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春の章 磑風春雨 8

王生家の家族会議。

三世と煌徳は剣に特別展の内覧会に誘われる。

剣はそこで目星を付けた大自在天を目覚めた人物と三世を会わせようと画策していた。


登場人物紹介


王生 三世

降三世明王が現在で体を借りている人物。意識だけは降三世明王が支配している。


王生 剣  

王生家の中心人物。現在に目覚めた不動明王。普段は天然で抜けているふりをしているが、先見の明を持っており何事も卒なくこなす正に聖人君子。

職業は仏像学芸員。


王生 宝 

剣と前妻の子供。現在に目覚めた軍荼利明王。143年前は男性として現れるが、現在は女性として現れる。職場は脳神経外科医(脳神経内科兼務)。

名医で海外に派遣されることも多い。性格はかなり奔放。お酒好き。三世とは馬が合わない。


王生 煌徳あきのり

剣と愛の実子。現在に目覚めた大威徳明王。現在酪農大学の学生で三世の跡を継ごうと獣医師を目指している。愛くるしい顔をしているが怒ると家族の中では一番怖い。


王生 大耶だいや

愛の連れ子。現在に目覚めた金剛夜叉明王。職業は刑事。職業柄常に沈着冷静。無表情。趣味は料理。

宝とは幼少の時より共に暮らしている。


「剣さんは大自在天を現在に目覚めさせたと思われる人物に目星が付いているんですか?」

大耶が剣のグラスにワインを注ぎ様子を覗う。

「まぁね。確証はないけど」

なるほど。剣さんもまだ人物の正体をはっきりとは掴めてないのか。

「三世に復讐するなら身近な所から徐々に追い詰めていくと思いますが、今のところ我々との接触もないですし、ましてや彼女や友達もいなさそうですしね」

「言いすぎだよ兄さん」

ん?ちょっと待てよ。彼女?ジェラート2個…。もしかして、もしかすると…。


「三世、式神から後を追えたか?」

「下級すぎて無理だった」

「そうか」

剣がワインで口を潤し、小さな音を立ててグラスをテーブルに置く。

静かになり四人が剣に注目する。

「実は…」

剣が着物の袖口からパンフレットと招待状を出して見せる。

【仏教美術の世界 特別展  主催  MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(M.C.H.)】

「今度関係者だけの内覧会があるんだ。私も招待されているので、どうだ三世、煌徳も一緒に来ないか?」

三世と煌徳が顔を見合わせる。

「何で俺たちが付き合うんだよ」

即座に三世が拒否反応。

「ゴールデンウイークはバイトで忙しいんだけど」

煌徳もどちらかというと答えはNO。

「いいから見てみろ」

剣が三世にパンフレットを見るよう押し付ける。

三世が嫌々手に取り表紙を見る。

「えっ?」

表紙には夜桜がライトアップされた東寺の五重塔の写真と

下部に【主催 MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(M.C.H.)】の文字が印刷されていた。

確かM.C.Hってさくらが勤めている所だ。そういえば今度仏像や曼荼羅を展示するって言ってたような…。この事か。

「さっき宝と大耶には話したんだが、降三世明王に妻と共に踏みつけられた大自在天像がこの特別展で同じフロアに展示される。

意図があってのことかどうかはわからないが、どうも嫌な予感がしてな…」

三世がおもむろにパンフを開き配置図を見る。

思わず目が丸くなる。

「しかも対峙してんの?どう見ても宣戦布告の構図じゃん」

「えっ?どれどれ僕にも見せて」

そこには東西南北を守護する明王像、その中心に不動明王像。東側に配置された降三世明王像の目線の先には睨み合うように大自在天像が配置されていた。

「三世は実物と場の様子を見ておいた方がいいと思うんだ。三世がもし何か事件になるような事を起こした時は煌徳が力尽くで止めるように。大耶なら逮捕されてしまうかもしれないからな」

一か八か凶と出るか吉と出るかこっちから出向いてみるのも手だ。運よく目覚めた大自在天と遭遇する可能性も無きにしも非ず。

剣が煌徳の方をチラッと見る。

うわっ!父さん、目力強すぎ。アイコンタクトのレベルじゃないよ。もう……怖くて絶対断れないじゃん。

「はぁ…わかったよ。何かあったら困るので行くよ。後で店長に相談してみる」

煌徳がしぶしぶ納得する

「何かって何だよ」

さっきから俺が何かやらかすみたいなこと言いやがって。イラッとする。

「そうねぇ例えば大自在天とばったり会って、逆上して暴れて、挙句に炎ぶちかましてM.C.H.が火事になってニュースになるとか」

いきなり宝の毒舌が炸裂する。

「宝、いつから起きてたんだよ」

しかもチクチク143年前の事持ち出しやがって。癪に障るんだけど。

「あーごめん頭ガンガン痛い。父さん、もしかして意思伝達してた?頭に会話が入ってくるのと酔いで最悪なんだけど」

「こら!無視すんな」

「はいはい」

「聞こえてんじゃん」

「面白くなりそうね。私もパンフ見ーせーて」

宝がパンフレットを三世の手から奪う。

「おい!返せよ」

【仏教美術の世界 特別展  主催  MUSEUM OF CONTEMPORARY ART HOKKAIDO(M.C.H.)】

あれれ?ちょっと焦点が合わないけど、これと同じ写真何処かで見たような…。仏教美術の世界 特別展……、M.C.H.…。

あっ!患者さんの手帳に挟んであったのを見たんだ。

「──そういえば列車事故で運ばれてきた人の中にM.C.H.の人がいた。ケガは右目の眼球打撲だけで大したことなかったんだけどね。確か入院申込書に記入していた勤務先がそこだった気がする」

「へぇ……名前は?」

右目?剣が関心を示す。

「何て言ったかな…仕事復帰したばっかりで、頭がいっぱいいっぱいでさ…ごめん、急には思い出せない」

「アルコール回ってるだけだろ」

「三世」

剣が黙らせる。

「大丈夫よ。大して回っていないから。少し寝たら酩酊状態から脱出したみたいだし」

「自己診断できるなら大丈夫そうだな」

それにしても驚異的なアルコールの分解速度だな。誰の遺伝だ?

宝は目を瞑り真剣に思い出そうとしていた。

「あっ、でもね私そんなに霊感強くないけどその人の病室から霊力みたいなものを感じたんだよね。それに本人以外にもう一人いるような気配もした」

「時差ボケじゃないの?」

三世が突っかかる。

「はぁ?全然時差ボケの症状と違うから」

見かねた大耶が宝と三世の間にすっと座る。

「二人とも私の雷が落ちる前にやめてくださいね」

意味深な大耶の忠告。

二人とも顔が磁石の同極どうしのように勢いよく反発する。

「三世、行って来たらどうだ。剣さんの誘いを断る理由はないと思うんだが」

「理由ね…」

もしかして一か八か凶と出るか吉と出るかこっちから出向いてみる作戦がばれたか?

剣が冷や汗をかく。

三世は両腕を上に伸ばして反り返り、後ろの大きなクッションに勢いよく倒れこみ天井をボーっと見つめる。

「もしかしてその日、彼女とデートの約束してるの?」

煌徳が不敵な笑みを浮かべる。

「勘ぐるなって言ったよな」

「あっノンアル取ってくるの忘れてた」

キッチンに取りに行こうと席を立ち一歩踏み出した時だった。

三世が左足を出して進路を妨害する。

「うわっ!」

煌徳はつまづいて転びそうになるのを絶妙な運動神経でグッとこらえる。

「三世、何するんだよ!」

「運転で足が疲れたんで伸ばしただけだよ」

「嘘だ!絶対わざとだろ!アクセルは右足だし」

煌徳は三世を睨みながら大股で歩きキッチンに向かう。

「三世、すまない。彼女いたのか…」

「大耶、違う!違う!」


剣が慎重に三世に問う。

「三世、例えばの話だが、もし現在に私たちのように大自在天として目覚めた人物がこの配置のようにお前の目前に現れたらどうする?」

「改心できず再び世界を支配する者と主張するなら今度こそ永遠に葬ってやる。世の安泰は支配し治めて創るものじゃない」

「そうだな。しかし、夫婦揃って踏みつけられたことへの復讐という可能性も捨てきれない」

「古くさっ。そんな考え捨てろよ」

「明治6年に復讐禁止令が発令せれましたが、143年前の明治13年に敵討ちに関する条文が法典から消えています。分かっているとは思いますが報復は教えに反します。やめてくださいね。大火災は勘弁です」

さすが職業柄、刑法に詳しい大耶。しかし最後の一言が兄弟喧嘩の火種。

「慈悲深い俺がそんなことするかよ」

「帰国して疲れて荷物もあるのにとっとと出かけて送ってくれなかったじゃない!」

「山に入るのは時間厳守だ。それに後から ちゃんと届けた」

「ついでにでしょ。ほらぁ三世彼女…」

三世が宝の口を両手で塞ぐ。

「何?何?」

煌徳が興味を示す。

「仲が良いんだか悪いんだか…」

剣はやれやれといった表情で見守る。

大耶は何も言わず腕を組み静観していた。

「三世が口塞ぐから一瞬息ができなかったじゃない!」

「鼻ですれ鼻で」

「あー苦しい、暑い、暑い。まさか暖房つけてるの?」

宝が両手で仰ぎだす。

「ついてませんよ。飲みすぎたんじゃないですか?」

大耶が冷ややかに答える

「そうかなぁ…いつもより控え目なんだけど。温暖化だわ。異常気象。何かの前触れよ」

室内のデジタル温度計は22.5度。

「日本は過去100年で平均気温が1.35度上がってます。今室内は22.5度に保たれてます。至って快適です。考えが飛躍してます」

「やだ、私飲みすぎてるの?」

「えぇかなり…自覚症状ないんですか?」

「全然。体温が上がるのは、ほろ酔い程度だし。ねぇ大耶、何か怒ってる?」

「別に」

宝に返事を一言で済ます大耶の様子が明らかにおかしい。

「じゃあ。ワイン飲みたいなぁ♡」

「知りませんよ明日の仕事に差し支えても」

「大丈夫だって」

「残り少ないのでボトル取ってきます」

大耶がすっと立ち上がりキッチンにワインを取りに行く。

「兄さん何取りに来たの?」

「ワインを」

大耶が宝に頼まれて買った小型のワインセラーを開ける。

「ラスト1本…」

思わずぼやく。

「絶対 姉さん飲み過ぎだと思う」



読んでいただきありがとうございました。

何となく大耶と宝の微妙な関係が表現できてましたでしょうか?

夜が明ける前に王生家の家族会議を終わらせなければ…。

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