39話
ここは3体の大魔王と100体の魔王が支配する世界。人間と人間、人間と魔物、魔物と魔物。様々な戦いが日常であるこの世界に、ひとつのニュースが駆け巡った。
魔王虎丸と魔王カジツが手を結び、魔王ハッソクを討伐した。
戦いによって魔王が死ぬこと自体は珍しくも無いが、魔王同士が手を組むことはそれほど多くは無い。なにせ魔王というのは基本的に自我が強いので自分が一番強いと思っている。
しかも長い時を生きている魔王と最近生まれたばかりと言っていい魔王が手を組んだことは、過去にそれほど例が無い。
しかも魔王虎丸はいままで一度も大きな戦いを仕掛けたことが無いため、専門家からは一定程度以上の知性を持った魔王であると考えられてきたが、この件によって協調性を持っていることも認識されることとなった。
一部の人間たちが騒いでいることなど知らず、森の中にある清らかな泉へとやって来たのはいかにも魔王という姿をした体格のいい男と、ふたりの人間の少女。
「さあマリン、セラフィーこのピクニックシートを敷いておくれ」
筒状になったチェック柄のシートを受け取った薄い金色の髪をした少女が明るい笑顔で受け取った。
「うんわかった。けどなんか広げたら風で飛んでいっちゃいそう」
その言葉の通りセラフィーの柔らかい髪の毛は風に強く揺れていて、鏡のような色をした泉にもさざ波が立っている。
「隅に石を乗せて重しにすれば飛ばないよ」
少し沈んだ表情のマリンが言う。
「なんだマリンはピクニックシートの使い方を分かってるんじゃないの」
「私は前にここに来た時に先生から教えてもらったから」
「えーいいなー、それって私がまだここに来てない時の話だよね」
「そうだよ、私がお城に来てすぐ位の時の事だもん。けど一回きたきりだから来たのは2回目、その時は先生と一緒に石を置いたの」
「それじゃあ今日は私と一緒にやろうよ」
「うん」
明るい表情のセラフィーに引っ張られるようにしてマリンも動く。この白銀色の髪をした少女はあの雨の日の戦い以来、あまり元気が無い。
それは人を殺めたから。セラフィーは何度も助けてくれてありがとうと言っているし、虎丸も正しい判断だったと言ってくれはしたけれど、それでも心の中にはモヤモヤが残っていた。
夢に見る。
あの時の事を思い出してみると記憶があやふやだけれど、夢の中には何度も出てきていつも目が覚めてしまう。だからといってあの日の事を後悔しているわけではないのだけど。
鳥の鳴き声が聞こえた後で、2匹の小さな鳥が遊びながら遠くの方に飛んでいって、すぐに戻って来るのが見えた。
「さあ今日はマリンが頑張ってセラフィーを助け出してくれたことをお祝いして、美味しいものを食べようじゃないか」
魔王虎丸が指を鳴らすと、人間くらいの大きさがあるアメコミ風のカエルが床からゆっくりと姿を現した。
「私はお寿司にするけどふたりは何にする?」
その声に反応するようにカエルは大きな口を開く。その中には大きな寿司桶が入っていた。
「私はフライドチキンがいい」
セラフィーが元気よく言った。
「分かってるじゃないかセラフィー。お寿司と揚げ物というのはとても相性がいいからね」
「うん。私これ柔らかくて美味しいから大好き」
そう言いながらオジサンの絵が描いた樽型の大きな入れ物をカエルの口から取り出し、抱えて笑う。
「マリンは何にするの?」
「えーと、私は飲み物だけにしようかな」
「まだ食欲が無いのかい?」
心配そうな顔で虎丸が尋ねる。
「うん………」
「まあ、別に無理して食べようとしなくてもいいんだよ。あまり無理をするのは良くないから食べたくなったら遠慮なく言ってくれよ」
「ありがとう」
「それじゃあマリンは何を飲むの?」
「そうだなぁ………」
「当ててみようか?」
「え?」
「ミルクティーでしょ?マリンはミルクティーが好きだもん」
「そうね、最初はサイダーにしようかと思ってたけどセラフィーに言われたら何だかミルクティーが飲みたくなってきたかも」
「私も同じのにしよーっと。いい?」
「もちろんいいよ」
白い缶のミルクティーのプルタブをマリンが上にあげる音が響いたのと同時に、茂みの方から音が聞こえた。
「魔物?!」
その瞬間にマリンが立ち上がる。
「そんなはずはないんだけどね、ちゃんと周囲には魔物が入れないように結界の魔道具を………」
ズボッ、という音がしてそこから顔を出してきたのは犬。
「かわいい!」
その声に反応するように秋田犬に似た子犬が茂みの中から飛び出してきた。
「魔物は入ってこないようにしていたけど、普通の動物は入って来るのか、知らなかったな」
「見てよマリン、可愛いよ」
「そうね、ちょっと汚れてるけど」
「そんなのジャブジャブ洗っちゃえばいいんだよ。先生、私この子飼いたい!」
セラフィーが飛び跳ねながら言った。
「ちょっと待ってよセラフィー、そんなの無理よ」
「何で無理なのよマリン」
「だって犬なんて私は飼ったことが無いんだもの」
「大丈夫よ、だってもうクロがいるんだから同じだよ」
セラフィーが言っているのは人語を自在に操り、いつの間にかそこにいるという特技を持った毒舌の黒猫。今日も一緒に来ようと誘ってみたのだけど、気分じゃないと言ってあっさり断ってきた。
「全然違うでしょ。クロは普通の猫じゃないんだから」
「ねえいいでしょ先生?私達頑張って面倒見るから」
「うーん………」
顎に手を当てた虎丸が悩んでいると、茂みの奥の方からまたしてもガサゴソ音が聞こえた。
「あれ!?」
最初に出てきた秋田犬に似た子犬と全く同じような子犬がもう一匹茂みから出てきた。
「え!?」
もう一匹、そしてもう一匹、もう一匹。結局、そこには7匹の子犬があらわれた。
「フライドチキンの匂いに誘われてやって来たのかもしれないね」
「あ、なるほど!君たちはこれを狙ってるんだ」
セラフィーが動くたびに子犬たちの顔も動いた。
「その子たちににフライドチキンをあげるのは体に悪いかもしれないよ」
「そうなの?」
「マリンもセラフィーもその子たちを飼うつもりなら、ちゃんと本を読んで勉強しないと駄目だよ」
そういってカエルの口から「子犬の飼い方」という本を何冊も取り出していく虎丸が言う。
「勉強したら飼ってもいい?」
「マリンとセラフィーがちゃんと面倒を見るって約束するならね」
「絶対面倒見る、ね?マリン」
「私も?」
「だって見てよ、この子達はお腹の骨が浮いちゃってるよ。すごくお腹空いてるんだよきっと」
言われてみれば体が汚れているだけでは無くて、みんな痩せ細っているのが分かる。
「このままじゃこの子達死んじゃうよ!かわいそうじゃない」
「うーん、それはそうなんだけど………」
この日、泉へとやって来た一行は結局この7匹の子犬たちを持って帰ることになる。
「約束する!私たち絶対この子達を幸せにするから!ね?」
「絶対そう、私たち絶対大切にするから」
その目には力強さが宿っている。さっきまで干ぴょうみたいにシオシオだった様子と一変して新鮮なキュウリくらいにしゃきっとしている。
「わかった。それじゃあその子たちはマリンとセラフィーに任せるよ」
「っていうことは………」
「今日からその子たちも家族の一員だ」
それを聞いた途端、ハイタッチしてジャンプして大声を上げながら走り回っている。
その様子を見ながら虎丸はドッグフードを取り寄せるべく動く。この子達はかなり弱っていそうだから、柔らかい半生タイプや水で柔らかくして物が良いかもしれない。
そうだ。早速二人にこの「子犬の飼い方」の本を読んで調べさせることにしよう。
それは運命の出会いだったのかもしれない。とても元気な子犬たちの面倒を見ているうちに、マリンは一日ごとに元気を取り戻していった。
子犬というのは薬よりも言葉よりも時には人の力となるのだ。
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