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ロクデナシ神父のアポスタシー 〜勇者パーティ加入拒否!最初の村で勇者の活躍を見守ります〜  作者: 山野 水海
第一章 新しい日常と勇者の旅立ち

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女神様と過ごす平和な?日常の始まり

・誠に申し訳ございませんが、今話にて本作の更新を一旦停止し、完結設定とさせていただきます。

 ガラァァァーン! ガラァァァーン!


 日の出の鐘を鳴らす。毎日欠かすことない教会の通常業務だ。

 当然ここ数日も鳴らしていたが、今日は不思議と鐘のも透き通って聞こえる。清々しい気分だ。


(ああ……いつもの朝だ……)


 昨日、テッド君(とお偉方)を見送ったことで俺の仕事は一段落した。アルシエ様に命じられた件はあるが、とりあえず公的には、もう俺の役目は終わっている。

 思えば、アルシエ様が俺の夢に現れて以来、毎日が慌ただしかった。

 サリィちゃんの代わりにテッド君に勇者様になってもらい、その旅立ちを見送る。たったそれだけではあるが、ひどく忙しなかった。


(物語では勇者様が故郷を旅立つシーンなんて1ページか2ページしか描写されてないし、名もなき村人なんて賑やかし以外の何者でもないが、現実は大変だなぁ。聖別の儀、村民への説明、上司への報告並びに接待。儲けは無いのに妬みだけは買う。『村の神父』がこんなに損な役回りだったなんて……)


 俺も幼い頃は人並みに勇者様やお供の騎士様に憧れたものだ。だが今となっては、物語に出てくる俺と似たような境遇の神父に共感してしまう。

 叶うことなら酒を交わしたい。そして愚痴を言い合いたい。同じエアリス教の神父だ、さぞ上司の悪口で盛り上がることだろう。


(肩を組んで一緒に『女神様のバカヤロー』と叫んでも楽しそう……いや、やめよう……アルシエ様に頬をつねられる……)




 バカな妄想を巡らしている内に鐘を鳴らし終わった。

 お次は朝の礼拝だ。これもまた立派な通常業務。疎かにはできない。

 下手にサボったりして、万が一それが村人にバレたら聖職者失格と言われてしまう。余程の事がない限り朝、昼、晩の礼拝は真面目に勤めなければならない。


「あらっ、カイン、おはようございます」


 礼拝堂へ向かう途中、まだまだ薄暗い廊下にアルシエ様(礼拝対象)がいた。どうやら台所へ行くところのようだ。

 今日の彼女の装いはシンプルな青のカーディガンに白のロングスカートだ。プラチナブロンドの御髪が窓から差し込む朝日を反射してキラキラと輝いている。

 あどけなさを残しつつも凛とした表情。いつ見ても一瞬目を奪われてしまう美貌である。


「お、おはようございます、アルシエ様!」


 普段はおくびにも出さないようにしているが、今みたいに不意打ち気味に顔を合わせると動揺してしまう。少し声が上擦ってしまった。


「昨晩はずいぶん遅くまでテッドと《念話》していたみたいですが、よく眠れましたか?」

「……ええ、まぁ……それなりには……」


 アルシエ様に、昨日、最後の最後にあった面倒事について言われ、げんなりとした気分になる。数瞬前の浮ついた気持ちが一気に霧散した。

 昨晩、俺が肌身離さず身につけている共振の腕輪が震えたのだ。《念話》をしたいというテッド君からの合図である。夕食を終え、これから眠ろうというタイミングだったので呼びかけなど無視してベッドに入りたかったのだが、緊急の用事だったらマズイので渋々“了解”の合図を送り返した。

 ……《念話》を繋げてもらうため隣のノエルの部屋を訪れた際、夜這いと思われて大歓迎されたのはご愛嬌だ。慌てて誤解を解き、テッド君と《念話》すると告げたら、ひどく落胆していた。今度、何かしらで機嫌を取らないといけないだろう。


「盗聴はしていないので会話の内容は知りませんが、おおかた、昨日、魔物と戦った件ですよね? 違いますか?」

「いえ、合ってます」


 そう、テッド君の用件はそれだけだった。

 いやまあ、気持ちはわからないでも無い。初めてマトモな魔物と戦闘して、しかも、一応は一対一で勝ったのだ。知人に話したくもなるだろう。

 だが、夜中、特に就寝時刻はいただけない。


「……すっかりテンションが上がってて、ほぼ一方的に捲し立てられました。やれテッド伝説の始まりだとか、やれキングなんちゃらソードが凄いだとか、やれ魔王なんて一撃だとか、もう……いつまでも話し続けて、最後の方は俺たちほとんど寝てましたよ……」

「それは……ご苦労様でしたね……」

「本当です」


 最後は俺が「もう寝よう」と伝えて強引に話を終わらせた記憶がある。「今後、火急の場合を除いて《念話》は常識的な時間にすること」とも約束させた……はずだ。記憶が定かではない。

 《念話》では、意識が散漫になっていたりすると言葉をストレートに伝えてしまう危険性がある。それに伴った感情もだ。

 昨晩の俺は眠くてかなりイライラしていたと思う。ノエルからも強い怒りの感情が伝わってきてたし、それはテッド君にも伝わっているだろう。


(テッド君の最後の言葉は「ごめんなさい。今度から気をつけます……おやすみなさい……」だったような?)


 怯えの感情も伝わってきた気がする。

 ホントに憶えていない。何せ、《念話》を切ったあとは眠気が酷すぎて自分の部屋に帰ることもできず、ノエルと崩れ落ちるようにベッドに倒れ込んだのだ。

 さっきまで肩を寄せ合い、並んで仲良くグッスリである。枕はノエルに譲ったので、実はちょっと首が痛いのだ。


「おっと……あまり引き留めてはいけませんね。これから朝の礼拝でしょう? 心を込め……いえ、できないことを強要してはいけませんね。無駄にぼんやり祈る代わりに、今日の夕食に何が食べたいかでも考えていてください」


 昨晩の寝不足のせいか、はたまた気安い口調で冗談を言うアルシエ様に気が緩んだのか、俺もつい口が滑ってしまう。


「アルシエ様にだったら真剣に祈っても良いですよ。面倒事は押し付けられましたけど、毎日美味しい食事を作ってくれますし、一緒に暮らしていてなんだかんだ楽しいですし」

「……」


 キョトンとした顔のアルシエ様が目をパチクリと瞬かせて固まる。

 ここで俺も自分が何を口走ったか気づいた。頬がカーッと熱を帯びるのを感じる。


「あっ!? いや、その、今のは……」


 狼狽える俺を見て、アルシエ様はにやりと口で弧を描く。そして含み笑いをしながら意地悪く俺を見上げてきた。


「ふふふ、カインも偶には可愛い事を言いますね。そ〜ですか、そ〜ですか。女神である“シュール・エアラ”にではなく、一緒に暮らしていて楽しい“アルシエ”に祈りたいときましたか。良いですよ、なかなかの殺し文句です」

「いや、アルシエ様!? 俺はそんな意味では言ってません!」

「あらっ? それは残念ですね」


 アルシエ様はクスクスと上機嫌で笑う。花が綻ぶと形容するに相応しい魅力的な笑顔だ。

 俺は抗議の意思を込めて、そんな彼女をジッと睨みつけた。しかし、アルシエ様は変わらず余裕の態度だ。


「はいはい、分かっていますよ。カインはノエル一筋ですものね。ほらっ、彼女が待っていますよ。早く礼拝堂に行かないと」

「……失礼します」


 このままでは墓穴を掘るだけだ。俺は急くようにアルシエ様の横を通り過ぎ、礼拝堂へと歩を進めた。

 後ろから「ああ」とアルシエ様の声がした。


「カイン、礼拝堂に入る前に、その真っ赤な顔だけは何とかした方がいいですよ! 不審に思ったノエルに《念話》をかけられたら、浮気と誤解されてしまいます!」

「……ッ! ご忠告ありがとうございます!」


(ああもう、朝から散々だ!)


 一刻も早くその場を去ろうと足を動かす。背後から微かにアルシエ様の嬉しそうな鼻歌が聞こえてきた。




「すぅー……はぁー……すぅー……はぁー……」


 俺は礼拝堂の扉の前でアルシエ様の忠告通り深呼吸をして心を落ち着けていた。

 そろそろ顔の火照りが冷めただろう。ノエルを結構待たせてしまった。早く入らなければ。

 俺はガチャリとドアノブを捻り、ノエルが首を長くして待つ礼拝堂へと入った。

【おまけ】(前話の直後の話です)


・気功鍛錬


 テッド君が初戦闘を勝利で飾り、無事に魔石を吸収したところまでを見届けたので、アルシエ様は手を叩いて映像を消した。

 グロテスクなシーンは多々あったが、血の臭いがしないのが助かった。妙に現実感が薄れ、遠くで起きている自分には害の無い出来事だと安心できた。

 この普段の生活では縁のない魔物退治という“生命のやりとり”を目の当たりにし、正直、俺とノエルはかなり高揚していた。

 映像が消えて少し冷静になると、カーッと身体が熱を帯びていたことに気が付いた。安全な場所で見ているというのに、いや、だからこそか、全身に力が入っていたようだ。目の前で起きていたら恐怖で震えていただろう。

 知らずのうちに固く握っていたこぶしを開く。じっとりと汗が気持ち悪かったので服で拭った。


「いや〜凄い迫力でしたね! まるで本当に戦場にいるかのようでした!」


 興奮ぎみに感想を伝える。

 隣ではノエルが熱を冷ますように大きく息を吐いていた。肩を数回上下させ、少しずつ身体の強張りをほぐしている。やがて落ち着いた彼女は、半ば放心気味に呟く。


「テッド君、強かったですね。あれが勇者様の力ですか〜……本当に勇者様なんですね〜……」

「いいえ、まだまだ弱いです。あれでは恥ずかしくて勇者を名乗らせられません」


 アルシエ様が首を横に振ってノエルの言葉を否定した。


「最低でも【気功】くらいは身につけてもらわなければ、いえ、それでもまだ知識も心構えも足りませんが……」

「【気功】……ですか? あの、騎士様が使っていたやつ、テッド君もできるようになるんですか?」

「ええ、簡単に。十全に使いこなすのは難しいですが、基礎を覚えるのは楽なんです。それこそ貴方たちでも直ぐに習得できますよ。教えてあげましょうか?」


 アルシエ様はしれっと俺たちに修行をさせようとしてきた。ハッキリ言って御免である。


「いやいや、僧侶である俺たちが【気功】を覚えていたら変ですよ! だって、さっきまでフィクションだと思っていたくらいですよ!」


 俺がきっぱり断ると、アルシエ様は残念そうな顔してノエルの方を向いた。


「そう……ですか。正しい姿勢と正しい呼吸を覚えるだけなのですが……ノエルも嫌ですか?」


 ノエルは「あはは……」と苦笑いし、アルシエ様から視線をそらした。


「申し訳ありませんが、私もちょっと遠慮したいなーなんて……」

「わかりました。残念ですが諦めましょう。……【気功】は健康と美容にも良いんですけどね……」

「アルシエ様、今、何とおっしゃいましたか!?」


 アルシエ様が最後にポツリと溢した言葉にノエルが食いついた。

 ニヤッとアルシエ様の頬が上がる。


「ふふっ、興味が湧いてきましたか? 【気功】とは“気”と呼ばれる、我々の肉体を巡る生命エネルギーを操る技術です。それなりに上達すれば老化を遅らせるようにもなります。……どうでしょう、習ってみませんか?」

「はい、喜んで! ほらっ、兄さんも!」

「へっ!? 俺も?」

「私一人だと張り合いがないじゃないですか! 付き合ってくださいよ!」

「ええっ……まあ、いいけど……」


 ノエルに押し切られて了承してしまった。アルシエ様は満足そうに頷いている。


「はいっ、決まりです! アルシエ様、よろしくお願いします!」

「……よろしくお願いします」

「任せてください。二人ともしっかりと鍛えてあげます」


 こうして俺たちはアルシエ様に【気功】を習う事になった。……なんだか先行き不安である。

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