7.ビビアンが欲しいもの
「びびあんはさ、おみせがほしいのぉ?」
なぜそんな質問をするのだろうか。あまりにもピンポイントな問いにジゼルだけでなく、ドランも不思議そうに首を傾げる。だが当のビビアンは疑問を抱かず、平然と答える。
「僕が欲しいのは友達。今いる友達とも仲良しだけど、みんな錬金術には興味ないから……。楽しいのにね」
話していくうちにビビアンの元気がなくなっていく。彼と近い年頃の錬金術師となるとめったに会えない。いくら有名な話に出てくるとはいえ、実際に興味を持つかは別だ。自分が熱中していることを話しあえる相手がいなくて寂しいのだろう。
リュカは良くも悪くもマイペースで、年が離れた相手にも物怖じしない子だったが、才能があってもきっとここで躓いてしまう子は多いはずだ。
兄に怒られた時よりもしょんぼりとしてしまったビビアンに、質問をしたたーちゃんも慌て出す。
「ねぇ、びびあん。たーちゃんがびびあんのおともだちになったげよっか?」
「え、僕達もう友達じゃないの!?」
「そうだった。たーちゃんうっかり」
「もうびっくりしちゃったよ~」
ホッとするビビアン。たーちゃんは少しだけ悲しそうに眉を下げ、ジゼルの袖を引く。
ジゼルが顔を下げると耳元で小さく「びびあんにおともだちつくったあげよねぇ〜」と囁いた。
「じゃあアヒルの貯金箱を作るためにも、作る色から決めていこうか。そのアヒルはどんな色なのかな?」
「身体はお花みたいな柔らかい黄色で、くちばしは赤とオレンジの混ざった色だよ。あ、でも二つは大変だね……。たーちゃんがいっぱいこだわるって言ってたし」
「ならビビアンは身体の黄色を作って、くちばしの色は兄ちゃんが作るのはどうだ? 細かいところはビビアンが調整すればいいし」
「でもそうすると兄ちゃんの好きな色作れないよ?」
「今まで黙っていたが、実は兄ちゃん、アヒルのクチバシの色が一番好きなんだ」
「そうだったの!?」
「ああ」
優しく微笑み、頭を撫でるフェリックス。
たーちゃんは少し羨ましそうに見つめ、ジゼルを見上げた。何も言わずに抱き上げて撫でてあげると、へへへ〜と頬を緩めた。
「柔らかい黄色だとレモンの皮とお花をメインに組み合わせていく感じかな。赤とオレンジは玉ねぎとオレンジ、リンゴをメインに、血色感を出すなら唐辛子を使うのもいいかも。量を見ながら材料を入れつつ、すり鉢とすり棒で粉末状にしてね。鉱物は色が強く出るから様子を見ながら最後に少しずつ入れるように……」
ジゼルが自室から持ってきた予備のすり鉢とすり棒、それから希望の色に合った材料を彼らの前に移動させる。ちなみにジゼルが色に唐辛子を使い始めたのはごく最近のこと。
ホットパウダーに着想を受けて混ぜてみた。今までジゼルが作る色よりも鮮やかで、けれど鉱物を使った時とは違う色を出してくれる。
まさに血が通ったような赤とでも言うべきか。
たくさん入れると調合中に目が痛くなってしまうのが難点だが、動物のモチーフを作る際に使おうと思っていた。
「あ、僕、自分のあるよ〜。兄ちゃんにも貸してあげるね」
ビビアンはそう言いながら、バッグからすり鉢とすり棒を二セット出す。その他にも錬金道具がいくつも入っている。着替えは母任せでも、こちらは自分でバッチリ用意していたようだ。
「じゃあこれはドランに。たーちゃんは私と一緒にね?」
「たーちゃんはねぇ、たーちゃんのいろがいいなぁ。それでさ、おひげのおじちゃんにたーちゃんのおきものつくってもらって、おやじさんとおかみさんにあげるんだぁ」
「お髭のおじさんってドワーフさんのこと?」
「そう! ジゼルのつくるのがいちばんだけど、こっぷきれーだったから」
たーちゃんの置物を作るとなると、錬金飴よりも細部の作り込みが必要となってくる。グラスにあれほど綺麗な細工を施してくれたドワーフなら見事な置物を作ってくれるはず。
ただしお願いするにはあまりにも時期が悪い。
今はまさに会合用のグラス作りに取りかかっていることだろう。終わった後だってその期間できなかった依頼が殺到するわけで……。たーちゃんは待てても、新規依頼をお断りされるかもしれない。
「お手紙は出してみるけど、忙しいって言われたら私ので我慢してね」
「わかったぁ!」




