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3.お揃い

「鍵もらってきたぞ~。荷物持つから貸して」

「自分で持つから大丈夫だよ?」

「四階で、少し大変だから。ジゼルはたーちゃんを抱っこしてあげて」

「ごめんね」

「ううん。階段は大変だけど、景色はいいみたいだから」

「たのしみだねぇ」

「ね~」


 ご機嫌で階段を上がったジゼルだったが、ゆっくりと首を傾げた。

 そしてハッとした。


「ドランもこっちに泊まることにしたんだね」

「俺はギルドに泊まるぞ?」

「広すぎない?」

「狭いよりいいだろ」

「たーちゃん、きょうここでねるぅ!」

「そこはソファだ」

「どくせん」

「どこで覚えたんだ、その言葉。まぁいいや。準備したら行くぞ。遅くなるともっと混むらしいから」

「あ、うん。ちょっと待っててね」


 ドランに運んでもらった荷物の中からたーちゃんの抱っこバッグを取り出す。


 身体の前にセットしてからすっぽりとたーちゃんを入れる。少し位置を調整してから、銀貨と銅貨の入った財布はバッグのポケットへ。


「つらくない?」

「だいじょーぶぅ」

「ジゼルも辛くなったら言ってくれ。俺が代わるから」

「うん。その時は頼むね」

「ああ。そうだ、一番先に目指すのはホットパウダーの店でいいか? 受付で聞いたら夕方には売り切れてるらしくて、結構並ぶらしい」

「なら途中で飲み物とか軽く食べれそうなもの買っていこう」

「そうだな」


 部屋を出て、受付でもらってきたという出店図を見ながら歩く。

 ホットパウダーの店は一番奥。辿り着くまでにザッと店を見て歩けそうだ。人混みに入る前にドランに手を伸ばすと、何も言わずぎゅっと握ってくれた。


「こっちだな」

「うん!」


 些細なことだが、嬉しくて思わず頬が緩む。


 ホットパウダーの店へと向かう途中、ジュースとクッキー、チキンを買った。


 クッキーは『芽吹き』をイメージしたもので、様々な植物の葉が描かれている。チキンはまるまる一匹を焼いてからカットしたものがカップに入って売っていた。


 どちらもたーちゃんの希望で買った。

 クッキーはたーちゃんの抱っこバッグに入れ、チキンの入ったカップはジゼルの手の中にある。


「じぜるぅ」

「ちょっと待ってね~」


 たーちゃんの大きく開かれた口にチキンを運ぶ。ピックは三つ付けてもらったので、ジゼルも自分のピックにチキンを指した。


「ドランは?」

「ああ、俺も食べる」

「あー」

「ピックでいいよ」

「でも手、埋まってるでしょ」


 ジゼルの言葉にドランは困ったように視線を彷徨わせる。けれどすぐに少し大きめに口を開ける。


 彼もチキンの美味しそうな香りには勝てなかったようだ。ピックに刺し、ドランの口に運ぶ。


「美味しいでしょ?」

「ああ」


 頬を膨らましながらもぐもぐと口を動かすドラン。少しだけ頬が赤い。

 ジゼルが食べたチキンはほどよく冷めていたが、熱いところに当たってしまったのかもしれない。


「ドラン、熱かったら私のジュース飲んでいいから」

「大丈夫」

「そう?」


 遠慮しなくていいのに。

 そう思いながらじっと見つめていると、ひゅーっと口笛が聞こえてきた。人混みの中でもよく響く音だ。


 音がした方向を見ると近くの店の店主が発した音だった。


「そこのおあついお二人、こっちも見てってくれよ~」

「私達のことですか?」

「たーちゃんもいるよぉ」

「カップルだと思ったが、夫婦だったか。新婚か?」

「未婚です」

「秒読みってやつだな。分かる分かる。それよりさ、うちのは愛し合う二人から評判いいんだぜ。今回の思い出にどうよ」


 店主はジゼルの否定を適当に受け流す。そしてこっちこっちと小さく手招きをする。


 すぐ近くだったこともあり、少しだけ視線を向ける。

 店に並んでいたのはアクセサリー類だった。左右で置かれているアイテムが異なるが、リンクしているデザインが目立つ。


 男女で似たデザインを選べということか。

 ここに来る途中、似たようなアイテムを着けている男女を見かけた。この店の商品だったようだ。


「可愛いね」

「たーちゃん、このりぼんほしい」


 たーちゃんが指さしたのは赤いストライプのリボン。

 錬金飴の包み紙とよく似ている。


「ジゼルはどれがいい?」

「私もリボンにしようかな。新緑色の」

「お姉さん、お目が高い。それは今年の雪解け祭りの限定デザインだ」

「毎年違うんですか?」

「毎年大地に感謝し、葉がモチーフとなったアイテムだけは新しく描き下ろすんだ」


 なるほど。寒期の終わりを祝い、新たな芽吹きを願う雪解け祭りらしい。

 話を聞いたらますます気に入った。凝った髪飾りはそこそこのお値段だが、リボンなどは手が届きやすい価格に設定されているのもありがたい。


「ドランはどれにするか決まった?」

「俺はいいよ」

「折角だから買っていこうよ。私がお金出すから」

「お兄さん、これがオススメだよ」


 店主が勧めたのは新緑色の石がはめ込まれた革のブレスレットだった。

 ジゼルが選んだリボンに描かれた葉と同じ色だ。


「それで。いくらですか」

「え、私が払うよ」

「いいから」


 ドランは即決し、ささっとお金を払ってしまう。

 そして片方のジュースをたーちゃんに持ってもらい、買ったばかりのブレスレットを腕に着けた。


 普段、アクセサリーなんて着けないのに珍しい。持っていてなくすのが嫌だっただけかもしれないが。


 たーちゃんもドランの真似をして、首元で蝶々結びにした。


「じぜるもつける?」

「手元が空いたら着けようかな」

「じゃあはやくたべなきゃ。ね、どらん」

「急がなくていいだろ。まだまだ先は長いんだから」

「え~」

「あ、じゃあドランみたいに腕に巻こうかな。たーちゃんやってくれる?」

「うん!」


 たーちゃんはご機嫌でジゼルの腕にリボンを巻き付ける。

 邪魔にならないようにと結んでくれた蝶々結びは、新たに開いた花の元へとやってくる蝶々のようだった。

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