2.ドランからのお誘い
「女将さんから今は客足も少なくて暇だって聞いてさ。あいつもジゼルの飴気に入ってて、ジゼルとたーちゃんなら乗せるって張り切ってるんだ」
だから行こう、と誘われ、ジゼルの表情も明るいものへと変わっていく。
「そういうことなら! ちょっと女将さんに相談してくるね」
今は南方で大きなイベントをやっており、毎年常連さん達は貴族の護衛や付近の魔物退治で忙しい。それに伴い、宿屋は三日前くらいからわりと空いている。
この時期はいつもよりも念入りに掃除をしたり、空いている時間で錬金飴を大量に作ったり。案内文を作れるのも余裕があるからだ。
来週には予約がいくつも入っているので、またバタバタとし始めるが、今なら出かけられるかもしれない。
ジゼルが声を弾ませると、たーちゃんもるんるんと踊り出した。
「ぱんけーき! たーちゃんもたべる」
「一緒に食べに行こうね~。ドランはいつがいい?」
「ドラゴンで行くって連絡しておかないとだから、明日は無理だけどそれ以降ならいつでもいい」
「分かった。行ってくる」
たーちゃんを抱っこし、自室で休んでいる女将さんの元へと向かう。
趣味の読書をしているところだったようだ。すみません、と断ってから、ドランとの話を伝える。
「ドランと! いいわねぇ。明後日にでも行ってきなさい」
「ありがとうございます。お土産買ってきますね」
「ああ、美味しそうなものを市場で買ってきておくれ」
背中を押される形でドランに返事をする。
明後日出かけることに決まり、彼を見送る。
フルーツがたっぷりと載ったパンケーキが楽しみなのはもちろん、ドランにお礼をしたい。早めにお礼を、とは思っているのだが、なかなか機会がなく、未だたーちゃんの時のお礼ができていないのだ。
連れて行ってもらうのだから代金くらいは払わせてもらおう。幸いにも錬金飴の売り上げはいい。懐はかなり温かいのだ。
何かドランが気に入りそうなものがあったら贈り物でも……。
「そういえば私、ドランの好みを知らないんだよね……」
「どらんはねぇ、じぜるがだいすきなんだよ。たーちゃん知ってる!」
「嬉しいけど、そういうのじゃなくて。好きな食べ物とか知りたいな~と思って。ドランって何でも美味しそうに食べるし、何あげても嬉しそうだし、いつも楽しそうで。付き合い長いのに」
「いつもうれしそうでたのしそうなのはいいことだよ?」
「それもそっか」
たーちゃんの言葉ももっともだ。
好みが似ているだけかもしれない。深く考えすぎるのは止めて、とりあえず代金を払わせてもらうことを第一に考えよう。
今までも何度か伝えているのだが、割り勘に持っていくのが精一杯。美味しそうに嬉しそうに食べている姿を見ているだけで楽しいと言って、奢られてしまうことも。
冷静に考えるとパンケーキ代だけでは足りないような気がしてきた。
今回のお出かけでドランの好みを知る機会があればいいのだが……。
ドランが去って行った先を見つめながら考える。すると目の前に大きな影ができた。
「ジゼル、たーちゃん。今度、ドランとお出かけするんだって?」
親父さんだ。女将さんから話を聞いて、キッチンから出てきてくれたのだ。
しかも飲み物とクッキーまで持って。ありがたく受け取る。
たーちゃんは早速自分のコップに手を伸ばした。そのままごくごくと一気に飲み干していく。喉が乾いていたのかもしれない。一緒に持ってきてくれたティーポットからお茶を注ぐ。
「はい。明後日、隣国まで行くことになりました。お土産楽しみにしていてくださいね」
「明後日か……間に合うかな」
「何かあるんですか?」
「ドラゴンで飛ぶなら腹巻きだけじゃ足りないだろう? ローブと、それに初めての遠出だからバッグもあった方がいいよな」
「たーちゃんの? たーちゃんのあるの?」
「ああ、急いで作るから楽しみにしててくれ」
親父さんはグッと拳を固めて外へと向かっていった。ローブとバッグ用の材料を買いに行ったのだろう。凄い気合いの入りようだ。
ジゼルとしても可愛らしいたーちゃんが見られるのは嬉しい。
なにより、たーちゃん本人がとても楽しみにしている。
「どんなのかな~。あめはいるかな~」
「入ったらどれ持っていこうか」
「ぜんぶいっこずつもっていく。それでね、おじちゃんにおすそわけするの」
「乗せてもらう時に渡そうね」
「うん!」
休憩中も寝る前も、たのしみだねぇたのしみだねぇとくるくると回るたーちゃん。
るんるんとステップも踏んでいる姿を見守りながら作った錬金飴は倍以上が浮き上がってきた。
いつも以上に力が発揮されているのか、元々能力ではなく感情に左右されているのか。
理由は分からないが、このタイミングでせっせと作っていく。たーちゃんが寝てからまとめて包むことにしよう。




