10.ヴァネッサからの提案
「それで袋の話に戻させてもらうけど、袋本体はこれで問題ないと思う。ただ、こうやって袋を別に作るのであれば価格はもう少し考えた方がいいと思うね。配送料を別に取るにしても、手間を考えて最低でもジゼルさんの方で一割はかけた方がいい」
「で、でも一つ一つ包む手間とかはかかりませんし、瓶を作るのとコストもあまり変わりません。袋ならあまり場所も取りません。なのでここから宿屋ギルドさん側の取り分をご相談できればと」
ジゼルが提示した額は金貨五枚。錬金飴の通常販売価格にそのまま個数をかけた額である。袋代を換算すべき、というヴァネッサの意見も分からなくはない。むしろ商売人として正しい意見だ。
だが販売価格は金貨五枚に、宿屋ギルドの取り分を載せた価格になる。
協力してもらう以上、宿屋ギルド側の取り分を低めに設定してもらうような交渉も避けたい。
注文が入ってから宿屋ギルドに送るにしても、倉庫コストもある。置き場というのは案外馬鹿にならないものである。
現状の販売形式であっても、数日分のストックを多めに作っておくだけで客間がいっぱいになってしまうのだから。
そんなジゼルにヴァネッサは苦い表情を浮かべる。
「あまり高くしたくない気持ちは分かるよ。自分の利益よりも誰かに寄り添いたいと思うジゼルさんだからこそ、錬金飴っていうアイテムが生まれたことも。でもね、錬金飴を作れるのはあんただけなんだよ。別に手間をかける依頼が来たなら、増えた手間分はきちんともらうべきだ。それが今後も生産と販売を続けていくため、そして客といい関係を築き続けるために大事なことなんだよ」
ヴァネッサが言っていることは、錬金飴の販売を始める際に女将さんが値段付けしてくれたのと同じなのだろう。
あの時、お試し価格だと書くように言ったのは、発生するかもしれないトラブルを未然に防ぐためだということは理解していた。
どちらもジゼルを思ってのこと。分かっているのだ。
だが一割。最低でも一割かぁ……。
未だ大きな金額を扱うことに慣れないジゼルの肩にズッシリとのしかかる。だが女将さんはアッサリと解決案を提示する。
「なら値段はそのままにして、訳あり品を混ぜて入れればいいんじゃないかい?」
「訳あり品?」
「大袋で大量に買った分は全部酒に溶かしちまうんだろう? なら多少形が歪だったり欠けてたりしても気にしないんじゃないかと思ってね」
「ああ、初めにこの宿でサンプルとして配っていたやつかい?」
「そうそう。最近は綺麗なのが多いけど毎回いくつかは避けてるから、それも売り物にしちまえばいいんじゃないかと思ってね。それにジゼルの瓶と違って袋だとどうしても割れやすくなるから、クレーム対策にもなる」
「その方法であれば、配送コストを抑えられますね」
通常販売分から弾かれた分とはいえ、内容は同じ。重さも大体同じにすれば不平等にはならない。
「ジゼルさんはどうだい?」
「私もいいと思います。念のため、ドワーフさん達にこの話を聞いてもらった上で進められればと」
「分かった」
「それではジゼル様の取り分に一割かけたものと、訳あり品を含むもの、その両方のケースでの販売価格を算出したものを明日送らせていただきます」
「お手数おかけします」
深々と頭を下げる。
たーちゃんもジゼルの真似をして「おねがいしまぁす」とペコリと頭を下げる。
てっきり話はここまでだと思ったのだが、ヴァネッサの付き人が何やら新たな紙を取り出した。
「それじゃあここからはあたし達からの提案だ。ジゼルさんさえよければ、宿屋ギルド内にジゼルさんのブランドを作らないかい?」
予想外な提案に目を丸くする。
ブランド化ーー生産職なら自分の店を構えることの次に憧れることだ。ギルド内で地位が確立した錬金術師に与えられる称号と言ってもいい。
ジゼルが以前所属していた錬金ギルド『精霊の釜」はどの分野においても優秀な錬金術師が所属していたこともあり、ギルド内でブランドを立ち上げることはなかった。
代わりに優秀な錬金術師の名前そのものが知れ渡るのである。
先日再会したリュカも、『医療分野のリュカ=フォークス』の名で有名である。
だが錬金ギルドの中にはそれぞれの分野に特化したギルドも多い。そういうギルドには必ずと言っていいほどブランドが複数存在していた。
まさか錬金ギルドを離れ、宿屋ギルドに入った後でブランド化の話が舞い込んでくるとは思わなかった。
ジゼルとてブランド化に憧れはある。またとない機会だとも理解している。
だが一つ、大きな問題があるのだ。




