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ロクデナシ神父のアポスタシー 〜勇者パーティ加入拒否!最初の村で勇者の活躍を見守ります〜  作者: 山野 水海
第一章 新しい日常と勇者の旅立ち

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司教との取引

 投稿間隔が開き、誠に申し訳ございません。

 仕事が途端に忙しくなってきましたので、これからもちょくちょくと更新が途絶えるかと思います。

 どうかご了承ください。

「スモーク司教様、折り入ってお頼みしたい儀がございます」


 普段より豪勢な昼食で司教様をもてなした後、俺は畏まった態度を装って、リビングのソファーでくつろぐ彼に向かってお伺いを立てた。


「うむ、何じゃ? 腹蔵なく申してみよ」


 スモーク司教様は嘲るような顔をして、俺のことを顎でしゃくってきた。

 村長宅での好々爺然とした態度など何処へやら。教会内に自分より位階の低い者しか居ないためか、堂々と足を組み、驕った本性を曝け出していた。


「……ああ、わざわざ聞かないでも想像がつくのぅ。どうせあれじゃろ? 『勇者様の聖別の儀をした功績を評価して、自分を司教に推挙してほしい』とか申すのであろう? ふんっ、誰が貴様のような――」

「いいえ、司教様。お言葉ですが、私がお頼みしたいのは別の事でございます」


 司教様は馬鹿にした口ぶりで俺の“お願い”を決めつけてきたが、俺が頼みたいのはそんなくだらない事ではない。


「あぁ?」


 自信満々に述べていた予想が外れ、不愉快そうな声と共に司教様の眉がピクリと跳ねた。

 ギロリと音がしそうな視線が俺に向けられる。

 早とちりしたのはそちらなのに、こちらを憎々しげに睨んでくるとは、鬱陶しい老人である。

 俺は内心でため息を吐きつつ、表向きは恭しい態度で言葉を続けた。


「――実は、私は今、テッド様の“成人の儀”について悩んでおりまして……」

「“成人の儀”じゃと!?」


 カッと司教様の目が開いた。

 “成人の儀”とは、成人年齢である15歳となった子供を祝福する儀式である。

 我が国では、この儀式をすることにより、大人の仲間入りをしたことが認められる。結婚できるようになるのも、この儀式の後からである(納税などの義務も発生するが)。

 人生において重要な通過儀礼の一つだが――もちろん、この儀式も我らがエアリス教会の大切な収入源となっている。毎年、それなりの人数が成人するので、親から貰えるお布施も、累計ではバカにできない額なのである。


「はい、テッド様は現在12歳。3年後には成人をお迎えになられます。ご存知の通り、教団の規定によって、成人の儀は出身地の教会、つまり、この教会にて私が執り行うのが決まりとなっております」


 各教会で信者(金ヅル)の取り合いにならないよう、予めこの手の通過儀礼には優先権が定められているのだ。

 つまりこの場合、テッド君の成人の儀に関しては、ノール村の教会管理者である俺が全ての権利を握っていることになる。

 この権利は、例え教皇猊下でさえ易々と口を挟めないものだ。何故なら、一度それを許せば、力ある大聖堂が圧力によって地方教会から信者を奪うことに繋がり、最終的に教団全体の力を衰退させる結果になるからである。


「ですが……」


 一度言葉を区切り、二度三度と、如何にも無念そうな風を装って首を横に振る。


「勇者様の成人の儀となれば、さぞ高貴な方も大勢お見えになられることでしょう。しかし、残念ですがこのような辺鄙な教会では、そのような方々を満足におもてなしできません。――ですので、スモーク司教様が管理なされているトリウス大聖堂にテッド様の成人の儀を委託したいのであります」


 本来であれば出身地の教会で儀式を受けるのが筋だが、世の中には様々な事情というものがある。例外的に他所の教会で儀式を受ける事を想定した規定もちゃんとあるのだ。

 正当な理由がある上で、全権を有する俺の許可があれば、信者(テッド君)は他の教会で成人の儀を受けられるようになるのである。


「ほほう!」


 欲深い色をした司教様の目がキラリと光った。俺の言葉を聞く気になったのか、居住まいを正して身体が前のめりになった。

 本来であれば、テッド君の親であるアルトさんから貰えるお布施は、スモーク司教様からすれば端金でしかない。

 だが、“勇者の成人の儀”には計り知れない「価値」があるのだ。


「ましてや()()()()()()()()()()()()でございます。そのような大役、私にはとても務まりません。ですので、ここはぜひスモーク司教様にお助けいただきたいのであります」


 そう、歴代の勇者様は全て成人から選ばれていた。

 アルシエ様に確認したところ、「魔王討伐という危険な使命を未成年にやらせるなどあり得ません。あなたたちみたいな人でなしと一緒にしないでください」と言われたので間違いないだろう。


「史上初……! ふ、ふふっ、賢明な判断じゃよ、カイン君! 私なら、記念すべきテッド様の成人の儀を、この上ないものに出来るじゃろうな! 良いじゃろう、喜んで引き受けようではないか!」

「ありがとうございます! スモーク司教様にお任せできて、肩の荷が下りました。では早速、誓約書を認めましょう」

「うむっ!」


 俺は上等な紙を2枚用意し、それぞれにテッド君の成人の儀に関してスモーク司教様に一任する旨を記載した。当然、俺の署名付きである。


「くくくっ、良いぞ。これで誰も儂の邪魔はできぬ。全て思うがままじゃ」


 司教様は涎を垂らさんばかりの表情で誓約書に署名した。

 これで司教様は、儀式内容や人選など、あらゆる決定権を手にしたことになる。

 おそらく3年後には教皇猊下や上層部も儀式に絡もうとするだろうが、それには司教様の許可が必要となる。司教様にとっては笑いが止まらないほどの利権であろう。

 俺も面倒な政治から離れられてホッと一安心だ。


「儀式の差定(進行プログラム)も考えねばのぅ。いやはや、忙しくなってきたわい。3年あっても足りる気がせぬわ」


 司教様は自分の分の誓約書を大事に大事にしまい込むと、そう言って呵々大笑した。

 本来、平民の成人の儀など大した事はしない。簡単な文言でちょっと祝福して終わりだ。

 貴族様の場合は社交会へのデビュタントもするので大変らしいが……。

 まあ、それはさておき、テッド君の場合は前例が無い。誰を呼んで、何をどうするかは司教様が考えなければならないのである。……俺の仕事だったと思うとゾッとする話だ。


「まずは根回しか。イチャモンを付けてくるクズどもはどうやって黙らそうかのぅ。それに派閥に声を掛けねばな。いくらでも恩を売れるぞ。高位貴族どもも、ぜひ参加させてくれと儂に頭を下げに来るであろうし、参加料をいくらにするかのぅ? ぐふふ……」


 ……このロクデナシのジジイには楽しい仕事のようだが……。

 



「いや〜、カイン君は見所があるのぅ。身の振り方を知っている者は出世するぞ!」

「ははっ、恐縮であります」


 現在、上機嫌な司教様は、馴れ馴れしく俺の肩をポンポンと叩いている。

 美女(特にノエル)にされるならともかく、こんな老人にされても何も嬉しくない。


「儂とカイン君の仲じゃ。どんな見返りが欲しいか率直に言ってくれて良いぞ。司教への推薦か? それとも実入りのいい都会の教会に移るか? 3年後にはなるが、なんでも便宜を図ってやるぞ!」


 俺はやんわりと司教様の手から逃れると、ペコリと頭を下げた。


「ありがたいお言葉ですが、私も、私の恋人も、この田舎暮らしを心から気に入っておりますので、ここを離れる気はありません」

「むっ、そうなのか? 変わった嗜好じゃのぅ。酒も無ければ、娯楽も無いじゃろうに。都会に出れば、女もよりどりみどりじゃぞ?」


 司教様は珍獣を見るような目を俺に向けた。


「いえいえ、俺には彼女がいれば十分でございます」

「そんなものかのぅ? 欲の無い男じゃな。……ん? もしかして、あのシスターか?」


 ニンマリと司教様がいやらしく笑った。どうやら下世話な話がお好きらしい。


「はい、そうです。義妹でして」

「ほう……! 良い趣味ではないか! 儂は、女は40からじゃと思っておるが、義理の妹に手を出した上、シスターにするとは、カイン君も中々の通人じゃのぅ!」

「ははは……ありがとうございます……」


(どうしよう、一緒にされたくないのだが……)


「ま、まぁ、そういう訳ですので、見返りを頂けるのであれば、別の物を頂戴したいのです」

「ふむ、例えば何じゃ?」

「はい。先程言った通り、ここでの暮らしは気に入っておりますが、上等な()()がありません」


 俺は、クイっとワイングラスを傾ける仕草をした。


「司教様はこちらの方でも名の知れたお方。できましたら何本か頂戴したいのですが……よろしいでしょうか?」

「うぐっ、そう来たか……」


 司教様があからさまに嫌そうな顔をした。


「欲の無い男と言ったことは取り消すぞ。“勇者様の成人の儀”と見合うワインを要求するとは、なんとも欲深い男じゃ。……じゃが、それで済むなら後腐れも無い。良かろう、見繕ってやる。楽しみにしておれ」

「ははっ、ありがとうございます!」


 俺は満面の笑みを浮かべて礼を述べた。

 このロクデナシに「欲深い男」呼ばわりされたのは業腹だが、厄介事を肩代わりしてくれたのだ。大目に見てやろう。

 何にせよ、これで司教様の逆恨みも消えただろうし、良かった良かった。

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