11.ブランド化
「ありがたいお話ではありますが、今のところ錬金飴くらいしか売るものがなく……。ドワーフさん達からの申し出も特殊な例というか、多分ほとんどがお酒の材料として消費されるかなと」
満月の湖からの限定ボトル生産依頼は別として、現在ジゼルが販売しているのは錬金飴のみ。
種類も三種類と決して多くはない。『ジゼルの錬金飴』の一言で完結してしまえるものなのだ。
今回も販売の形こそ若干変更はするが、わざわざブランド化してもらうほどのようなものではないような気がする。
「あたしも今のままでいいと思うけどねぇ」
女将さんもジゼルと同じ意見のようだ。
たーちゃんはよく分からない話よりもチーズケーキに意識を取られている。
すでに綺麗になってしまった自分の皿と、まだほとんど手がつけられていないケーキとを見比べてしょんぼりする。
「もうちょっとたべたかった」
「よろしければ私の分をどうぞ」
「いいのぉ?」
「私はまた作ってもらえますので」
「ありがとぉ〜」
お付きの人からケーキを譲ってもらったたーちゃんは、お気に入りとなったケーキを口いっぱいに頬張った。
「実は少し前から冒険者ギルドと複数の配達ギルドから、錬金飴販売権に関する話が持ちかけられたんだ。なんでも赤い錬金飴には体温を一定以上に保つ効果があるらしい。効果は今回申し出があったギルドの全てで検証済み。寒冷地での低体温症や凍傷などのリスクが大幅に下げられることから、当面は赤の錬金飴をメインに売って欲しいそうだ」
「そんな需要が……」
ジゼルは思わず呆けた声を出す。
そんな効果があるとは、作った本人すら知らなかったのである。だが特段おかしな話ではない。
なにせ寒さは腰痛の天敵でもある。日中は痛くなくても、夜になって冷え込んだ時に痛みが再発するなんてことも。夜は疲れが溜まるのも痛みがやってくる原因の一つかもしれないが、温度の変化はジゼルも考えていたことだった。
「まとめて売るならドワーフの話と同じようにギルドを介した方が楽だろうと考えたのが一つ。もう一つは急激に広がりつつあるこの段階でルール違反を取り締まる存在を増やして置きたいと考えた。まぁ冒険者ギルド側としても、ルールを守れない者が出てくる前に分かりやすい抑止力となる存在を掲げておきたいって思惑もあるんだろうよ」
「たーちゃん、ジゼルひびえるひほひはぁい」
チーズケーキを頬に入れたままモゴモゴと口を動かす。なんとなく言いたいことは分かるが、喉に詰まらせてしまわないか心配だ。
ジゼルがお茶を差し出すと、ゴクゴクと一気に飲み干した。ぷはぁと息を吐いてから、こてんと首を傾げる。
「ねぇねぇ、ぶらんどってなぁに?」
今までチーズケーキに夢中だったこともあり、ワンテンポ遅れている。
だがヴァネッサは嫌な顔することなく、たーちゃん向けに噛み砕いた答えをくれる。
「宿屋ギルドの中に、ジゼルさんの錬金アイテム店を作るみたいなもんだよ。今はこの宿の中での販売がメインだけど、他で売るってなった時にジゼルさんのだって簡単に伝わる方法があったら便利だろう?」
「たーちゃんは?」
「そうだったね。あんたとジゼルさん、二人の店だ。飴以外にも何か売りたいものが出てきた時はこのブランドから売り出せば、客にはジゼルさんとあんたが作った新作アイテムだと伝わるはずだよ」
「ジゼルとたーちゃんのぶらんど」
たーちゃんの顔に笑みが広がっていく。嬉しそうだ。
「ひとまずこちらが考えているルールは、ジゼル様と宿屋ギルドが許可した直営店のみ錬金飴の販売が可能。販売方法はバラ売りのみ。価格はこちらで販売している価格より少し高め。宿屋ギルドとそれぞれのギルドの手数料をかけるのはもちろん、この店での販売分と差別化するためにも、ジゼル様の取り分は一割以上増やします。こちらの値段に関しては譲るつもりはございませんのでご了承ください」
後半に行くに従って彼女の声が力強いものになっていく。
ジゼル側にメリットがある条件なのに、相手が強気で攻められている気分になる。
ジゼルがドワーフ達への販売価格を上げることを渋っていたからだろう。
だが先ほどのヴァネッサの言葉もあり、宿内での販売とほとんど変わらない形式となるこちらの値上げはすんなりと受け入れられる。
「すでに冒険者ギルドはギルド所属者にのみ販売、配達ギルドはギルド所属者への配布のみ、という条件で合意は得ている。だからメインユーザーである貴族の購入方法は今と変わらないはずだよ。まぁ生産量が増えるのだけはどうしようもないけど、こちらとしても無理な注文を受けるつもりはない。あくまでもジゼルさん達が作れる範囲で作ってもらって、こちらに送ってもらったものをそれぞれに販売って形になる。ジゼルさんとうちでそれぞれ銅貨二枚ずつ乗せて、あとは相手次第だけど常識的な範囲で収めさせるつもりだよ」
「分かりました。その条件で進めていただければ」
「それから、これはできればでいいんだけどね、宿屋ギルド内でも宿で販売したいって声が上がってる。宿屋での販売は大きな宿やイベント期間中のみの限定販売がメインになると思う。この話も一緒に進めても構わないかね」
中小規模の宿屋のメイン利用客は冒険者である。冒険者ギルドでの販売を開始するのであれば、宿屋での販売利益はあまり期待できない。
宿屋での販売の方を安くして、冒険者が一気に詰め寄せれば宿屋側の負担になってしまう。
ならば初めから観光での利用者が多い宿とシーズンに限定してしまおうというわけだ。
販売したいという声が上がったのはもちろん、大きな宿でも販売してもらうことで、宿屋ギルドのブランドであることをより印象付ける効果もあるのだろう。
「もちろんです」
「色々と頼んじゃって悪いねぇ」
「いえ、こちらこそお手間をかけさせてしまって申し訳ないです」
「仕事を増やしちゃったお詫びは何がいいか」
「そんな……お気になさらず」
「ちーずけーき!」
遠慮するジゼルとたーちゃんの元気な言葉が重なった。
「チーズケーキだね。その他にもいくつか日持ちしそうなお菓子でも見繕うとしよう」
同時に放たれた言葉のうち、採用されたのはたーちゃんの方だった。ヴァネッサはよいしょと立ち上がる。
「それでは失礼します」
お付きの人はヴァネッサの身体を支えながら、小さく頭を下げる。ジゼルも慌てて深く頭を下げた。
ヴァネッサ達を見送った後、ジゼルとたーちゃんはすぐに錬金飴の生産に取り掛かることにした。
ドランが仕事終わりに来てくれる時までに、ドワーフの里に持っていく分を作っておきたかったのである。
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