第二章 冒頭
姿勢良く座る朧。
向き合う律は肩を窄める。
「長きに渡る不携帯での用心棒、ご苦労様でありんした。」
律の目線が上がった。
しかし、朧の瞳はきりりと律を見据える。
「まさか箒で人を貫くなど、大概にしなんせ。」
律は再び目線を逸らす。
ふと、朧が瞳を伏せた。
「ですが、わっちも漸く気付きんした。」
再び瞳を開くと、眉を下げる。
「あんさんは槍を持たずとも、その辺の棒切れで容易く人を刺すお人。」
襖の奥で、藤波と番台が顔を合わせる。
「なれば、不審な輩が闊歩する昨今、あんさんの身を守ることも切実でありんしょう。」
律の口がおの字に開いた。
「……それで? 本物の槍は、一体どこへ消えんした?」
問われてすぐさま律は口を引き締めた。
少し、間が開く。
「無いんだよねぃ。」
「まあ。」
律はばつが悪そうに頭をかき、顔を背けながら呟く。
「その、投げたんだよねぃ。」
「投げた?」
藤波と番台が口に手を当てている。
朧は小さくため息を吐く。
「いいでしょう。正直に白状したことだけは、褒めてあげんす。」
律の顔にぱあっと微笑みが浮かぶ。
「そこで、わっちからの提案でありんす。」
雛鶴が襖を開いた。
藤波と番台も合わせて移動する。
その間を、双子の様な禿が一本の棒を持って入って来た。
「長さは前のと同じ、八尺であつらえておきんした。」
二人の禿は律の前で頭を下げ、棒を差し出す。
小さく会釈しながら、掌を差し出し、受け取る律。
「お忘れのようでありんすが、これまでは榊殿のお目こぼしがあったからこそ、その首が繋がっていんす。」
棒を手に取り、律は隅々まで見詰める。
「このご時世、槍など見せびらかしていれば、他所では即座に……。」
先端まで眼をやり、律は眼を細める。
「それがどういう意味か、まさか分からぬとは言わせんよ。」
満面の笑顔で、律は朧に向き合った。
朧は毅然とした表情を崩さない。
「くれぐれも、気が立っているなどというくだらぬ理由で、人様に向けるんじゃありんせんよ。」
律の目線が、少し、逸れた。
朧は見逃さない。
「……わかりんしたか?」
頷く律。
朧は凛とした表情を漸く、少し崩した。
「誕生日おめでとう、お父さん。」




