6.レヴィ海運のお仕事
「ただいま戻りました~」
「ただいまぁ~」
追加の買い物も済ませ、ドランと一緒に宿屋に帰る。
するとキッチンから親父さんが出てきてくれた。
「二人とも遅かったな。ご飯できてるぞ~って、ドランと一緒にいたのか。ドランも食ってくか?」
「あ、いえ。大丈夫です。実は親父さんに頼み事があって……。知り合いがたーちゃんのレモネードを欲しがっているので、少し譲ってほしいんです」
「たーちゃんねぇ~、さっきあいすかってもらったのっ!」
おいしかった! とお腹を撫でてアピールするたーちゃん。少しぽっこりとしたお腹が大変愛らしい。
「いいぞ。どのくらい必要なんだ?」
「えっと、できれば四人分」
「いっぱいのむねぇ~」
「ロアちゃんの分だけじゃなくて、ギルドマスターとリドリー、それからリドリーの相棒の分もあった方がいいかなと思って」
「ああ、知り合いってレヴィ海運のドラゴン使いのことだったのか」
なるほどと頷く親父さん。親父さんはリドリーのことを知っていたようだ。
ジゼルが知らなかっただけで有名な人なのかもしれない。
だが何かに気付いたのか、途中で首を傾げる。
「たーちゃん達は一体どこで会ったんだ?」
「市場近くのアイス屋台の近くです」
「今の時期に縄張りから離れたのか!? 明日は早く市場に行かないと……。いや、今から確認に行った方がいいか」
親父さんは勢いよく振り返り、キッチンに駆け込む。
すると焦ったドランが親父さんの背中に向けて言葉を付け足す。
「今回はジゼルを探しに来たみたいなので、荷物の搬入はないと思います」
「そうか……。残念だが、よほど大事な用事があったんだな」
すでに財布を手にしていた親父さんは肩を落とす。
ポリポリと頬を掻き、財布をポケットに入れた。たーちゃんは落ち込む親父さんを見上げ、リドリーが来た理由を伝える。
「たーちゃんたち、おたんじょうびかいにしょーたいされたんだよぉ~」
「そのお誕生日会が明後日ってことか。結構遠いけど、あっちの宿はもう確保したか? まだなら俺の方で知り合いの宿に連絡するが」
「遅くはなっちゃいますけど、その日のうちに帰ってきます」
「あんまり無理しないようにな」
「リドリーさんってそんなに有名なんですね」
親父さんはリドリーを知っているだけではなく『今の時期に縄張りから離れたのか』と言っていた。
親父さんもまた、彼がこの時期に地元から離れたがらないこと、そして今日の来訪が異様であったことを知っているようだった。
「そりゃあもう! なんてったってレヴィ海運ができてから、遠方の野菜や果物が市場にも大量に出回るようになったからな」
「たーちゃんがいろんなのたべられるの、あのおじちゃんのおかげ?」
「そうだぞ。この辺の料理人はみんな感謝してると思う」
親父さんは拳を固め、興奮気味に語る。
ジゼルはレヴィ海運とリドリーのことを知らないながらも、今までその恩恵を十二分に受けていたらしい。もしかしたら食事以外でも錬金術の素材に用いていたことだって。
突然話しかけられて驚いたが、今の話でリドリーを身近に感じてきた。
たーちゃんも「そおなんだ~」と感心している。
「それで、用意するのはたーちゃんのレモネードだけでいいのか? よかったら食べ物とかも作るが」
「食べ物はあちらで全部用意すると思うので大丈夫です。それに今回の目玉はクイーンですから」
「あれを獲るのか!?」
「おやじさんとおかみさんにも、くいーんおみやげっ!」
「いやぁさすがにそれは悪いだろ。たーちゃん、ありがとな。気持ちだけもらっておくよ」
親父さんは困ったように笑い、たーちゃんの頭を撫でる。
たーちゃんはやんわりと断られて納得がいかないようだ。振り返り、無言でドランを見つめる。ドランは大丈夫だとばかりに力強く頷き返す。
「リドリーも親父さんと女将さんにと言っていたので、楽しみにしていてください」
「本当にいいのか? 超高級食材だぞ?」
「必ず新鮮なまま持ち帰ってきますから!」
ドランはグッと拳を固める。
彼もクイーン漁に気合いが入っているようだ。どれほど美味しいのだろうか。ジゼルはまだ見ぬクイーンの味に思いを馳せる。
「たーちゃんたちもぷれぜんとがんばらないとだねぇ~」
「そうだね。気に入ってもらえるプレゼントにしないと!」
「プレゼントは錬金術で作るのか?」
「はい。お誕生日会の主役のロアちゃんは小さな女の子みたいなので、香水瓶風の小瓶にジャムを入れてみようかなと。スポイト部分をハニーディッパーみたいな螺旋状のスティックにして、少しずつ掬うんです」
宿に帰る途中にショーウィンドウに飾られたアイテムを見て、構想がかなり固まった。
少し背伸びして大人びたデザインにしつつ、可愛らしさも残して小さめのパーツを散らしたデザインにしたい。
といっても以前『満月の湖」に納品したような凝ったデザインは難しいのだが。
やはりデザイナーが本職のブルーノには敵わない。
今回は細かいパーツと瓶を別々に作った上で調合する形にしようと思う。スティックは瓶本体が完成してから、それにハマる見た目に調整しつつ作っていきたい。
ジゼルがイメージを伝えると、親父さんはウンウンと頷きつつアドバイスをくれる。
「ならジャムよりフルーツ風味の液体飴の方が掬いやすいんじゃないか?」
「確かに。私も普通のジャムよりそっちの方が作りやすそうです」
「えきたいあめ? れんきんあめといっしょ?」
「作る時のイメージと材料は少し変わるけど、大体一緒かな」
「そっかぁ~。おかみさんもよろこぶかなぁ~」
「そうだね。女将さんの分も一緒に作ってプレゼントしよっか。どんなデザインが喜んでもらえるか、一緒に考えてくれる?」
「うん!」
頑張ろうねと拳を天井に突き上げる。
盛り上がるジゼルとたーちゃんを、親父さんとドランは優しい目で見守るのだった。
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