3.弟子入り志願
ビビアン&フェリックス兄弟は
【閑話】王宮錬金術師採用試験会場にて
に登場した二人です。
「ジゼル、僕を弟子にして!」
「え?」
「錬金術を始めたのは最近だから難しいものはまだ作れないけど、それでもジゼルのところで学びたくて……。ちゃんと錬金釜も持ってきたよ!」
ビビアンは背中からゆっくりと錬金釜を下ろし、見せてくれる。彼が使っているのは、ジゼルが錬金飴を作る際に使っている釜と同じサイズ。持ち運びにも適しており、きっといつも持ち歩いているのだろう。
錬金釜を背負っていた紐がかなり汚れている。それでいて釜の方は綺麗なものだ。大事に使っていることがよく分かる。オーレルの孫である点を抜きにしても、ビビアンという錬金術師には好感を持てる。だからこそ申し訳なさが募っていく。
「えっと、私、弟子をとれるほど凄腕の錬金術師じゃないんだ。ごめんね」
「そんなことない! 僕にとって、ジゼルは二番目に尊敬する錬金術師なんだ! じいちゃんが大事に飾ってるジゼルの錬金ランプはさ、何層にも青が広がってて、綺麗だけどちょっと怖くて、そこが本物の海みたいだった! 王宮錬金術師が作ったランプも凄いけど、ジゼルのはそのまま飾る時とランプとして使う時、両方の色の見え方まで考えられてて、ガラスの厚さとか重ね方も全然違ってさ! とにかくすっっっっっっっごいんだぞ!」
ビビアンは両手をギュッと握りながら力説する。
だがジゼルが驚いたのは褒めてくれた言葉の方ではない。
「オーレルさん、あれまだランプとして使ってくれてたんですか!?」
ビビアンの話の中に出てきた錬金ランプは六年近く前にプレゼントしたものだ。
長く使ってもらえるようにとの思いで、錬金ランプとしての役目を終えた後は通常のランプとして使えるような設計にしてある。ただ、魔力を注ぐだけの錬金ランプとは違い、メンテナンスに少し手がかかってしまう。
ビビアンと会ってほしいと書かれた手紙の内容から、今も飾ってくれているのだと嬉しくなったものだが、ランプとしても使ってくれているとは思わなかった。
「もちろん。宿屋の夫婦は何かの節目には必ず祝ってくれるが、ジゼルまで贈り物をくれるなんて思っていなかった。後にも先にも、ギルドマスターとしての私を祝うために錬金アイテムを送ってくれたのはジゼルだけだ。私にとってジゼルからもらった錬金ランプは、ギルドマスターをしていた証しみたいなものなんだよ」
孫からねだられた時も譲らなかった、と戯けて見せる彼に胸がじいんと温かくなる。
ドランはそんなジゼルの手を握り、小さく「よかったな」と一緒に喜んでくれる。
「ジゼルが二番なら一番はオーレルさんか」
「違うよ。一番は僕の母ちゃん。僕、母ちゃんに憧れて錬金術始めてさ、まだ簡単なものしかできないけど、それも全部母ちゃんが教えてくれたものなんだ。だからジゼルでも一番は譲れない」
心底申し訳なさそうにするビビアン。
本当にお母さんのことを尊敬しているのだろう。ジゼルも職種は異なるものの、祖母を尊敬しているから彼の気持ちがよく分かる。
そしてソワソワとし始めるオーレルさんの気持ちも。
「ビビアン、ビビアン。おじいちゃんは何番目なんだい?」
「え? じいちゃんは入ってないよ? だって僕、じいちゃんが錬金術使っているところ見たことないもん」
「ぐっ……」
キョトンとした表情のビビアンから放たれた鋭い言葉は、オーレルに大きなダメージを与えた。胸を押さえて苦しそうだ。
あまりにも可哀想で、すかさずフェリックスがフォローを入れる。
「玄関の所に飾ってある花瓶はじいちゃんが作ったやつだぞ。ビビアン、前に色使いが綺麗だって褒めてただろ?」
「違うよ、あれは母ちゃんの。ずっと前に酔った父ちゃんが手を引っかけて割った時に丈夫なの作り直したって言ってたもん。丈夫だから僕がお手伝いしても大丈夫なんだ」
「え、変わってたの全然気付かなかった」
「フェリックスは小さい頃からじいちゃんの錬金術を何度も見てるはずなのに違いに気付いてなかったのか……」
ますます落ち込んでいくオーレル。
だがフェリックスは励ますどころか追い打ちをかけていく。
「だ、だって仕方ないだろ! ここ数年、じいちゃんはうち来ても湯治に行くばっかりで錬金術も作ったアイテムも全然見せてくれなかったし。部屋にも小さい釜が一個あるだけで、それだって置物みたいになっちゃってるじゃないか!」
「つかわれないのはさみしいねぇ……。そのこもジゼルのへやくる? ジゼルのおへやのこはみんななかよしだから、ぜんぜんさみしくないよぉ?」
まさかたーちゃんまでフェリックスサイドに加勢するとは……。
なんと返事をしたものか。ジゼルは視線を彷徨わせる。オーレルも多忙だったから仕方ない、なんて無難な言葉を並べたところで言い負かされるだけな気がしてならない。
だからと言ってちょうどいい言葉が浮かんでくることもない。それがジゼルの返答になってしまった。
絶望の淵に落とされたオーレルはプルプルと震えながら俯いた。そして熟考の末、ポツリと言葉を落とす。
「……私が使う。帰ってメンテナンスをしたらまた錬金術を始める」
「本当に!?」
「ああ、じいちゃんは凄いんだぞってところを見せてやろう!」
顔を上げて宣言したオーレルに迷いはなかった。
隣で孫二人が小さくガッツポーズをしていたことに違和感を覚えつつ、ジゼルはオーレルの復帰を喜んだのだった。




