13.小さな嵐は去って行く
三日後の朝。
例の男性を迎えるため、ジゼルはたーちゃんを抱えて外で待機する。
ジゼルの横にはドランがいる。今日はアイテムの確認がメインなので警戒する必要はないのだが、当たり前のようにペタリとくっついている。
思いを伝えた日からこうなった。ドランは意外にも甘えたがりだったようだ。撫でてほしい時は頭を擦り付けてくる。子どもっぽくて可愛い。
二人が恋人になったことは一目瞭然らしく、周りの人達はジゼルとドランのことを祝福してくれた。
ドランは仕事とドラゴンの世話が終わると、ジゼルのところに行くか巣作りをするかしているらしい。進捗を細かく教えてくれる。
「ちょうどいい木が見つかってさ、明日運んでくるんだ。だから少し来るのが遅くなる」
「分かった。あんまり無理しないでね」
「ん」
ドランはあの日、元々ギルドがあった土地が売り出されているのを発見し、購入したらしい。
具体的な場所はまだ教えてくれないが、宿からは近いところにあるようだ。
なぜかたーちゃんだけは知っていて、ドランと一緒にナイショを貫いている。仲がいいのは嬉しいが少し嫉妬してしまう。
ちなみに資材も全てドランが用意することになっている。
せめてお金くらいは出すと言ったのだが、ドランが断固として拒否。巣材集めから一人で行ってこそ番を迎えられる男らしい。家を建てるのもドラン自ら行うそうだ。
少し時間はかかってしまうが、ジゼルと一緒に暮らす家を作れるなんて幸せだと熱弁され、折れるしかなかった。
希望があれば聞くとのことだったので、とりあえず錬金術の使えるスペースが欲しいとだけ伝えておいた。
また細々とした家具なんかは家を建ててから選ぶということなので、ジゼルはそこで存分にお金を出すつもりだ。
これからも宿屋のお手伝いを続けていくつもりだが、家が完成すればそちらに住むことになる。一緒に暮らすなら、その後の生活費など出費は続く。
今のタイミングで頑なに出そうとしなくてもいいかなという結論に至った。
それにしてもドランが買ったという土地がまるで見当がつかない。
ドラゴンも一緒に住めそうなほど大きな空き地があれば噂になりそうなものだが……。ジゼルが知らないだけで前々から売りに出されていたのだろうか。謎である。
そうこう考えているうちに、例の馬車がやってきた。
「あ、来た。すごい荷物……」
「あれ、荷車引けるタイプの馬車じゃないだろ……」
「またちがうねぇ。きょうのはてかてか」
「テカテカ?」
各々感想を言い合うものの、やはり中から出てくるのは早くも見慣れた男性である。だが今日は生き生きとして見える。馬車から降りる足取りも軽い。
「今日はいい天気だな! 空が光り輝いて見える」
「くもってるよぉ?」
「疲労って溜まるとこんなになるんだな……」
「アイテムを用意しておりますので、中へどうぞ」
「ああ、失礼する」
すでに蓄光ガラスの置物は客間の机の上に置いてある。昨日一日かけて光を溜め込ませており、光るところも見せられるよう、大きめの布も借りてきた。
男を客間に通すと、想像通り、彼はアイテムをじいっと見つめた。むしろアイテムしか見ていない。見開かれた目が少し怖い。
早速アイテムについて紹介することにした。
「こちらは蓄光ガラスと言いまして、暗い場所に置くと溜めた光を放出する特性があるのですが……まぁ、見てもらった方が早いと思います。まず今は明るい場所に置いた状態です。手にとってご覧になってください」
「全体的にみどりがかっているんだな。夜光花とは若干色味が違う」
「そのままの色だと光を放った時に柔らかい色が出ないので、色々と混ぜてみました。肝心の暗い状態ですが……どうぞこの布をかけてみてください」
「……っ! これは!」
「魔力で動く錬金ランプとは異なり、溜めた光の量に左右されるのと、経年劣化によって若干明るさは変わってくるのですがアイテムの寿命は倍以上になりました」
「もらおう。お代なら荷馬車に積んである。すぐにここへ」
声をかけると、見慣れない人達が次々に箱を運び込んできた。先導しているのはいつもの付き人だ。今日は彼も張り切っている。
「あの、私が伝えたのは、夜光花の花弁を二十枚とクズ魔石を木箱にいっぱいで……」
「これは私からの気持ちだ。迷惑料もある。どうか受け取ってくれ」
「ですが……」
「ジゼル、受け取ってやれ」
「たーちゃんもぉなんかほしかったなぁ〜」
「もちろん君の分も用意した。ラベル付きの木箱の中身はレモンだ。レモネードにすると美味いらしい。料理人おすすめの蜂蜜も何種類か揃えたから好きに使ってくれ」
「たーちゃん、れもねーどすきぃ」
「それはよかった。では私は失礼する。早く、ベッドに入りたい……」
男は置物を両手で大事そうに持ち、立ち上がる。
だが彼に渡したいものは一つではないのだ。しっかりと妹の分も作ってある。ポケットから取り出し、彼に差し出す。
「あの、よければもう一つどうぞ。妹さんに」
「いいのか?」
「たーちゃんがおねがいしてあげたんだよぉ」
「感謝する。この礼はあらためて」
「もうもらったからだいじょ~ぶ」
「そうか。喜んでもらえたのならよかった」
男は深々と頭を下げ、去っていった。
後日、彼から手紙が届いた。
ここ数日熟睡できているらしい。改めての謝罪と共に、妹の現状が綴られていた。
ジゼルが渡した置物の他に、『満月の湖』の限定瓶と蝋燭も手に入れたことで無事に留学に旅立っていったそうだ。
また今回の件とは別に、疲労回復の錬金飴を定期購入したいという申し出があった。元々眠るために舐めていたが、今ではすっかりと癖になってしまったようだ。
手紙に書かれた住所と送り先が異なっていることと、大量の飴の届け先が城になっているところは見て見ぬ振りをすることにした。
何はともあれ、宿屋に訪れた小さな嵐は図らずも恋を結んで去っていったのである。




