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6.ドラゴンさんとドワーフとの関係

「ねぇドラン」

「何か気になることがあったのか?」

「ここだけ別の人が書いたの?」


 ジゼルは『白・青 大歓迎。色味の違う青を複数欲す』の部分を指さす。


 内容自体は気にするようなことではないが、なぜかこの一文だけ筆跡が違うのだ。それにこれまでの文と比べて、文字や前後の文との間に余裕がない。ここだけ書き終わった後に他の人が付け加えたかのよう。


「ちょっと見せてもらっていいか?」


 ドランはジゼルから受け取ったメモをじいっと観察する。

 そして眉を寄せた。


「なんでガーネットがジゼルのガラスを欲しがるんだ?」

「ガーネットさん?」

「前に我が連れてきてやった奴のところの末娘だ」

「だがガーネットはガラス職人じゃない。人形や人形のためのアイテムを作っているとかなんとか言ってたような?」


 ドランがガーネットと話すのは、彼女が両親の工房の手伝いをしている時だけのようで、詳しくは知らないそうだ。


 文字を見て書いた相手が判断できたのも、ガーネットの筆跡が特徴的だったから。ドラゴンさんも「このカクカクした字はまさしくあの娘の字だな!」とすぐに気付いたほど。


「ガラスの家具を作りたいのかな」

「ならおやっさんに頼めばいいと思うんだが……」


 なぜ手紙を書いた父を通さずに書き足したのか。

 ドランはそこが気になるようだが、今日ドワーフの里を訪れた際、ガーネットと彼女の父との関係は相変わらず良好に見えたようだ。


 付け加えられているのも色の指定だけ。

 またジゼルが直接取り引きするのは彼女の父親であることから、欲しいガラスがあれば直接父と交渉するだけだろうから問題視する必要はないだろうとのことだった。


「ジゼルがこの条件で構わないということであれば、ガラス玉と錬金飴の用意が出来次第、俺がたーちゃんを連れて行ってくる」

「私も一緒に行っちゃダメかな」

「ダメではないが、ジゼルが行くなら巣の完成後まで待って欲しい」

「あ、私も行ったら時間がかかっちゃうもんね」


 ドワーフの里に行ってみたい気持ちはあるが、ドランの邪魔をする気はない。

 少し寂しいが、今回は一人でお留守番していよう。


 この機会に部屋の大掃除をするのもいいかもしれない。

 最近使っていない素材も確認しておきたいし……。


 すぐに気持ちを切り替えたジゼルだったが、ドランは傷ついたような表情を浮かべている。


「そうじゃ、ないんだ……。巣作り中に番を巣以外の場所に連れていくと、周りの奴らがジゼルを俺の番だと正しく認識しない可能性がある。祖父もその前も、巣作りを行わなかったから。俺が作った巣はここにあると周知しないと。俺はジゼルを奪われるのも、ジゼルが侮られるのも許せない。だけどジゼルのための巣に手を抜きたくない」

 

 眉を下げ、苦し気に声を紡ぐドラン。

 ジゼルは、ドランの言う『巣作り』は一般的な家作りと同じ意味だと思っていた。言い方が違うだけなのだと。だが『巣作り』という言葉にはもっと多くの意味が込められていたらしい。


 まさか番の存在を周知する意味もあったとは……。

 周知していると知った今も、あまり実感がない。ジゼルの生活が今までとあまり変わらないからだろうか。


 ジゼル自身も巣作りに加われれば心持ちも変わるのかもしれないが、強いこだわりがあるのなら無理に参加して邪魔になりたくはない。


 ドランは『巣以外の場所はダメだ』と言うが、近くに買い物をする程度では止められることはなかった。ジゼルの今までの行動範囲で生活する分には、彼の中のルールから外れることはないのである。


「分かった。巣作りが終わった後に連れて行ってもらえると嬉しいな」

「ごめんな……」


 しょぼんと肩を落とすドラン。

 だがジゼルがこれといって不便を感じることはない。ただ今回留守番していればいいだけなのだから。


 そんな彼にドラゴンさんが意外な言葉を告げる。


「今度と言わず、今回連れていけばいいだろう」

「なっ!」


 その言葉はジゼル以上に、ドランにとって衝撃的だった。

 目を見開き、フルフルと震えている。


「ドワーフの里にある小屋はかつて我と坊の先祖が建てたものだ。あれも言うなれば『我の巣 ドワーフ支部』のようなものだ。それに我らとあの里のドワーフに代々交流があることは有名だ。これを機に、ドワーフ族に番になった報告に行ったと思えばいい。ついでに世界樹に続く穴にでも行ってこい」

「世界樹に続く穴?」

「なんだ、それ?」


 ジゼルとドランがこてんと首を傾げる。

 すると今度はドラゴンさんも不思議そうに首を横にした。たーちゃんも一緒になって「たーちゃんもしらないよぉ」とアピールする。


「話を聞いておらんのか?」

「初めて聞いた」

「我の相棒達は番ができると世界樹に続く穴に行き、祝福を受けてきた。あやつもそのことを知っておるから、坊が娘を連れてくるものだと思って声をかけたのだと思うぞ」

「そう、なのか?」

「娘を坊の番と認めていなければ、自分達の住み処が世界樹の影響を強く受けている証拠でもあるペレンナの実など差し出すわけがあるまい」

 

 ペレンナの実に限らず、その地域に生息している他の植物も世界樹の影響を受けている可能性は大いにある。中には特別な力や生態を持つ動植物もいるはず。


 ドラゴンさんの言う通り、『ペレンナの実が採取できる』という情報から得られるものは大きい。この情報を悪用する人やたくさん採取してしまおうという人も出てくるはず。


 目の前の酒は信頼の証であり、ドラゴンさんと彼の相棒が築いてきたものでもある。


 ドラゴンさんが瓶の中のペレンナの実を全て回収しようとしたのは、ただ美味しいからというだけではなく、ドワーフの信頼に応えようとしたからなのかもしれない。


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