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30話

 




 少しだけオレンジ色に色づいている柔らかい太陽の光を浴びながら、服を手に取る二人の少女がいる。


 露店の服屋の店主ボロンゴは詩集を読みながらもその様子を感じていた。彼女たちは客であると同時に警戒しなければいけない危険人物でもある。


 元冒険者であり、危険察知の魔法を所持しているボロンゴだからこそ分かること。彼女たちはきっと自分よりも圧倒的な戦闘力を持っているはずだ。


「うーん」


 少女達は散々服を引っ張り出してあれこれ話しながら見ていたのだけど、どうやらあまり気に入ったものは無いようだ。


 まあしょうがない。ボロンゴの店は基本的には安売りの中古服を扱っているので、服は安くて丈夫なことが一番だと考えるお客じゃないとなかなか満足させることが出来ない。


 というかそもそも少し不思議だったのだ。彼女たちが着ている服はデザインはどこにでもあるようなものだけど、生地も縫製も素晴らしいものだという事がはっきりと分かる。


 それなのになぜ自分の店にわざわざ来るのだろうか。少し立ち寄ってみるにしては真剣に選びすぎているから、服を買おうと決めてきているはずだ。


「新しい服もあるよ、値段は張るけどね」


 さりげない感じで声を掛ける。


「そうなんですか?だったら見てみたいです」


「わかった」


 柔らかい笑顔のボロンゴが店の奥の衣装箱から取り出してきたのは全体に水玉模様がデザインされた美しい洋服。畳まれているその一つを広げてみるとそれは洗練されたデザインの赤いワンピースだった。


「素敵!」


「ほんとうね」


 マリンもセラフィーもその美しさに驚いている。今まで見てきたものとは違って明らかに新品で、光輝いているように見えた。


「どうだい?これはアマネという被服職人が作ったもので、何度も頼み込んで2着だけようやく手に入れたんだよ」


「?」


「彼女はかなりの頑固者で、気に入った相手にしか売らないんだよ。かといって欲しがる人もそんなにいないから、どうやってお金を工面しているのか不思議なんだけどね」


「個性的な人なんですね」


 ボロンゴは声を出して笑う。


「失礼。たしかに良い風に言えば個性的っていうことになるね」


「欲しがる人はそんなにいないのに、どうして大変な思いをしてまで仕入れたんですか?売れないかもしれないのに」


「それはなんだろう………まあ服屋としても自分のプライドみたいなものなのかな。店としては大きくないし、服が死ぬほど大好きって言うわけでもないんだけど、それでもやっぱり良いと思うものを仕入れたいっていう思いはあるんだ」


「そうなんですね」


 分かったような分からないような微妙な表情で頷くマリン。


「もしこれを気に入って買ってくれるのならアマネの所に行ってみるといいよ。いくらか払えばサイズの手直しをしてくれると思うよ」


「私たちにピッタリのサイズになるっていう事?」


「そうだよ。やっぱり服っていうのはサイズ感もすごく大事だからね」


「すごい親切!」


「いやいや普通だよこれくらい」


「これって一着いくらなんですか?」


「5万ゴールドだね」


「5万ゴールド!やっぱり結構するんですね」


 彼の店先で売っている服は千ゴールド、二千ゴールド、三千ゴールドの三種類だからそれと比べればだいぶ高く感じてしまう。


「だけどそれくらいの価値は十分にあると思うよ。私は実際に彼女が作業している所を見たことがあるけれど、すごい集中力で鬼気迫るかんじだったんだ。あういうのを天才って言うんだろうね」


「天才?なんか格好いい!」


「そこまでいわれる人の作った服なら5万ゴールドでも安いかもしれませんね。たしかにすごく綺麗なワンピースなのでそれくらい十分にしそうな感じがします」


「良いものを作ろうとしたらそれなりに経費が掛かるのはしょうがないんだよ」


「美味しいお料理を食べたかったらいい食材を買わないと出来ないもんね」


「そういうこと!若いのによく分かってるね」


「褒められた!」


 すっかり楽しくなっているボロンゴは忘れている。彼の持っている危機を察知する魔法と冒険者としての経験によって、目の前にいる二人の少女が自分よりも強い力を持っていることを。


「それじゃあ2着下さい」


「お!2着かい?」


 普通の子供なら買うはずもない金額だが、やはりこの子たちは相当に金持ちの子供ようだ。見た感じからなんとなくわかってはいたが予想通りだ。


「私たち二人とも欲しいので」


「それじゃあ金貨2枚になるよ。お金はちゃんと持ってる?」


「はい。先生に沢山も貰ったので大丈夫です」


 先生?親じゃなくて先生にお金をもらったというのはどういうことなのだろう。


 ボロンゴは首をひねる。


 しかし客のことを詮索するのは商売人としては失格。ここは疑問のままで済ませるしかない。


「はい、これです」


 少女の手に2枚の金貨がある。


「確かに」


 金貨を受け取ることに集中しているボロンゴは気が付いていない。近くで商売をするフルーツ売りのメギシというお調子者の友達が近づいてきていることを。


「おうボロンゴ!今日も頑張ってぼったくりしてるか?」


 メギシの声は大きくてよく通る。


「おい馬鹿メギシ、お前何言ってんだよ!」


「冗談冗談!俺はこれから美味いピザをつまみに酒を飲みに行くつもりなんだ。お前は仕事頑張れよー!」


 去っていくメギシ。


 これ蔵のやり取りはまあ普通にあることなので普通なら問題は無いのだけど、今だけは大変に良くない。


「ぼったくり?」


 危機察知の魔法を持つボロンゴは感じ取った。


「いやいや、あいつは冗談ばかり言うんだよね、はははっは………」


 汗が一気に噴き出している。


「ぼったくりってなに?」


「………」


 セラフィーに聞かれてもマリンは微動だにせずボロンゴを見つめる。


「いやいあ、ぼったくりじゃないって、適正価格だってば………」


 しどろもどろになっている自分の口調は自分で聞いても嘘くさく聞こえてしまう。本当にぼったくりではなく適正価格なのだ。しかしそれを証明することが出来ない。


「おいそこにいる女!」


 振り返ったマリンとセラフィーの目の前には赤い鎧を着た男たちの集団がいた。


「貴様ら、そのマスクを取って顔を見せてみろ」



 高圧的に語るその男たちの顔には残虐そうな笑みがあった。





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