5.興味はあるが
「というわけで坊よ、瓶の中から実を取り出すのだ」
「実の部分は人間が食べられるものではない、ということは理解した。だが珍しい植物なら錬金術の素材になるんじゃないか? それにジゼルが食べられなくてもたーちゃんは食べられるだろ? ジゼルへの土産なんだから、全てジゼルが受け取る権利がある」
「ぐっ」
ドラゴンさんは痛いところを突かれたようだ。
一瞬だけ表情を歪ませ、すぐにそれらしい言葉を探し始める。視線を右へ左へと動かしたが、良い案は浮かばなかったようだ。しょんぼりと落ち込んでしまった。
弟分に送る算段までしていたほどだ。よほど楽しみにしていたに違いない。
ジゼルは彼の楽しみを奪ってしまっているようで、途端に申し訳なくなった。
初めて見る素材な上、入手も困難。
興味がないと言ってしまえば嘘になる。
その場限りの言葉を紡いだところでドランとドラゴンさんに気を使わせるだけ。
先ほどたーちゃんがクッキーを半分こしてくれたように、ドラゴンさんに少し多めに分けるのが一番平和ではある。
だがジゼルがもらったとしても使わなければ無駄になるだけ。
実際、先ほど錬金飴の新規依頼が複数入ったばかり。ストックにはまだ余裕はあるが、瓶の生産も急がねばならないことを考えると、数日は錬金飴にかかりきりとなる。
ドワーフさんがガラス像の生産を引き受けてくれるのであれば、彼の手が空いたタイミングで取り掛かれるよう、素材となるガラスは早めに渡しておきたい。
もちろん、その間に宿屋の手伝いを怠るつもりもない。
そう考えると、作り慣れたアイテムをベースにするか、使い慣れた素材を使うのであればまだしも、初めて目にする素材を使って新たなアイテムを作る余裕が今のジゼルにはない。
一般的な素材であれば、乾燥させたり保存液につけたりすることで長期保存が可能だ。
ただし今回の場合、錬金飴と反応して状態が変わってしまっている。乾燥や保存液につけることで、酒や魔力が抜け、さらに状態が変わってしまう恐れがある。
記録を取りながら保存していくとなると手間がかかる上、錬金術に使える実の量も減っていく。またペレンナの実自体、今後手に入る見込みがない。
珍しい植物をジゼルの興味を満たすためだけに使うのは勿体無い。
ならば答えは一つだ。
「ペレンナの実を使って作りたいものは今のところないから、美味しく食べてもらえるならその方がいいかな。たーちゃんが食べるなら少し分けてもらおうかなと思うんだけど、どうする?」
「たーちゃんはねぇ~あめのままがいいなぁ」
「本当によいのか? 美味いし、魔力もかなり回復するぞ」
ドラゴンさんの問いかけに、たーちゃんはフルフルと首を振った。
「いっきにいっぱいたべたらおなかぽんぽんになっちゃうから」
お腹をポンポンと叩くたーちゃん。
ジゼルはお腹ぽんぽこぽんのたーちゃんを想像し、頬を緩ませる。絶対可愛いが、見てみたいとは思わない。食べ過ぎでお腹が痛くなったら可哀想だからだ。
「ふむ。確かにたーちゃんは少量ずつ回復するのがいいかもしれんな。ということで坊よ、我の分を取り出すのだ!」
ジゼルとたーちゃんの言葉にドランも「そういうことなら」と頷く。
一度龍舎から出て、キッチンから穴あきお玉と瓶を二つ持ってきた。そして瓶の中からペレンナの実をせっせと掬い始める。中身はきっちり半分こ。
「ドランのおじさんはお酒飲む?」
「果実系の酒なら飲むけど、なんでだ?」
「実は無理でもお酒なら一緒に飲めるかなって。いっぱいあるから、ドランのおじさんにもお裾分け。ドラン達の分も取ってね」
「ありがとな」
「娘はやはり気が利くな」
ドランはふわりと笑って、普通のお玉で瓶に酒も移し始めた。
「ところでガラス像を作ってもらう条件のこと、聞いていい?」
「ああ。ガラス像を作ってもらうための条件は三つ。材料となる色付きガラスを必要数よりも三個ずつ多く渡すこと。追加したガラスの費用を差し引いた額は全て錬金飴で払うこと。たーちゃんが直接来ること。詳しくはメモを預かってきた」
ドランはお酒が入っていた箱の中から四つ折りにされたメモを取り出した。
三枚重ねてあるメモには錬金飴とガラスの使い道と、それに関する要望が記されていた。
まず錬金飴は全てシマさん特製酒を造るために使うとのこと。
今回は疲労回復効果のある錬金飴で作ったが、他の二種類でも試したいから三種類満遍なく混ぜてほしい。
大きさは通常販売分のサイズでも、ドラゴン用サイズでも。大きさはジゼルが取り扱いやすい方で構わないが、通常販売サイズの場合は包み紙が不要。一気にザラザラと入れるため、袋などにまとめて入れてほしい。
また酒との相性を見て錬金飴の種類や個数を変更する予定だが、今後も定期的な取り引きを続けていきたい。
配送についてはドランに相談済みとのことで、一度目の配達の際に料金表を付けてほしいと書かれていた。
次に色付きガラスについて。
たーちゃん像とドラゴンさん像に必要な色とガラス玉の数。
色は今回ジゼルがドランに持って行ってもらったガラス玉を使うことを前提に考えてくれたようだ。また持っていってもらった色以外の色もあれば買い取りたいとのこと。
そこまで読んで、ジゼルの視線がピタリと止まった。




