↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/91

春の章 合縁奇縁 22

二人の距離が縮む?遠のく?

もどかしい雰囲気のさくらと三世。

三世は不思議そうに見つめるさくらの様子に

気づかされる。自分とは違う人物の面影が顔に出ていることに…。


登場人物紹介

孔明《こうめい》?


 三世が両手にジェラートとクロワッサンを持って車に戻って来た。コンコンと右手で助手席の窓ガラスを叩く。

「開けて!」

さくらが慌てて窓ガラスを開ける。

「お待たせ。はい、ジェラートとクロワッサン」

「えっ?あ、ありがとうございます」

嬉しそうにジェラートとクロワッサンを三世の手から受け取る。

お腹空いたのばれてた?もしかしてお腹の音鳴ってた?いつ?恥ずかしそうに三世に目を向ける。

三世は視線を気にすることなく車の前を横切り運転席に乗り込む。

「こ、ここに置きますね」

さくらがシフトノブ付近のドリンクホルダーにジェラートを置く。

「腹減った。クロワッサン一個取って」

「は、はい」

紙袋からクロワッサンを一つ取り出し手渡す。

「ありがと」

今日会ったばかりとは思えない彼との自然なやり取り。まるでドライブ中のカップルみたい。

ん?ちょっと待って!何考えてるんだろう…。どうした私の思考回路!?

とにかく、今は目の前の美味しそうなジェラートをいただくことに全集中。

「いただきます」

うわぁイチゴの果肉がゴロゴロしてる。濃厚なミルクの香りもたまらない。

さくらは早速苺みるくのフレーバーから口をつける。

「美味しい!」

三世は何も言わず軽く微笑んだ。

すぐさまクロワッサンを頬張りながら店内から撮った烏の写真を添えてLINEを打ち込み始める。

「あの…先にジェラート食べないと溶けちゃいますよ」

三世の指が止まる。

怖っ。黒目だけがこっち向いてる。

「送信させて」

送信ボタンを押して、黙々とクロワッサンを食べる。

「すいません」

何で私が謝るんだろう?睨まれてるわけじゃないけど、一瞬怖かった。目力の圧が強すぎ。虎の目みたい。今晩夢の中にまで出てきそう。

思い巡らしながらジェラートを淡々と食べる。

超美味しい…。幸せ…。

三世はあっという間にクロワッサンを食べ終えた。

すかさずドリンクホルダーに置いたジェラートを手に取り、スプーンいっぱいに抄って一口食べる。

「ウマい」

「苺の果肉も大きいしミルクも濃厚で美味しいですよね」

「いや、ピンクの方」

「あっこっちの方ですね」

彼との会話がどうも嚙み合わない。表情の緩急にもどう接したらいいのか悩まされる。苦手なタイプだなぁ…。

「桜の葉が練りこんであるんだって。期間限定のSAKURA。店員さんのオススメ」

「SAKURA?」

SAKURA、さくら…そういえば…朝からずっと傍にいてくれたのに私まだ彼に名乗ってなかった…よね?

行きの車内は話せる雰囲気じゃなかったし。

「あの、紹介が遅れてすいません、私…」

って、聞いてない…。

さくらが話かけても三世は黙々とSAKURAと苺みるくを交互に食べていた。

でも、嫌悪感を抱けない。なんでだろう?

「早く食べないと溶けるぞ」

もしかして声が小さかったのかな?

私も溶ける前に食べてしまおう。

この少し茶色で細かいのが桜の葉かな?こっちもいい香り。

SAKURAのフレーバーを一口食べると、こわばっていたさくらの表情がふわっと穏やかになる。

「めちゃくちゃ美味しい!桜の葉の塩味が絶妙です」

やっぱり美味しいものを食べてる時って幸せ。

「でしょ。SAKURAのフレーバー」

「はい!私この味、好きかも」

やだ…彼と目が合ってしまった。ということは彼も私を見てるってこと?

さくらは照れ隠しに続けてもう一口、SAKURAのフレーバーをスプーンに山盛り抄って食べる。

三世も同じくSAKURAのフレーバーを食べる。

「このスプーン見て見ろよ。シマエナガが描かれている」

「私のはクリオネです。可愛いですね」

「何の木でできてるんだろう」

「桜の木ですかね…」

「いや、多分白樺だと思う。こういうのは無味無臭じゃないと」

「そっか」

いい雰囲気。

よし。こ、このままの流れで。

「あ、あの、申し遅れました。私、烏丸《からすま》さくらと言います。この度は色々ご迷惑をおかけしてすいませんでした。熊の追い払いの事知らないで山に入って蛇に驚いて転んでケガして、手当もしてもらって、病院にも連れて行ってもらって、ジェラートご馳走になって……」

三世は余りにも唐突なマシンガントークに「えっ?」 という表情で一瞬固まる。

あっ、一気に喋り過ぎた?話の途中でさくらが気付く。

三世はぶれずにさくらを見て答える。

「名前ならさっき病院で呼ばれた時に聞いた。それに丁度病院に用事もあったから別に迷惑だなんて思ってないよ。からすまさくらさん」

「あっ、はい」

いきなりフルネームで呼ばれてしまった。しかも微妙に声色が変わったような気がする。

どこかで聞いたことがあるような…。穏やかな表情から発せられる優しい声。亡くなった父とも少し違う。誰かはわからないけど在りし日の懐かしい声。

どうしよう私ったらかなり動揺してる。この後何を話せばいい?駄目、頭の中真っ白。

と、とにかく、早くここから帰りたい。

三世の視線を避けるように真正面を見ると、かなり早いローテーションで駐車場から車が出入りしている様子がうかがえた。

ちょっと待って。私このままどこに帰るの?まさか平和の滝の駐車場にポン置き?

さくらは悩ましい顔をしながらジェラートを食べ続ける。

ここまで来たら実家は直ぐそこなのに。図々しいかもしれないけど送ってもらえないかなぁ…なんて。でもこれ以上彼に迷惑かけるのもどうかと思うし…。

美味しい物を食べてる時は幸せなはずなのに、この先不安で段々落ち込んでくる。

「あのさ、俺何か気に障ること言った?悩ましい顔してる。美味しいものを食べてる時はドーパミンが分泌されていて幸せな気分になるはずなんだけど。さっき病院で会った姉が言ってたよ」

どこまで空気読めない人なの?いや、空気は読んでないけど、心は読んでいるような…。ドーパミン?何それ。ペパーミントなら気分爽快になりますけど。

心…?そう言えば病院でも思い当たるふしが…。試しに心の中で願ってみようかな。

『図々しいかもしれませんが、ここから実家が近いので送ってもらいたいです。読み取ってくれたかな?ダメかな?』

半ば諦めの表情で一気にジェラートを食べる。

──キーン。

「痛っ」

「さくら、どうした?」

三世が運転席から身を乗り出して、さくらに詰め寄る。

「うわっ!」

さくらはびっくりして思わず窓ガラスに勢い良く頭をぶつける。

「いったぁい」

一気にジェラートを食べ過ぎて頭がキンキンする上にガラスに頭ぶつけてしまった…勘弁してよ。

「足が痛いのか?」

痛いのは後頭部なんですけど…。ん?頭打った拍子に幻聴?今、「さくら」って呼ばなかった?

「いえ。ジェラートを食べてキーンと頭が痛くなっただけです。ほらよく冷たいものたべたらなるじゃないですか」

少し語気が強かったかな…。

さくらは眉間にしわをよせ顔には不機嫌さがありありと出ていた。

三世は体勢を戻し、最後の一口を食べてやんわりと話しだす。

「それアイスクリーム頭痛だよ」

「ふざけてます?そのままじゃないですか」

彼女を怒らせてどうする。

俺、何か気に障ること言った?

宝以外の女性と話す機会が少ないからなぁ。

言葉遣いが乱暴だったのか?ぶっきらぼうな態度だったのか?顔がこわばっていたのか?全然見当がつかない。

とりあえず俺なりに精一杯頑張って話を続けよう。

「医学的な正式名称だよ。宝…いや、姉に教えてもらったんだよ。喉の神経が刺激されて、この時に発生する伝達信号を脳が冷たさを痛みと勘違いするらしくて、それで頭がキーンとするらしいよ」

一方、さくらは蘊蓄をサッと聞き流し、帰りたい一心で残りのジェラートを痛みに耐えながら一気に食べる。

「なるほどお姉さんの医学的根拠すごく参考になりました。私ここからタクシー呼んで帰りますね。いろいろと本当にありがとうございました」

本当は全然頭に入ってないけど、一応お礼も言ったし、ここでお別れしても問題ないよね?

さくらが慌てて助手席のドアノブに手を掛けると、三世がその手を抑えて制止した。

「何するんですか!大声出しますよ!」

「心配するな。ちゃんと実家まで送るから」

やっぱり今までとは違う優しい声。そして心の中を見透かすような視線。

──視線?

彼の目の色がさっきと違う。光の加減かな?

さくらは一度目を閉じ再び開ける。

琥珀色も印象的だけど、今は緑っぽいけど緑とも違う淡い緑…。

──翡翠。

つい最近博物館の展示で見た翡翠勾玉の色に似てる。

それは出雲大社に所蔵されている神代の昔より伝わる神秘的な輝きを持つ至宝。

不思議と惹かれていく…。何故か目を逸らせない。

彼が目で気持ちを伝えているのがわかる。

「安心しろ」

伝わってきたのはその一言。

何か私一人で取り乱してるみたいで恥ずかしくなってきた。

「すいません」

今まではつかえてたのに、素直に言葉が出てきた。

「さっき滝の駐車場で近くに実家があるって言ってただろ。とういう事は、ここからも近いよな?」

「あ、はい。ここから車ですぐです」

「じゃあ、案内頼む」

「あ、ありがとうございます」

三世がハンドルを握る手を咄嗟に見る。

今のところ右手に痣は浮き出ていない。

何もなかったようにシフトレバーをドライブに入れ車を発進させる。

バックミラーで後方を確認するふりをしてミラーに映った自分を上目で見る。

三世は虹彩が翡翠のような緑から徐々に琥珀色になる瞬間を目にした。

──不屈の人。143年前のお前なのか?

目線をずらすとミラーには電線から飛び立った烏が映っていた。

お前もしつこいなぁ。どっちのストーカーだ?俺に心当たりはないんだけど…。

だとしたら、さくらの方?若しくは翡翠色の虹彩の持ち主?

西の方向へ走り出すと三世の目は琥珀色に戻っていた。

助手席から三世の横顔をふと見るさくら。

やっぱり光のせいだったのかな?

それよりも気になるのは言葉に出していない心の中の声が彼には聞こえてる疑惑。

やっぱり不思議な人…。




一台のスマホにLINEが届いた。

画面には【三世】と表示されている。

男がトーク画面を確認する。

「三世からだ。烏の写真?メッセージもついてる」

【この太々しい奴は本当にカラス科カラス属の烏?】

男は指で写真を拡大してじっくり見る。

「なるほど。ちょっと烏にしては太ってるかも」

即返信する。

【日本最大のカラス、ワタリガラスだよ。冬になると知床に渡って来る。鳴き声も特徴的でコホッコホッとかカポッカポッと聞こえる】

「これでよしっと。長すぎたかな?」

「おーい、孔明。今日はパンの耳いるのか?」

階下から呼ぶ声。

「いるいる!後で学校に持って行くから用意しておいて」

「あいよ」

ピンポーン。

自動ドアが開きチャイムが鳴る。

「いらっしゃいませ」

スポーツウェアを着た部活帰りの学生が入ってくる。

「いらっしゃい。ハチミツレモンパン焼き立てだよ」

ドアが開くとお店から焼き立てパンのいい香りが漂ってくる。

そう、ここはとある街のパン屋さん。



読んでいただきありがとうございました。

虎の目、一休さんの屏風の虎思い出してしまいます。 降三世明王は虎皮裙《こひくん》という虎の皮の腰巻を身につけています。虎のように強いイメージを表現したくて今回のエピソードに書いてみました。夢に出てくるかはわかりませんが…。

北海道あるある

アイスのスプーンやマドラーを作っている国内唯一の工場が北海道にあります。

エピソードには出来る限り北海道あるあるを入れたいと思っています。

また実家の近くに熊が出ました。あるあるです。庭の桃の木や葡萄の木は老木で数年前に伐採しました。

今思うと秋は危険と隣り合わせだったのかと思います。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。