書籍化記念SS 龍舎でのお茶会
「とくべつぱふぇたのしみだねぇ~」
「ね~。すっごい美味しそう」
たーちゃんはジゼルと話しながらも、視線は手元に固定したまま。
親父さんが作ってくれた『桃と紅茶のパフェ』を傾けないようにしているのだ。
ちなみにたーちゃんの手元にあるのは、背の低いカップに入ったパフェが入ったバスケット。たーちゃんも食べやすいようにと片手で持てるカップを用意してくれた。カップの頂上には、特製シロップに漬けた桃とミントがちょこんと載っている。見た目もとても可愛らしく仕上げてくれた。
一方、ジゼルが持っているのは特大サイズのボウル。こちらはドラゴンさん用だ。
ちょうどいい蓋やボウルを入れるためのバスケットが見つからなかったため、布をふわりとかけた状態で持っている。
入っているものは一緒だが、龍舎についたらお皿に移すことを想定している。
スコップケーキのように具材がギュギュっと詰まっているドラゴンさん用のパフェは、埃避けの布越しでも美味しさが伝わってくる。
今にもスキップしたいほど浮かれた気持ちをなんとか抑え、気持ちだけ早足に配達ギルドを目指す。
「こんにちはぁ~」
「こんにちは」
配達ギルドの人達に挨拶しながら龍舎に向かう。
すると寝転んでいたドラゴンさんがのっそりと動き出した。そしてジゼル達の手元に何かあるのを見つけると、途端にハッとした表情に変わる。
「食い物だな! 我のもあるか!?」
「はい。こっちの大きい方がドラゴンさんのです」
「ジゼル、たーちゃん。いらっしゃい。よく来たな。ああ、今、お茶の準備をするから座って待っていてくれ」
ドランはそう告げると、いつもはない机と椅子に案内してくれる。
どうやらおやつを食べるために用意してくれたようだ。無地のテーブルクロスは汚れ一つなく、今日のためにおろしてくれたのだと分かる。
今までお茶をする時はジゼルの部屋か、どこかに出かけることが多かった。龍舎でお茶をするのは初めてだ。ドランには机などを用意してもらう手間をかけてしまったが、少しワクワクする。ドラゴンさんと一緒にお茶できるのもいい。たーちゃんはウキウキで、おやつの紹介を始めた。
「おやじさんがねぇ、おじちゃんもいっぱいたべられるようにっておおきいのつくってくれたんだよ~」
「ドラゴンたる我に殊勝な心掛けだな」
「そういう言い方すると、今度からお前の分は作らないでほしいって親父さんに伝えるぞ」
「……礼をいう。言ったのだから早く我の方の準備もするのだ!」
「あ、私が用意しますね。ドラン、ドラゴンさんのお皿借りてもいい?」
「悪いな」
「ううん。みんなで一緒に食べたほうが美味しいから」
特大サイズの平皿を受け取る。
ボウルとパフェの隙間をスプーンでなぞる。ボウルの上に皿を被せ、よいしょっとひっくり返す。ジゼルの顔の大きさほどあるボウルは片手で支えるにはやや重い。だが今まで多くのアイテムを作ってきたジゼルはこれくらい慣れっこだった。少し揺らしてからボウルを外す。すると綺麗なドーム型のパフェが登場する。
「おお!」
ドラゴンさんの目は先ほどよりも輝いている。
たーちゃんに至ってはつうっと涎を垂らしていた。今にも飛び掛かりそうなほど。だがたーちゃんは人の物を取ったりしない。代わりに自分の分のカップを持ってきて「たーちゃんのもおいしそうでしょ~」とドラゴンさんに見せ始めた。
「うむ。どちらも美味そうだ。ところで今日のは前のフルーツサンドとは違うのか?」
「今回は紅茶と桃のパフェです。紅茶生地のスポンジの間に生クリームと特製シロップに漬けた桃が入ってるんですよ」
「桃か。桃はいいものだ」
思い出の中の味を噛みしめるようにゆっくりと頷く。
ドラゴンさんは桃が好物らしい。
「俺が止めるのも聞かずに食べすぎて腹痛くなったくらいだもんな」
「ゔっ……」
「たーちゃんも食べすぎには気を付けるようにな」
「はぁ~い」
手を上げて元気にお返事するたーちゃん。
美味しいものが大好きなのはジゼルも同じ。食べすぎないように気を付けようと心に決める。
「さて、お茶の準備もできたことだし、食べよう」
「うん。ありがとう」
ドランは話している間もお茶の準備を進めていてくれたらしい。すでに三人分のお茶が用意されていた。たーちゃんを椅子に座らせ、ジゼルはドランが引いてくれた椅子に腰かける。
そしてカップとスプーンを手に、親父さん特製パフェを掘り進めていく。
口に入れるとすぐ頬が緩んだ。
「おいしいねぇ~」
「紅茶のスポンジ生地って俺、初めて食べたんだけど、すごい美味いのな」
「桃との相性も抜群で、口に入れるとすぐなくなっちゃう」
さすがは親父さん。
今日から宿屋でケーキ販売も始められそうなほどの美味しさである。つい会話を忘れてスプーンを運ぶことに集中してしまう。
「あの人間のことは覚えておかねばな」
一足先に食べ終わったドラゴンさんはぼそっと呟いた。
相当気に入ったらしい。視線を向けると、ピカピカになった皿とは対照的に口元にはクリームとスポンジが付いている。ドランも気づいたようで、クスリと笑った。
「お前、気に入ったのは分かるけど急ぎすぎだろ。口の周りに色々ついてるぞ」
「なぬっ⁉」
ドランに指摘されたドラゴンさんは、もったいないとばかりに大きな舌でペロリと舐めとる。するとたーちゃんは真似するように自分の口元をぺたぺたと触りだした。けれどすぐにがっかりしたように肩を落とす。
「たーちゃんにはなかった……」
どうやら自分の口元に付いたものが食べられると思ったようだ。
「たーちゃん、私の分少しあげよっか」
「いいのぉ?」
「うん。食べかけだけだけど」
そう断ってから、ジゼルは自分のカップからたーちゃんのカップにパフェを移動させる。少しだけだが、たーちゃんの表情は満面の笑みに変わっていく。
「ジゼル、ありがとぉ」
お礼を告げるたーちゃんの頭をよしよしと撫でた。
「坊よ」
「俺はやらないからな」
「まだ何も言ってないだろう⁉」
「聞かなくても分かる。お前はもう十分食べただろ」
「我の身体は坊よりもずっと大きいのだ」
ムスッとした声で主張するドラゴンさん。
彼に取られないように、ドランは残りのパフェもパクパクと食べ進めてしまう。
少しだけ子供っぽい。ジゼルと二人きりの時には見せてくれない姿だ。ドランの新たな顔が見られた嬉しさと微笑ましさで笑みが溢れた。
またこうしてみんな一緒に食べられるといいな。
親父さんと比べると劣ってしまうけれど、自分で作ってみるのもいいかもしれない。
そんなことを考えながら、ジゼルはお茶を啜るのだった。




