を置く。
「先ずは、父上の返答次第になるが……王家が血迷って我が屋敷を攻めるかもしれん。いつでも籠城戦になって構わないように準備をして置け。ケイト達魔術師達も今より魔道塔から離脱しクリスタル辺境伯一族として合流し、迎撃に備えよ」
「承知致しましたよ、若様」
ケイトは私に返事をすると、その場から転移魔法で姿を消した。
「元々、王家は中枢である大部分を度重なる無駄な戦争で失っていた。
父上やお祖父様は、最後まで王家に反対して戦争に参加しなかったんだ。
急激な領土拡大による侵攻の爪痕が明確になったあの日、わざと私の誕生日パーティーに愚王子を参加させたんだろう」
私は小さくなったバスローブを脱ぐと、ルーカスに今度はサイズが合うバスローブを渡され腕を通しながら言葉を紡ぐ。
「若様を呪いで人質にし、辺境伯一族の分家達を中枢に引き込んだのですね。
所が、カフス第二王子殿下は若様の策略にはまり若様に婚約破棄をしたと……」
苦笑してルーカスは頷く。
「今や、王家は私を引き留めるために必死だろうよ。何せ、今の私は本来の私で身分も権威も持って居る。近衛騎士団長、第二王子殿下の婚約者、二つの地位を失っても痒くない。今夜が眠れぬ夜に成りそうだ」
笑って私は、グラスを傾けるとルーカスが注いだワインを一気に飲み干した。




