12.調合が終わった後は
サミュエルがクラバットに使った布はおそらく、いやほぼ確実に先日ジゼルとたーちゃんが枕カバーとして贈ったものだ。たーちゃんは「あれぇ?」と不思議そうだ。
「ねむねむさん、まくらかばーよりくらばっとぉ? のほうがよかったのかなぁ。たーちゃんまちがえちゃったぁ?」
「大きめの布を渡したから枕カバーとクラバットの両方に使ったのかも」
普通の布とは勝手が違うため加工するのは大変そうだが、彼にはその道のスペシャリストが付いているはずだ。
その日のコーディネートと合わせてなんとかしてくれたのだろう。
ファッションにはとんと疎いジゼルには想像がつかないだけで、首元の葉っぱ柄がほどよいアクセントとなるような服装であったと信じたい。
ジゼルの額にはうっすらと汗が浮かぶ。
そんなジゼルの顔を、ドランは心配そうにのぞき込む。
「回収してくるか?」
「ううん、大丈夫。あれは彼にあげたものだから。何か事情があるのかもしれないし」
ごくごく普通の錬金ランプに執着するような人だ。あの布でクラバットを作るに至った、彼なりの理由があるのだろう。
予想外の動きをするものの、悪意がないのは前回の一件で理解した。
今回はたーちゃんも嫌がっていないこともあり、現段階ではそこまで問題視する必要はないだろう。
「そうか? 嫌になったらいつでも言ってくれ。回収して巣の一部にするから」
「そのときはたーちゃんもいっしょにいくねぇ」
「ああ」
もしも彼の服装に対する苦情が寄せられた場合には、今後のことを考えて返却してもらうかもしれないが。その時はその時である。
ジゼルは両手を目いっぱい開いて、不穏な空気が漂っている二人を抱きしめる。
「私のためにありがとう。でも大丈夫だよ。リュカも私のこと気にかけてくれてありがとう」
「別に。錬金飴のついでだと言っただろ。あれは一度思考をリセットしたい時にちょうどいいんだ。それから、空き瓶も二十個ほど貯まっているから今度持ってくる」
「蓄光ガラス用意しておくね」
「蓄光ガラスって何? ジゼルの新しいガラス⁉ 空き瓶貯めたらもらえるの?」
ビビアンは初めて聞くアイテムに目を輝かせる。
するとオーレルがすぐさまビビアンにアピールをする。
「空き瓶ならじいちゃんがいっぱい持ってるから今度変えてもらおうな」
「じいちゃん、俺達に隠れてそんなに食べてたんだ……」
いいところを見せるつもりが、逆に孫二人に冷ややかな視線を向けられてしまった。
オーレルは鈍い声を漏らして胸を押さえる。とことん孫には弱いらしい。
「今度からはちゃんとみんなの買うから母ちゃんには黙っててくれ。な?」
「またジゼルのところ連れてきてくれたらいいよ! リュカとももっとお話ししたい!」
「ならオーレルさんが仕事に来る時に一緒に来るといい。次に来た時は僕の仕事部屋を紹介しよう」
「いいの!?」
「オーレルさんと一緒に来るのであれば、入城証も簡単に発行できるはずだ。城に戻ったら申請をしておく」
オーレルは王宮錬金術師の特別顧問を引き受けることにしたのだろう。今後もたまに会えるかもしれない。
リュカに疲労回復の錬金飴を渡すと、用事は済んだとばかりにさっさと部屋を後にした。
けれどジゼルが部屋を離れている短い間にビビアンと連絡先を交換していたようだ。アヒルの貯金箱と小さなメモを手に、ビビアンはとても幸せそうだ。
「じゃあ一日弟子はこれで終わり。ビビアン君、よく頑張ったね」
「ありがとう、ジゼル。とっても楽しかった! でも片付けするまでが調合、だよね?」
「そうだね。ビビアン君、もう少し手伝ってくれるかな?」
「うん!」
「たーちゃんもやるよぉ」
「ジゼル、残った材料は先に部屋に持って帰っていいか?」
「ドラン、ありがとう。机の上に置いておいてくれる?」
「ああ」
みんなで後片付けをする。机を拭いて、床を掃くのも忘れない。使う前の状態に戻ったら解散だ。こちらの国に来てからすぐに錬金術を始めたからだろう。ビビアンは少しだけ眠そうだ。貯金箱もフェリックスに持ってもらっている。
三人を見送り、ジゼルはたーちゃんとドランと共に自室に戻った。
「ジゼル、きょうはとってもたのしかったねぇ」
「今日は俺も混ぜてくれてありがとう。明日おやっさんにガラス玉を持って行く。それで、この色は俺が作ったんだって自慢する」
ガラス玉を手に、ドランはご機嫌だ。たーちゃんはドランの服を引っ張って「たーちゃんのももってってねぇ」とお願いしている。
製作依頼を引き受けてもらったとしても、置物が完成するのはずっと先の話だろう。けれど完成を待つのも楽しみの一つなのだ。
「私もいくつかガラス玉作るから、そっちも持って行ってもらってもいいかな」
「ジゼルも何か作って欲しいものあるのか?」
「ううん。色付きガラスの使用具合を見るために使ってもらおうかなって。たーちゃんとドランの色も追加で作るね」
さすがに依頼で使うガラス玉だけ渡すのは心苦しい。
もちろん依頼を引き受けてくれる場合には製作費もきっちり支払うつもりだ。だがそれとは別に、グラスを作ってくれたお礼も兼ねて何か渡したいと思った。
先程のドランの言葉がお世辞でなければ、色付きガラスが喜んでもらえるはずだ。
「今から作るんじゃ大変じゃないか? 行くの今度にするから焦らなくても大丈夫だぞ」
「ガラス玉ならそんなに時間かからないから大丈夫だよ。でも何色か渡したいから、一緒に色を作ってくれると嬉しいな」
「任せてくれ!」
「おひげのおじちゃんよろこんでくれるといいねぇ~」
どんな色なら喜んでもらえるか。
二人と一匹で話し合いながら、再び材料を手に取るのだった。




