コミック一巻発売記念SS たーちゃんと絵本
「おっかいもの~おっかいもの~」
お出かけ前にレモネードを飲んだたーちゃんは今日も絶好調だ。
ジゼルと繋いだ手をゆらゆらと揺らしながらご機嫌で町を歩く。
今日の目的は錬金飴の材料の買い出しと、親父さんが頼んでいた塩の受け取り。
先日、ドランが巣材集めの際に買って来てくれたハーブと合わせて、自家製ハーブソルトを作るらしい。ホットパウダーを使用した料理もとても美味しかった。ハーブソルトを使った料理も楽しみである。
塩屋さんで少しお高い塩を受け取ったジゼル達は今、薬屋に向かっている。
普段とは少し違う道を歩けば、並ぶ店も変わってくる。
脇道から抜けたところで、小さな子供とすれ違った。
たーちゃんは振り返ってその子の背中をじっと見ている。ジゼルは足を止め、質問する。
「たーちゃん、どうかした?」
「おじちゃんのえ、もってた!」
「ドラゴンさんの絵?」
先程すれ違った子が何か持っていたのだろうか。すれ違ったのは一瞬のこと。
加えてジゼルはたーちゃんの方ばかりを見ていた。絵と言われてもパッと思い出せない。
ジゼルは少し前の記憶を遡って、子供の腕の中にあったアイテムを何とか思い出そうとする。
ドラゴンの絵が描かれていたかどうかまでは分からないが、言われてみれば本のような、大きくて薄い物を胸の前で抱えていた気がする。
「絵本かな」
冒険小説の線もあるが、たーちゃんと背丈の変わらない子だった。なら絵本の可能性が高い。
「えほん?」
「絵を見ながらお話を読み進めていく本だよ。たーちゃんのも買おうか」
「いいのぉ!?」
「うん。この辺りに本屋さんがあったはずだから、今から見に行こう」
幸い、今日はゆっくりお買い物をしてきていいよと言われている。塩も急がないからと。
材料の買い出しついでに雑貨屋さんにも立ち寄る予定だった。だがそれは別の日でも構わない。今はたーちゃんの興味の方が大切だ。
ギルドに在籍していた頃、何度か足を運んだ本屋さんには子供向けの本も揃っていたはず。
たーちゃんが気に入る本が見つかるといいのだが……。
「いらっしゃい。子供向けの本は左を進んで突き当たり」
本屋に入るとすぐ声が飛んでくる。
少しぶっきらぼうに聞こえるが、ここの店主はオーレルが認めるほどの本選びのエキスパート。欲しい本があったらこの店に足を運ぶといいと教えてもらった。
ジゼルはペコリと頭を下げ、左に進む。
するとたーちゃんはトトトと店主の元へと足を運んだ。カウンターで店番をしながら本を読む彼を見上げる。
「おじちゃんのほんはありますか~」
「おっさんが出てくる話か……。大体出てくるが、主役がいいのか? 種族と年齢、舞台となる国にこだわりはあるか? それから見た目や職業なんかも好みがあるなら聞いておきたい」
店主はたーちゃんが求める本に辿り着くため、質問を続ける。
だが人型の成人男性を想像する店主とたーちゃんとでは認識に大きな隔たりがある。ジゼルはたーちゃんの質問に大事なワードを付け足す。
「ドラゴンが活躍する話とか、仲間になる話が描かれた絵本が欲しくて」
「それなら突き当たり、右から二番目の棚の一番下の段。ドラゴンと〇〇ってシリーズが並んでる。四冊あるが、読む順番はあまり関係ない。一応背表紙を確認すれば何冊目かは分かるようになってる」
「ありがとうございます。たーちゃん、行こう」
「ありがと~」
ペコッと頭を下げると、店主も「ん」と応えてくれる。
二人で教えてもらった棚まで行く。
早速ドラゴンシリーズを見つけ、棚から四冊抜き出す。
表紙をたーちゃんに見えるように並べ、ジゼルもその横でしゃがむ。じっと表紙を見つめ、吟味するたーちゃん。
「『しま』『うさぎ』『ほん』『どうくつ』どれがいいかな~」
「どれも面白そうだね」
「うん。たーちゃんまよっちゃう」
うーんうーんと迷いながらたーちゃんが手にしたのは『ドラゴンとうさぎ』だった。
表紙には仲の良いドラゴンとウサギが描かれており、そこがたーちゃんとドラゴンさんに重なって見えたようだ。
一冊はたーちゃんに持ってもらい、残りの三冊を棚に戻す。
「たーちゃん、これにした!」
たーちゃんは店主の元に行き、本の表紙を見せる。すると「いい本選んだな」と低い声が返ってきた。口元もほんのわずかに緩んでいる。
お会計を済ませると、小さく手を振ってくれた。
たーちゃんも本を抱えるのとは逆の手をブンブンと振る。案外子供好きなのかもしれない。
「おじちゃんにもみせたあげなきゃ!」
「先に薬屋さんに寄ってもいい? 錬金飴の材料だけササッと買っちゃうから。その後でドラゴンさん達のところ行こう」
「うん!」
手を繋いで薬屋に行く。
買い出しを済ませた後、いよいよ配達ギルドに向かう。
ドランの今日の仕事は終わっており、今は龍舎にいるらしい。配達ギルドの人達に挨拶をしながら龍舎に足を進める。
「おじちゃん、きたよぉ~」
「たーちゃんではないか。今日はどうした?」
「これみせにきたのっ! ジゼルにかってもらったんだぁ~」
たーちゃんはドラゴンさんに駆け寄り、両手で絵本を掲げる。
ドラゴンが描かれた表紙を見たドラゴンさんは表情を緩める。
「おお、その本か。懐かしいな」
「ドラゴンさんも読んだことあるんですか?」
「ドラゴンが活躍する話は一通り読んでおるぞ。これは特に幼子でも読みやすいからな。坊の実家にも別荘にも全巻揃っておる。なぁ、坊よ」
ドラゴンさんの呼びかけで、奥にいたドランが顔を出す。
タオルで手を拭きながら「ああ、その本な」とドラゴンさんと同じリアクションをする。
「このシリーズ、意外と長いんだよな。全十二冊だったか」
「うむ。スピンオフのちびっこドラゴンシリーズも入れると十七冊になる」
「結構多いんですね」
「人気作というやつだ」
ふふんっと鼻を鳴らすドラゴンさん。自分が褒められているかのようにご機嫌だ。
主人公のドラゴンの鱗が黒であるところもお気に入りポイントなのだろう。
たーちゃんが『おじちゃんのえ』だと言っていたのもこれが理由だった。
「よっつしかなかった。でもねぇ、すれちがったこがいっこもってた! たーちゃんそれでいいなぁってなったら、ジゼルがかってくれたのっ!」
「すれ違った子とやらもなかなか見どころがある。我が残りの話を聞かせてやってもいいが、これは絵があった方がいいからな……。色々読んだが、これが一番ドラゴンをよく描けておる」
「作者がドラゴン使いか、その番だったのかもな」
「そう言われても納得できる出来だ」
ドランとドラゴンさんはウンウンと頷き合う。
ドラゴンあるあるが書かれているかも、と思うとジゼルも本の内容が気になってくる。
たーちゃんも気に入っていることだし、シリーズを全て揃えるのもいいかもしれない。
残りの本もお取り寄せできないか、今度本屋の店主に聞いてみよう。
「我も久々に絵本が見たくなってきた。たーちゃんよ、我が読み聞かせてやろう」
「やったぁ~」
たーちゃんはドラゴンさんに絵本を渡し、その場にぽてんと腰を下ろす。
「『ドラゴンとうさぎ』」
始まりの合図となるタイトルを読み上げられたら、たーちゃんの意識が吸い込まれていく。
そして後ろにいたジゼルとドランもまた、ドラゴンさんの読み聞かせに夢中になるのだった。
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