不本意な告白
「実は、私と同じようにノエルも加護者なんだ」
「ええっーーー!?」
テッド君は驚きのあまり大声で叫び出した。静かな朝である。おそらく近くの家までは届いたであろう。
あんまり騒いで人が来ても困るので、俺は「静かにして」とジェスチャー付きでテッド君に注意した。
「ご、ごめん……」
テッド君は慌てて声を落とした。
今の絶叫に反応してサリィちゃんを含めた近所の村人たちが家から顔を出してこちらを窺っていたが、ノエルが笑顔で手を振り、
「お騒がせしました〜! テッド君が騒いでいるだけですので、問題ありませ〜ん!」
と説明すると、大丈夫そうだと安心して、顔を引っ込めた。
村人を遠ざけるのはノエルに任せ、さっさとテッド君に言うべき事を言おう。
「私の【祝福】は《予知》。一か月に一度だけ正確な未来が予知できるんだ。そして、ノエルは《念話》。どんなに離れている相手とも心の中で会話できるようになる【祝福】なんだよ。ノエル、ちょっと発動してくれ」
『はい、兄さん。――テッド君、これが私の【祝福】です』
「スゲェ……! 頭の中にノエルちゃんの声が響いてる……! ……でも、なんだ? 緊張と不快感? ノエルちゃんの気持ちが伝わって来る?」
テッド君は興奮しつつも声は小さい。先程の注意を素直に守ってくれている。ノエルの不愉快な気持ちが伝わってきて困惑しているようだ。
ノエルはテッド君のことをよく思っていない。《念話》で会話すると、そこが浮き彫りになって伝わってしまう。少しフォローしないとな。
「《念話》では言葉とともに感情が伝わってしまうんだ。私たちはずっと【祝福】のことを他人に隠してきたからね。テッド君に教えることに抵抗感を感じてしまうんだろう」
「う、うん……? そうなの?」
『心を曝け出すようなものだしね。秘密にしておきたい事も沢山あるし、どうやったって良くない感情が混ざっちゃうんだ。今の私の言葉にだって、“誤魔化したい”みたいな感情があったでしょ?』
「うん、兄貴の言う通りだった」
感情を偽れないのであれば本音を伝えればよい。そして、ノエルが言い難いことは俺が代弁すればいい。
俺はテッド君を騙したいわけではない。それに彼を勇者にした引け目があるので、出来ることであれば手助けをしたいという気持ちも本物だ。
ノエルは性悪なとこがあるから、ボロが出てしまう《念話》での会話は不向きだ。テッド君のことも心底どうでもいいと思っているだろうし、今後も大事な連絡は俺が喋るべきであろう。
それにノエルにも考えがあるようだ。
「……ごめんなさい。相手を不快にさせてしまう嫌な【祝福】ですよね……。しかも心を暴くような能力まで……。私、この力が大っ嫌いなんです。だから、いつも《念話》に良くない感情が混ざっちゃって……」
ノエルが泣きそうな顔をして謝ると、テッド君は目に見えて狼狽した。
「お、落ち込まないで、ノエルちゃん!? 確かに女の子にあんな感情をぶつけられるのはキツいけど、俺、そうゆうの慣れっこだしっ!」
「……フフッ! ありがとうございます、テッド君。これからも兄や私の後ろめたい感情が《念話》に混ざるかもしれませんが、許してくださいね?」
「おうっ! ドンとこいだっ!」
《念話》で嘘をつけないなら、普通の会話で嘘をつけばいい。当たり前のことだ。
ノエルの外面はとても良い。村人からは、見た目は冷たいが、俺に関すること以外は柔和な性格であると認識されている。
そんな優しい女の子に騙されるなんて夢にも思っていないテッド君は、あっさりとノエルの言葉を信じた。
整った顔立ちのノエルに好意的に微笑まれ、すっかりデレデレである。
「テッド君は優しいですね」
「へへっ、ノエルちゃんにそう言われると照れるぜ!」
上手いこと口車に乗せたことだし、テッド君には、《念話》中に伝わる悪感情は【祝福】に起因するものだと誤解していてもらおう。
限度はあるだろうが、ある程度なら誤魔化せる……と思う。
(ノエルの【祝福】は隠し事には向かない。テッド君と《念話》する時は気をつけないとな。……嘘が一発でバレるのが厄介だ……)
まあ、そこら辺は実際にやってみないと分からない。第一、国からの全面的な支援を受ける勇者に、俺たちの手助けが必要とは思えないのだ。
……アルシエ様に睨まれているから、やらないわけにはいかないが……。
『さて、テッド君。これから《念話》の使い方のコツを教えるよ。これを知らないと考えている事がダダ漏れになるからね。良く聞いてほしい。あと――』
「ずっと黙っていると、周りの人が不審がるから口でも喋ろうか」
「う、うん……」
テッド君には悪いが、時間もあまりない。俺の《予知》については後々でも大丈夫だし、早いところ《念話》の使用方法だけでも覚えてもらおう。
今は真剣だが、いつものテッド君は頭がピンク色なはずなのだ。セクハラ的思考をダダ漏れにされたら、ノエルが不快感どころか殺意を覚えかねない。
『――大体コツは掴んだかな? あとは回数を重ねればそのうち慣れると思うよ』
『おう! ありがとう、兄貴!』
とりあえず《念話》のやり方だけは伝えられた。テッド君自身の出発準備もあるだろうし、ここまでであろう。
「今後、さっきの腕輪で合図を送ってくれたら、ノエルが私たち3人を《念話》で繋ぐよ。旅先で困った事が起きたら遠慮なく私たちに相談してほしい。過酷な旅になるだろうし、周りの人には話をしづらい事もあると思うしね。それに、教会のことや、村の外のことなら私たちにもアドバイスできると思うんだ」
俺が微笑を顔に張り付かせて提案すると、テッド君は屈託のない笑みを浮かべた。
「いつでも兄貴たちと話せるの!? やったあ! ……へへっ、実はちょっと心細かったんだ。ちょっとしたお喋りでもいいんだろ?」
「もちろん! あとそれともう一つ。戦いには同行できないが、私の【祝福】をぜひテッド君のために使わせてほしい。《予知》は魔王討伐の旅路に必ず役立つと思うんだ。一度は女神様に託された使命。僅かばかりでも力にならせてくれ」
「兄貴……ッ! 兄貴をパーティから外したのは俺のワガママなのに……。ありがとう、心強いぜ!」
テッド君は、何やら感極まったように俺を見上げてくる。俺のことを献身的な人物だとでも思っているのかもしれない。
全くの誤解だが、ほっておこう。そちらの方が何かと都合が良さそうだ。
「さて、そろそろ戻らないと。テッド君も準備があるだろう?」
「うん!」
「じゃあ、続きは今度にしよう。《念話》を使えば何時でも話せるしね。――ああ、そうだ。分かっていると思うけど、私とノエルが加護者であることは絶対に秘密だよ。約束してくれるかい?」
「おう、約束する! 絶対に誰にも喋らねえ!」
「良かった、安心したよ。それじゃあテッド君、また後で見送りの時に」
「失礼しますね、テッド君。貴重な時間をくれて、ありがとうございました」
「いいってことよ、ノエルちゃん! じゃあな、二人とも!」
俺とノエルは、テッド君に別れを告げて教会への帰路についた。
テッド君との話し合いは大成功と言っても良いだろう。これで、アルシエ様に押し付けられた使命を果たせそうである。




