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春の章 合縁奇縁 21

 さくらの診察が終わると時刻は昼を過ぎていた。三世は帰り道にあるスイーツ店に寄りジェラートとクロワッサンを二人分買う。

接客してくれたのは…



登場人物紹介

王生いくるみ 煌徳あきのり

三世の()()弟に当たる。現在大学4年生。地元のスイーツ店でバイト中。

現在に目覚めた大威徳明王。


 さくらの診察がようやく終わり、二人は三世の車で帰路に就いていた。

時刻は既にお昼を回っていた。ナビの時計は12時30分。

「昼過ぎてた…疲れてないか?」

三世がチラッと助手席のさくらを見て話しかける。

初対面の時より少し和やかな雰囲気だ。

「ちょっと疲れましたけど大丈夫です」

少しお腹空いたけど…。お願い、恥ずかしいからお腹の音鳴らないで…。

「………」

三世は運転中も自分たちの後をずっと追って来ている烏をバックミラーでチラチラ見ていた。

運転に集中するのが精一杯で返事をする余裕はなかった。

そんな無愛想な三世にさくらは完全に無視されてると思ってしまう。

この豹変ぶりは何なの?時に優しい言葉をかけてくれたと思えば、険しい表情になったり、今に至っては無視されるし。

何か一気に気まずい雰囲気。期待半分、怖いの半分だけど試しに返事してくれるか話しかけてみようかな。

「あ、あのさっき病院で話していた美人の先生ってお知り合いなんですか?」

()()、姉」

「そ、そうだったんですね。実は今朝バス停で偶然見かけたんです。スタイルいいからモデルさんみたいで印象に残っていて。顔も間近でみたらお綺麗で…」

三世からの返事はなく、会話は続かなかった。

ん?何で一応?しかも無表情で答えなくても…。

「すいません。運転中話しかけて…」

信号機の住所表記は西9-7。病院を出てから約10分。平和の滝まであと3.5キロの地点。

車は信号を直進し右ウィンカーを出して、とある店の駐車場に入る。

店の外観は色違いのレンガで覆われたレトロな雰囲気で周りには緑葉の草木で囲まれているとてもおしゃれなお店だ。

「ちょっと待ってて」

「は、はい」

ここってスイーツのお店だけど…。私、このお店のジェラート大好きなんだよね。えっ?ちょっと待って。もしかして買って来てくれるの?

三世は車を降り、緊張して店内へ入る。

ショーケースには芸術品のようなショートケーキ、チョコレートが並んでいる。

少し奥に行くと色鮮やかなジェラート、焼き菓子とクロワッサンも売っていた。

雑誌に載る有名店だけあって店内はお客さんで混雑していた。

「平日なのに結構お客さん入っているな…しかも女ばっか」

戸惑いながらもジェラートのショーケース前へと進む。

「次お待ちのお客様…って、三世!?」

「よっ」

ここは煌徳のバイト先のスイーツ店、パティスリーNishi。

接客してくれた店員は煌徳だった。

「女性のお客さん多いなぁ…。彼女たちのお目当てはやっぱお前なの?雑誌とか載っちゃったし」

三世が来店したのには驚きだったが煌徳はその話題に関心がない様子。スルーして切り返す。

「どーしたの?三世が来るの初めてじゃない?」

「ちょっと小腹減ったんで、ジェラートでも食べようかなぁと思って」

「隣のコンビニ行けばいいじゃん。温かいおにぎりも、フライドポテトも売ってるよ。何でジェラート?」

「食べたかったから」

何か怪しい。いや、絶対怪しい。

「ふぅーん。で、ご注文は?」

目を細めて疑り深く三世を見る。

「ダブルを2つ」

「何で2つ??」

間髪をいれずに聞き返す。

「別にいいだろう。余計な詮索はするな」

「はいはい」

何で口止めするんだ?ますます怪しい。

「で、オススメは?」

「期間限定で桜の葉を練りこんだSAKURAと豊富とよとみ町産のミルクに豊浦町の苺の果肉を混ぜた苺みるくかな。因みにこのフレーバーは僕が作りました」

「じゃあSAKURAと苺みるくで、あとクロワッサン2つ」

ウチの分は?テイクアウト用もあるんだけど」

「何でだよ。お前が土産に買ってこいよ」

三世に物怖じすることなく対応する煌徳。流石は兄弟。

「カップでいい?三世コーン嫌いだよね」

三世がお店に来ること自体信じられない。しかも2つずつ注文。何でオススメを聞く?これって…もしかして…。

煌徳が店の窓から駐車している三世の車を見ると明らかに助手席に誰かが乗っている様子。

手際よく商品を用意しつつ、余計な詮索かもしれないが単刀直入に聞いてみる。

「彼女?」

「違うよ」

「え!?即否定?じゃあ何?未来形?」

「お前の六識(ろくしき)も大したことねーな」

「六識には恋の直感、予感は入ってません」

「言っておくけど絶対彼女じゃないからな」

「はいはい」

商品をショーケースの上に置き自然な笑顔で対応する。

「はい。お待たせいたしました。お会計1,716円になります」

「これで」

三世はポケットからスマホを取り出し会計を済ませる。そして仕舞う事なく、

カメラモードで店内の窓から電線に止まっている烏の写真を撮影する。

「ごめん、一瞬だけだから」

店内の壁には【写真撮影お断りします】の張り紙。

煌徳は何か意味がある行動だと直ぐに認識した。

「三世、僕一週間位実家にいるから、大耶に三食頼んでおいてよ」

「了解。じゃあ玄関前の掃除当番はお前に変更だな。ラッキー!」

「えぇぇ…今時季は桜が散って大変なんだよ」

「帰って来た時ぐらいやれよ」

「そもそもあの桜は宝が接ぎ木してくれた三世にとって大事な木でしょ」

「牛舎の掃除に比べれば楽だろ?」

三世は商品を手にさっと店を出る。

「──ありがとうございました」

煌徳は三世の後ろ姿を見送りつつ接客モードに切り替える。

「次お待ちのお客様ご注文をお伺いします」

今年のゴールデンウイークは何か起こりそうな予感がする。

煌徳の胸が高鳴っていた。


六識…視覚、聴覚、臭覚、味覚、触覚、霊感


読んでいただきありがとうございました。

エピソードの中にある豊富町。北海道住民なら"とよとみ"と読めると思うのですが、"ほうふ"と読まないないよう念のため…。主人は道民なのについ最近まで"ほうふ"と思っていたらしいです。

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