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春の章 磑風春雨 9

 三世の体を借りて意識を支配している降三世明王。

剣はさくらに接する三世の行動に一つの疑問が浮かぶ。

もしかして降三世明王の中に143年前に体を借りていた千世の意識があるのではないだろうか…と。


登場人物紹介


王生 三世

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。

10年前、意識を支配してからは王生家で生活している。


王生 剣  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。


王生 宝 

剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。

名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。お酒好き。三世とは馬が合わない。


王生 煌徳あきのり

剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。


王生 大耶だいや

愛の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。

宝とは幼少の時より共に暮らしている。


千世せんぜ

143年前に降三世明王が体を借りていた人物。烏丸桜という女性とは恋人同士だったと思われる。

翡翠色の瞳の陰陽師。


 家族会議はまだ終わっていなかった。

剣は目を瞑り頬杖をついて次なる議題をどう言い出そうか迷っていた。

言い出せずに時間が過ぎていく。

残り少ないグラスのワインを飲み干し、剣がようやく口を開く。

「三世、その…何だ…親心みたいなものというか…どうしても気になることがあって…」

遠回しにさくらのことを聞き出そうとしているのがバレバレだ。

「親心…みたいなものね…」

複雑な表情の三世。

「さっき会った さくらさんはやっぱり彼女なのか?」

剣は目を見開いて三世を見据えていた。

「は?剣さんまで?その眼光、マジ怖いんですけど」

ったく、煌徳と宝が余計な事口走るから事が大きくなったじゃないか。

「自分でも予期せぬ出会いって言ってたじゃないか。帰りの車内で何の説明もしてくれないし、凄く気になるんだよ」

「数分じゃ説明する時間がない」

三世は剣とまともに話そうとしない。

テーブルの上のピザに手を伸ばし無言で食べ始める。

「父さん、そのさくらさんって、もしかして烏丸からすまさくらさん?」

「何で宝が知っているんだ?」

「だって彼女、今日三世に付き添われてウチの病院来たもん」

「えっ!?どういう事だ?」

三世は喉にピザを詰まらせ、手のひらを宝に向けて「待った!」の合図をする。

「三世ったら堂々とお姫様だっこなんかしちゃってさ、病院ではもう三世の話題で持ち切りだったんだから。私なんて質問攻めよ。年齢、身長、職業、好きな食べ物とかその他諸々。ほら、一応三世イケメンだしさ」

宝の奴、「待った!」の合図してんだろうが!見えてるのに無視すんなよ!

「あら三世、喉に詰まったの?背中思いっきり叩こうか?必殺、背部叩打はいぶこうだ法!」

宝が右手を大きく振りかざす。

三世が刹那に振り向き、見事に白羽取りで防御する。

「ゴホッゴホッ。い、一応ってなんだ一応って。さ、さん、36キロの…ラブラドールレトリバーのきゅんちゃんだって抱けるんだ。ゴホッ。お姫様抱っこなんて余裕に決まってるだろう」

咳込みながら釈明する。

「いやいや、そー言う問題じゃなくて」

「じゃあなんだよ」

「顔と顔あーんなに近づけて彼女抱き上げるなんて……」

宝が三世の手を振りほどき、胸の前に両手でハートマークを作る。

「もう誰が見ても公認カップル♡」

「三世、正直に話せ。交際には反対しないから」

剣の姿は息子の彼女のことが気になって仕方がない実の父親のように見えた。

「だーかーら、彼女じゃないって。今朝、熊追いの最中に山道でケガしているさくらを偶然見つけて病院に連れて行っただけだよ」

「じゃあ何で“さくら”って呼ぶんだ。普通いきなり初対面の女性を名前で呼んだりしないぞ!」

珍しく剣が声を荒げる。

今も言ったぞ!今も!あぁぁ自律神経が乱れてきた…。宝、いい整体師さん紹介してくれないかなぁ…。

「それはその……。何か自然と出てきちゃったんだよ。偶然昔の彼女と同じ名前だったし……」

剣の勢いに押されて語尾の声が段々小さくなる

「偶然偶然そればかり。今、昔の彼女って言ったよな?絵を描くのが好きなもの同士じゃなかったんだ…。143年前お前たちは付き合っていたという事か」

「いや、その…」

三世が下を向き口をつぐむ。

最近気が付いたんだが、三世は時々人間っぽい表情や感情を表に出す時がある。体は三世で意識は降三世明王のはずなのに妙な感じだ。

私の憶測だが、帰りの車内での会話の内容、そして"さくら"と自然に名前を呼ぶ。否定しない。143年前の恋愛関係にあったのは千世ではなく、あの頃の記憶がある降三世明王の方なのでは?

「私は前途を危惧しているんだ。普通の女性とその…関係を持つとまた143年前の悲劇が再び繰り返されるのではないかと」

「どういう意味だよ。関係を持つとか、悲劇とかわけわかんねーし」

もしかして降三世明王はあの山火事の後の烏丸桜からすまるさくらさんの人生を知らないのか?

誰ひとり降三世明王に話してないのか?

「とにかく143年前のような惨事は起こすなよ。史実を変えるのは大変なんだからな!」

「本当に今日、偶然山で会ったんだ。何で信じてくれないかなぁ。さ…彼女とは何もないから」

「な、な、何もって!?さっき見つめながら手で髪や頬に触れただろ!」

剣と三世の応酬。

「父さん、彼女病院に来た時涙の痕があったのよ」

「それは説明しただろ!」

宝が横槍を入れる。

キッチンから戻って来た大耶と煌徳がリビングの入口で立ち尽くす。

「何大声出して親子喧嘩してんの?」

煌徳も大耶も呆れ顔。

「あの…二人とも少し落ち着きませんか?」

大耶が二人の仲を取り持とうと話しかけるが、二人は完全無視。

「また私が家にいない隙に…」

「だから…今日偶然会ったって言ってんだろうが!!」

三世が叫ぶと同時に剣のワイングラスが一瞬で割れ破片が飛び散る。

「二人とも喧嘩は止めて下さい。大人げないですよ」

大耶が背後から二人の肩に軽く手を置く。

「痛っ!!」

微電流が2人の体内を走る。

声を上げたのは三世だった。

「大耶、心肺停止したらどーすんだ!」

三世が衝撃にびっくりして思わず声を張り上げる。

「三世安心しな。その時は私が蘇生措置してあげるから。一応医者だし」

流石名医。冷静な宝の反応。

「人工呼吸は絶対やだ」

「AED使うに決まってんじゃん。私だって三世と唇合わすなんて絶対絶対絶対嫌だからね」

仏の顔も三度撫ずれば腹立つ。

「絶対絶対絶対三回も言うな!」

一方剣の方は、さほどダメージを受けていないらしく平然と喋る。

「大耶、私には効かないぞ。まぁ1億ボルト位までなら大丈夫」

「そうですか……。新しいグラス持ってきます。ほら三世は早く掃除機持って来い!」

「はいはい」

と言いつつピザに手を出す。

「これ美味いな」

半分口にくわえながら席を立つ。

「グラスが空でよかった…染み抜きするの大変なんですよ」

「大耶、確かこのグラス一脚一万くらいしたよね?」

宝が水をさす。

「……」



剣は三世の右手をさり気なく見ていた。

分からない事だらけだ。右手に星の字が二重に見えた時、三世か千世なのか迷ってしまった。二人とも痣は同じ右手にあるが大きさが違うからだ。

私には あの家でさくらさんを抱いていたのは143年前の千世に見えた。雰囲気、彼女を見つめる目、それにあの抱擁力…愛情がある証だ。

それに名刺のイラストだ。千世が昔描いていた墨画と似ている気がする。

この前犬探しのポスターを頼まれてたようだが、お世辞にも上手とは言えなかった。

あれは犬じゃなかったな……。大きなヒキガエル?

───前言撤回。まさか降三世明王の中に千世の意識が存在している?



「ジェラート2つ買った理由に納得。別に隠さなくてもいいのに」

「だから違う!」

掃除機を取りに一度リビングを出た三世が遠くから叫ぶ。

「あっ聞こえてた?やっぱ地獄耳だね」

大耶は取り乱した剣の様子が気になった。小さな声で話しかける。

「剣さん何イライラしているんですか?珍しいですね」

「降三世明王が不都合な事を隠してるんじゃないかと思って…」

「覗いてみますか?」

「いや、今はいい」




直ぐに三世が掃除機を持って戻って来た。

「大きい破片は先に手で拾って下さい。掃除機買ったばかりなんで壊されるのは勘弁です」

最近買ったの掃除機の方が心配な大耶。

「はいはい」

大耶が三食用意してくれるのは有難いんだけど、その他の家事に関しては小姑のようにうるさいんだよな。

宝に小言を言われるよりはマシか。

「あっ」

「三世、どうした?」

剣がすぐさま呼応する。

「指切った」

欠片で右手親指を切り出血していた。

生成AIで作成された動画のように傷口が見る見る塞がっていく。

剣が血相を変えて右手を掴む。

「人前ではやめろよ」

「痛い。手、放して」

かなりの力で掴んだのか三世の右手にはくっきりと跡が付いていた。

三世の態度が気に障ったのか剣が間髪を入れず問いただす。

「話がまだある。あの名刺だ」

──何か気づかれたか?

三世が息を飲む音がした。

「名刺の式神はどう説明するんだ?彼女の側に忍ばせてくなんて何か理由があったんだろ?」

「やっぱり、ばれてたんだ」

三世は内心何を聞かれるか冷や冷やしていた。

「誰が操っていたんだ?」

「誰って?俺だけど」

「だから、俺って誰のことだと聞いてるんだ。一瞬しか見えなかったがお前の分身みたいだし、私でもあんな上位式神は無理だぞ」

「な、何わけのわからない事言ってんだよ」

三世の視線がさ迷っている。明らかに私と向き合って話すのを避けている証拠だ。

しかし答えはわかっている。143年前に実在した人物。そう、千世だ。彼は陰陽術を使えた希少な人間。

降三世明王も三世も式神は使えないはず。

やはり、どちらかの意識の中に千世がいるということか…。

気難しい顔をして黙っている剣に

三世が怖じ怖じしながら声をかける。

「剣さん、出張で疲れただろ?風呂入って早く寝たら?」

「私は疲れてないし眠くもない。ごまかすな」

冷たい反応。しかも三世を見る目が鋭さを増してる。

「…」

慧眼を持つ剣さんのことだ、既に俺の体の異変に何か気付いてるんじゃないか?

さっきからずっと俺の右手を気にして見てるし。

異変と言っても顕著に出たのは今日が初めてだし。

くっきりと出た右手の星の痣。そして翡翠色の目。

そう言えば…最近記憶が飛んでいる時があるような気がする。

名刺のイラストだって絶対俺じゃない。俺の画力は…んんん…ぐにゃぐにゃ(回想中)だし…どう見てもクリスさんじゃないよな。これ何だろう?ウシガエル?ニホンヒキガエル?ゴライアスか?

最近気がかりなのは143年前の山火事が時折フラッシュバックすること。

いつも一番先に見えるのは俺に向けられた銃口。

発砲した銃弾がこめかみをかすめた直後、一瞬で回りが荒れ狂うような炎に包まれる。

咆哮する炎。その揺らめきは怨念が具象化したようにも見える。

そしていつもの展開。

舞い散る火の粉の中に炎を振り払いながら命からがら逃れようとする一人の人物。

彼はその最中、俺に何か言っているようだが…残念ながらその部分の記憶が無い。恐らく意識の均衡が崩れたからだろう。

そして目の前で彼が炎に包まれ、辺りが火の海になる。

そこでいつも目が覚める。

俺の役目は降三世明王として彼を救うことだった。

彼の中には間違いないなく世の支配を目論む欲望の塊、大自在天が巣食っていた。

それを教えてくれたのは体の主で陰陽師でもる千世だった。

しかし、千世は俺を振り切り九条を殺めようとした。一人の女性を巡る争い。その執念が不覚にも俺の意識を勝ったんだろう。

あの状況からして千世は桜を溺愛し、また桜も千世を愛していた。そして大自在天に乗っ取られる前の九条も桜を愛していた。

人間の愛情とは恐ろしいものだ。

あの体は既に限界だったのに、

今でもあの時千世という青年がとった信じられない行動に恐怖を感じる。



───桜…桜はどうなったんだ?


どうして誰も俺に話してくれないんだ?






ゴライアスガエル……世界最大のカエル



読んでいただきありがとうございました。

143年前と現在を繋げるのに苦労しています。

千世の過去や苗字もまだ謎です。

まだ真実は はっきりとしていないので

追々書ける日が来ればと思っています。


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