書籍化記念SS ドランの仕事
「ねぇねぇ、ドランとおじちゃんはおそといかないの?」
錬金飴の配達依頼後、ドラゴンさんの分の錬金飴を持って龍舎に立ち寄った。ドラゴンさんに急かされ、ドランはせっせと飴の包み紙を解いていた時のこと。
たーちゃんはおもむろにそんな疑問を口にした。
「どこか出かけたいのか?」
「ううん。とりさんたちはたくさんおそといくけど、ドランとおじちゃんはいつもいるからどうしてかなぁ~っておもったの」
「ああ、そういうことか。坊は我の相棒だからな、我に依頼が入った時しか配達の仕事をせんのだ」
「俺達は依頼頻度が極端に少ないけど、他の職員にもそれぞれ自分の担当があって、その依頼が入った時に相棒達と仕事に行くことになってるんだ。依頼後は担当や距離に応じて休息時間が設けられていたり、配達依頼がない間は他の仕事をこなしたりしてる」
受付仕事の他にも、受け取った荷物の整理・受付書の管理・魔鳥が使用する荷馬車や籠の手入れ・遠方から来た配達ギルド職員が休むための部屋の掃除・備品の洗濯など。配達以外の仕事は多岐にわたる。
各々自分や相棒が使う備品の整備を最優先に行うものの、繁忙期や配達頻度が多い人は手が回らないことも多い。ドランは配達に出ることが少ないからと、細々とした仕事を率先して行っている。
錬金ギルドに所属していた頃は、受付業務をしているドランと会うことが多かったが、最近はいろんな仕事をしている姿を目にする。配達依頼の荷物を持ち込む時間は今も変わらず早朝が多いとはいえ、最近はいろんな時間にドランの元に足を運ぶようになったからだろう。今みたいに仕事終わりに会うことも多い。
ジゼルと一緒に配達ギルドにやってくるたーちゃんは、他の職員や魔鳥が配達に向かう姿も頻繁に目にしている。だからこそ今回の疑問が生まれたのだろう。ドランの回答に「そうなんだぁ~」と頷いている。
「それに俺達には、他の職員にはないルールがいくつか設けられているんだ」
「るーる?」
「一番分かりやすいものだと、そうだな……。休暇には二種類あって、通常休暇は依頼が入ったら呼び出されるとかかな」
「そうだったの⁉」
思わず聞き返してしまった。
ジゼルはドランと十年来の付き合いだが、休暇に種類があるなんて初耳である。
「ジゼルと出かける日は特別休暇で、呼び出されることはないから安心してほしい」
「特別な日だったなんて……。今まで気軽に誘っちゃってごめんね」
知らなかったとはいえ、貴重な日を削ってしまっていたなんて申し訳ない。落ち込むジゼルをドランは励ましてくれる。
「ジゼルとの外出以上に大切なことはない」
なぜかドランは真顔で、言葉には力が入っている。
ドランなりに気を使ってくれているのだろうが、完全にプライベートな時間は大切だ。身体と心の二つを休めてこその休暇なのだから。どちらか片方が休めないままでは疲労は溜まっていくばかりになってしまう。
「でも」
「それに指名が優先されるとはいえ、休みであれば他のドラゴン使いに仕事が回されるだけだから。通常休暇でも呼び出されることは早々ない」
「あ、そっか。ドラン以外にもドラゴン使いはいるもんね」
ジゼルがドラン以外のドラゴン使いと会ったのは一度だけ。実家に帰省中のドランの代わりに来ていたドランの親戚である。彼の相棒の姿を見たわけではないため、ドラゴン使いであることをつい忘れそうになる。
「おじちゃんいがいにもいっぱい?」
「現役ドラゴン使いは俺を含めて四人しかいない。でも依頼はほとんどない上、配達引き受け可能荷物であれば大体は俺達が引き受けるからな~」
「働く日は働いているのだ。我が休みの日くらいは他の者が働けばいい」
「それもそう、ですね」
つまり配達ギルドのルールで休暇中でも連絡は来るものの、引き受けるかは自由であり、ドラゴンさんは休みの日に仕事を引き受ける意思はないということか。ドラゴンさんが拒否すれば、相棒であるドランもその仕事を引き受けることはない。
連絡が入る可能性があるだけでも身構えてしまい、ゆっくり休めない気がするのだが、彼らの中の通常休暇と特別休暇の境目はジゼルが想像するより薄いのかもしれない。
「だからまた一緒に出掛けよう」
ドランはそう締めくくる。
「おでかけ⁉ やったぁ~」
「我は美味いものが食べられる場所がいい」
「たのしみだね~、ジゼル」
ご機嫌な彼らを前に、あまり気にするのもよくないかと考えを改める。
そういうものなのかと知識として頭の端っこに追加するだけに留めておこう。
「うん。私も楽しみ」
ジゼルがそう告げると、ドランは嬉しそうに笑みを深めるのだった。




