表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロクデナシ神父のアポスタシー 〜勇者パーティ加入拒否!最初の村で勇者の活躍を見守ります〜  作者: 山野 水海
第一章 新しい日常と勇者の旅立ち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

32/33

テッドの初戦闘 後編

更新間隔が開き、誠に申し訳ありませんでした。

 テッド君は緊張で顔を強張らさせながら凶悪な魔物である汚色狂狼に相対している。

 彼にとって自分より大きな相手に立ち向かうのは初めての経験であろう。吐く息は荒く、額には汗が浮かび、必死に握りしめている聖剣は剣先がブルブルと震え定まらない。

 完全に狼に対して萎縮している。腰が抜けてへたり込んでいないことが奇跡とも思えるほどだ。

 狼は狼で逃げ場を探していたが、周囲で剣を構える3人の騎士様に隙は無く、最後の望みをかけて一番弱そうなテッド君に狙いを定めた。


「……テッド君、殺されませんか? 戦闘経験なんてありませんし、剣どころかクワも振ったことが無い子ですよ?」

「兄さんの言う通りです。テッド君が誇れるのなんて逃げ足くらいですよ」


 散々な評価だが、テッド君は何事にも不真面目な子だ。正当な評価と言って良いだろう。

 心底呆れた顔でアルシエ様は俺たちに言った。


「……だから何でそんなロクデナシを勇者にしたんですか……。勇者が魔王に敗れて世界が滅ぶかもしれないとか、ちょっとは考えなかったのですか?」

 

 アルシエ様は深々とため息を吐くと億劫そうに映像を指差す。


「何度も言いますが安心してください。それに、そもそも今代の勇者はサリィだったのですよ。彼女でも倒せるのだから、テッドにも倒せます。……まあ、見ててください。直ぐに片が付きます」


 映像の向こうでは伯爵様がテッド君に激励を飛ばしていた。馬車の中という安全圏にいるためか、戦闘中にも関わらず、どこか余裕のある声色だ。


『勇者様、恐れることはありません! あなた様がいま握っておられるのは女神様より賜られた聖剣です。あれしきの魔物なぞ敵ではありません。さあ、勇気を出して剣をお振いください!』

『お、おう!』


 それでもテッド君の背中を押すには充分だったようだ。恐怖を押し殺すように歯を食いしばり、聖剣の柄をギュッと握り直した。

 美少女の声援ではなく、中年のおっさんの声援で勇気を振り絞っているあたり、テッド君にも余裕がないのだろう。普段だったら絶対に見られない光景だ。

 意を決し、テッド君が駆け出した。


『うぉおおおお!!』


 聖剣を振りかぶり、真正面から突っ込むという、がむしゃらな突撃だ。《聖剣》の能力ゆえか、以前とは比べ物にならない足の速さである。先程の騎士様には劣るが、十分に人間離れした速度である。

 しかし、速いと言っても俺が目で追える程度の速度だ。しかも、テッド君は技もへったくれもなく真っ向から突っ込んでいる。魔物である狼にとっては容易く避けられる攻撃であろう。


『ヴォフッ!』


 実際、若い狼は小馬鹿にするように短く吠えると、四肢に力を込めてテッド君を迎撃しようとした。


(マズイ、殺される!)


 俺がそう思った瞬間、聖剣が眩い光を放ち始める。その剣身と同じ白銀の光だ。


『へっ、ちょっ、何!? うわーーっ!?』


 それと同時にテッド君のスピードがグンと跳ね上がった。

 目に見えて走るフォームが変わっている。さっきまでのチャンバラをしている子供のような走り方から、素人目にも分かるほど洗練された走り方になった。

 俺がはっきりとテッド君の動きを追えたのは最初の数歩のみ。あとはもう、目で追える速度を超えていた。


『ヒィエーーー!』


 雷光の如き疾さで狼との距離を詰めながら、テッド君は泣きそうな顔で絶叫している。

 もしかして《聖剣》の能力によって、本人の意思とは無関係に身体を動かされているのだろうか?


『ヴォフ!?』


 狼は面食らったような声を上げ、身体を硬直させた。返り討ちにしようとした雑魚(テッド君)の動きがいきなり変わり、さらには奇声まで上げたので動揺したようだ。

 そして、その隙は今のテッド君相手には致命的であった。


『うわあぁァァァ!』


 テッド君は走る足を止めず、動きを止めた狼の頭部めがけ、勢いそのままに聖剣を真っ向から振り下ろす。


『――――ッ!』


 狼は断末魔の叫びを上げることもできず、瞬く間に決着がついた。

 「この世に切れぬもの無し」と謳われる聖剣は、その謂れに相応しい切れ味で、まるで空を切るかのごとく狼の身体を真っ二つにした。

 白銀に光り輝く聖剣が空中に三日月型の軌跡を描く。美しく幻想的な、まさに勇者の初陣に相応しいワンシーンだった。


『『『おおっ!』』』


 周りで見守っていた騎士様たちから感嘆の声が上がる。一様に少年のような表情をしている。

 伝説を目の当たりにして感極まったのだろう、中には涙ぐむ騎士様もいた。

 ドサリと音を立て狼の両半身が地に倒れ、思い出したかのように血飛沫が吹き出し始めた。


『うわっ、ばっちい!』


 テッド君は、先程の戦闘と同程度の速度で狼の亡骸から距離を取るのであった。




「見ましたか、二人とも。あれが《聖剣》の能力です」

「凄いです。まさかテッド君が本当に魔物を討伐するなんて……」


 アルシエ様が事もなげに言うと、ノエルが感嘆の息を漏らした。

 以前読んだ祝福辞典の記述を思い出す。


「『祝福事典』には、『聖剣は女神様の加護により、所有者である勇者様に絶大な力をもたらす』と書かれていましたが、こういう事だったのですね」


 アルシエ様は大きく頷いた。


「身体能力の上昇、達人級の技量付与、戦闘意欲の向上、精神力の強化。勇者本人に作用するのは主にこのあたりの能力ですね。魔石を吸収する毎に強くなりますが、最初期でも一般的な近衛騎士程度の強さはあります。ねっ、サリィでも討伐できると言ったのが分かるでしょう?」

「……前2つは目で見て理解できましたが、あとの2つは……?」

「先日までただの村人であったテッドが、あの様にいかにも凶悪な魔物に立ち向かったのですよ、おかしいとは思いませんでしたか?」

「それは……まあ……」

「勇者ともあろう者が、いちいち魔物に怯えたり、怪我や命のやり取りに竦んでいたら、魔王討伐など夢のまた夢でしょう? なので、《聖剣》の能力によって、心の有り様を勇者に相応しいものに変えているのです。……と言っても、性根は変えられません。少し魔物に対して好戦的になって、勇者としての使命感が微かに溢れてくるだけです。無差別に魔物と戦うバーサーカーになられても困りますからね」


 アルシエ様がさらりと告げた言葉に、俺とノエルはドン引きした。

 

「……アルシエ様、それ、洗脳って言いませんか?」

「歴代の勇者様は立派な方ばかりでしたが、そんな裏があったのですね……」

「……人聞きが悪いですね。悪と戦う勇気を授けているだけです。それこそ“女神の加護”というやつですよ」

「「…………」」


 俺たちがジトっとした目で見つめると、アルシエ様は語気を荒げてテーブルを両手で叩いた。


「そんな目で見ないでください! 私の目的を果たすには、これが一番効率が良いのです!」


 それよりも、とアルシエ様は可憐な指で映像を差す。あからさまに話題を逸らそうとしている。


「ほらっ、聖剣の強化が始まりますよ。条件も全てクリアしてますし、問題無く吸収されるはずです。これでまた聖剣の能力が強くなりますね」


 映像の向こうでは、騎士様が狼の体内から、子供の握りこぶしくらいの大きさの魔石を取り出していた。以前見た物より血のような赤みが禍々しい魔石だ。


「条件……ですか? そういえば、さっき人数制限がどうとか言ってましたよね?」


 ノエルの問いかけに、アルシエ様は指を3本立てて答えた。


「ええ。『討伐は勇者を含めた4名以下の人数で行うこと』、『魔物へのトドメは勇者が行うこと』、『戦闘開始時から勇者がいること』、この3つをクリアした魔石のみ聖剣に吸収させられるのです」


 バーニング(略)様はテッド君が討伐した狼を取り囲む際に、しきりに『3人』と強調していた。

 思い返してみれば、物語で読んだ歴代の勇者様の英雄譚も戦う時はいつも4人パーティだった。

 もっと大勢で戦った方が楽ではないのかと思っていたが、こんな理由があったわけだ。

 だが、何でそんな制限が付いているのであろうか?


「アルシエ様、なぜ4人以下なんですか? “効率”を求めるのなら、10人がかりでも、それこそ100人でも構わないじゃないですか。それに他のルールだって……」

「いいえ、それではダメなのです」


 アルシエ様は静かに首を振り、俺の言葉をぴしゃりと断じる。

 映像では、ちょうどテッド君が聖剣に魔石を吸収させているところだ。

 押し当てられた魔石を吸収し、聖剣からは聖別の儀の時より強い銀光が放たれた。

 伯爵様を始め、周りの方々は数瞬どよめいた後、興奮した表情でテッド君に盛大な拍手を送っていた。


「私が勇者に求めるのは『絶対的な個の強さ』です。――どれほど絶望的な大敵であろうとも、それこそ世界を滅ぼせるような悪魔相手であろうとも、まことの強者は必ず勝利する。勇者はこの世界に生きる全ての人類にそれを示す必要があります」


 つらつらと語るアルシエ様。彼女の瞳はどこか遥か遠くを見据えているようであった。


「いざという時に数を頼みにするようでは、世界に、歴史に、強者として名を刻むことはできません。有象無象がたとえ幾億人集まろと、たった一人の勇者には敵わない。勇者には、それを体現してもらわねばなりません」


 これは祈りだ。なぜか、そう感じた。


「勇者は指標であり目標です。強さを求める者は勇者を憧憬し、『自分もあのように強くなる』と自らを鍛えるでしょう。あたかも子供がヒーローごっこをするように、やがて本当に天を裂き地を割れるようになるまで……。最初から届かないと諦めるような弱者は……どうでもいいです。魔物の恐怖に怯えながら暮らせばいい」


 いつになく冷徹な言葉を吐く彼女に、俺もノエルも口を挟めず、ただ押し黙るしかなかった。


「本来なら魔物討伐も勇者一人でやってもらいたいのですが、それではなかなか格上に勝てませんし、負けた時に逃げるのもままなりません。まあ、妥協ですね。最終的には勇者が突出する強さになるので良しとしてます」


 チラリとテッド君に視線が向いた。


「今代はまあ……イレギュラーですので期待はしてませんが、()()()()()()()()()()()()()()使命を果たして欲しいですね」


 困ったように額に手を当てる彼女。しかし、その雰囲気は、一転して、どこか肩の力が抜けているように見えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ