春の章 凶事待伏 11
三世は倒れた直後の記憶が無かった。
何故、自分の車に寝ていたのかもわからなかった。
登場人物紹介
王生 三世
降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。
実は143年前、平安時代にも下界に姿を現している。
10年前、とある島で三世の意識を支配してからは王生家で生活している。
職業は獣医師。車で診察を行う移動動物病院を経営している。
東 春世
T市総合病院の消化器外科の医師。
10歳離れた三世の実の弟。
オッドアイ。左右の目の色が違う。
透明感のある褐色と青緑。
東 蒼世
春世の弟。
M.C.H.でバイト中。
青翡翠のブレスレットを着けてる。センターストーンの水晶には青龍が彫られている.
倉橋 清隆
現在に目覚めた制多迦童子。陰陽師、安倍晴明の血筋。それ故に式神を操れる。
宝と同じ病院に小児科医として勤務している。
折り紙が得意。
野原 南海
天野病院の看護師。宝から絶大な信頼を受けている。
王生家や倉橋の素性も知っている。
カーネリアン(赤色の宝石)の朱雀の彫刻が入ったネックレスを身に着けている。
石言葉は 成功、勝利、友情、勇気。
王生 剣
王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。
職業は仏像学芸員。
王生 宝
剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。
名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。三世とは馬が合わない。
因みに男性として現れた時の名前は「宝」
──うっ…背中が痛い…。ん?ここは何処だ?
三世は瞬きを数回した後、ゆっくりと目を開ける。
──見覚えのある車内…。
「俺の車!?何で後ろで寝てるんだ?」
三世が背中を擦りながら起き上がる。
運転席のドアを開けたところまでは何となく覚えているんだけど…。
そのあと急に意識を失って、倒れて…。
バックガラスをボーっと見つめる。
「俺、どうやって車に乗ったんだ?」
そういえば誰かに声を掛けられていたような気がする。
車内から隈なく外を見回す。
通行人が行き交う普通の風景。特に気になる人物は見当たらない。
「今何時だ?」
ポケットからスマホを出して時間を確認する。
「17時15分。倒れてからそんなに時間が経っていない」
スライドドアを開けて車の外に出る。
「一体誰が?」
車外に出た三世の姿を遠くから確認していた人物がいた。
青いロードバイクを押しながら一人の男性が雑踏に紛れるように歩き始める。
「やれやれ。一応 父さんに連絡しておくか。あっ、今日は5時から法会だっけ。繋がらないじゃん。じゃあ兄さんに」
その人物は正に三世を助けたM.C.H.の新人監視員だった。
T市総合病院 消化器外科診察室
診療時間も終わり、医師の東春世は一人になった診察室で眼鏡を外しMRI画像を見ていた。
彼の目は左右の色が異なるオッドアイ。透明感のある褐色と青緑色をしている。
「T2画像だと腫瘍の良悪性の鑑定が難しいか…。やっぱり造影剤を静注してダイナミックMRIで撮影した方が確実だな。予約が取れそうな日は…っと」
机上のスマホが振動する。
「ん?蒼世からだ。何だろう」
「もしもし」
「兄さん。お疲れ。今 話しても大丈夫?」
「あぁ。もう診療時間終わってるから 大丈夫だ」
「兄さんの兄さん、三世さんが目の前で倒れた」
「無事なのか?」
春世は驚いた様子もなく、冷静だった。
「マイカーのドアに手をかけた時に倒れたんで、とりあえず車に寝かせておいた」
「そうか」
「回復に必要な分の精気は与えたけど、本人の生命維持に必要な体力が無さそうな感じだった」
春世が徐に卓上カレンダーをめくる。
──6月、7月、8月…父さんから聞いている来年の4月8日まで持ちこたえられるのだろうか…。
「お前の方は大丈夫なのか?」
「ちょっと与えただけだから大丈夫。俺 まだ若いし、元気あるから」
「お疲れさん。父さんは今、法会の最中だから後で伝えておくよ」
「サンキュ」
兄弟の通話が終わる。
三世の車のエンジンが掛かる。
「安全運転でお帰りください」
蒼世が三世の車が走り去って行くのを遠くから見届ける。
──ぐぅぅぅ。
「俺も帰ろう。少し精気を与えただけなのに、めっちゃ腹減った。やっぱエネルギー消費半端ないのかな」
利き足をロードバイクのペダルにはめて踏み込む。
「夕飯はテイクアウトの弁当でいいや。ごはんを大盛にするか特盛にするか…それともおかず2倍にするか…迷うなぁ…」
夕陽に向かって軽快にバイクを走らせる。
春世は途中まで見ていたMRIの予約状況を確認していた。
「おっ、この日空いてる」
PC画面右下のタスクバーの時計表示に目が行く。
『17:25』
看護部は今日はノー残業DAY。明日連絡してもらおう。
「よし、俺も帰ろう。お腹減った」
眼鏡を掛け、ビジネスバックに愛読書、筆記用具を仕舞いながら考える。
──どうせ父さんが三世を心配して蒼世を張り付かせたんだろう。
「まぁ俺にも一人張り付いているけど」
パソコンをシャットダウンする。
清隆が咄嗟に口を袖口で抑えて大きなくしゃみをする。
「倉橋先生大丈夫ですか?」
野原がビックリして思わず顔を見る。
「全然大丈夫です」
──とりあえず剣さんに写真を送ろう。
ポケットの中を探る。
「あっ…」
机の引き出しに入れっぱなしだった…。
「倉橋先生、2000キロ離れてる南南東って具体的に何処のことですか?」
野原は倉橋を見ていた視線を床に落として書かれた文字を見つめ 詳しい場所を聞き出そうとする。
「野原さん、心配なのはわかるけど、詳しい洞窟の位置は剣さんと三世君しか分からないと思う」
「私がお役に立てること何か ありますか?」
看護師として心配、不安を相手に伝えるような表情は人前ではできない野原。
すぐに気持ちを切り替える。
「じゃあ、スマホ貸して下さい。写真を撮ろうと思ったんですが机に忘れて来ちゃって」
「私が撮りますよ。王生さんに送ればいいんですか?」
「お願いします」
さすが野原さん。気持ちの切り替えが早い。宝さんが一番信頼しているのが納得できる。
「倉橋先生…後ろに立たないでください。影が映って文字が見えません」
「えっ?あっすいません」
倉橋が慌てて横にずれる。
剣は自室から窓の外の一本桜を見ていた。
五月に朱色の桜紅葉?しかも私の部屋の前の一枚だけ…。落ちそうで落ちない。
剣のスマホが鳴る。
「南海さんから?珍しいな」
添付されている写真とメッセージを確認する。
──何故、宝が大自在天の手中に!?
再び一本桜を見やる。
「葉柄がまだしっかり繋がっている。宝は大丈夫だ」
葉柄……葉身(葉っぱ本体)と茎を繋いでいる部分。
読んでいただきありがとうございます。
これからどうやって宝を救出するか考えます。
来週の健康診断のことで頭がいっぱいで…。




