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20話

 


 平凡と言えば平凡な魔王虎丸の魔王城には度々人間が訪れる。


 この日は春の様な、ねっとりとした日差しが降りそそぐ日だったが、そこには白い髭をふんだんに蓄えた老人と、背の高い若者と、指をくわえている子供が立っていた。


「偉大なる魔王虎丸様、どうか我らに金貨をお恵み頂けませんでしょうか」


 その前に立つ土人形のような魔物「クレイマン」はため息をついた。


「魔王虎丸様は施しはしないと何度言ったらわかるんだ」


「そうは言いましても、この前はお恵み頂けたではないですか」


「だからあれはお恵みじゃなくて金を貸しただけ。大体にして甲何度も来られても困るんだよね、前に返した分だって返してないでしょ?」


 目をつぶればそれは人間としか思えないような流暢さでクレイマンが喋る。


「そ、それはそうなんですが、作物の育ちが何とも悪くて食べていくことも出来ぬ有様なのです。しかしその代わりと言ってはなんですが私どもは生贄を持ってきておりまして、それでどうにかご理解いただけないかと」


 そう言って俯く子供をぐいっと前に突き出す。


「だから生贄なんかいらないって前も言ったでしょう。えーと名前は何て言うんだっけ?」


「私は村長をしておりますタニガワと申します」


 目の下にとてつもなく大きな涙袋を持ち顔の皮膚が弛みまくっている老人が力強く語る。


「タニガワさんね、あんたずいぶんと分からない人だね」


 魔王城の周囲には濃い霧が立ち込めていて、それが強い風によって少しだけ蠢いた。


「しかし魔王というのは人間の女子が大好物だという事を私たちは知っています」


 目をかっぴらくその様子から話の通じない人物


「魔王虎丸様は違うんだよ。他の魔王のことは知らないけどさ」


「そうは言われましても我々にはこれくらいしかご用意できるものがありません。作物の育成状態が非常に悪くて食べるものもなく村人全員痩せ細っていて、いつ共食いをし始めてもおかしくない状況なのです」


「怖いこと言わないでくれよ」


 溜息の音。


「もしや生贄が気に入らないのでしょうか?」


「だからそういう事じゃないってば」


「もし村に美しい女子が生まれましたら、その時は必ず生贄として連れてくるとお約束いたします。ですから、どうかどうか………」


 膝まづいた地面に頭を擦り付ける。


「村長、あんた全然話聞かないね」


「ほら、お前たちも頭を下げるんだ」


 若者の方は素早く、子供はしぶしぶと言った感じで跪く。


「わかったからもうやめてくれよ、見てるだけでこっちの心が痛くなるんだよ」


「おお!それでは!」


「金貨は貸すよ」


 クレイマンが差し出した手の平には太陽の光に輝く美しい金貨がのっていた。


「おお!ありがとうございます。この御恩は必ずお返しいたします」


 土だからけの顔を上げ満面の笑みで垂れ下がった皮膚を震わせた村長タニガワは、奪うようにして金貨をとった。


「というか一つ聞きたいことがあるんだけど?」


「なんでございましょうか」


「魔王虎丸様から金を借りたことは誰にも言うなって前に約束していたと思うんだけど、あんたまさかペラペラ喋ったりしてないだろうね?最近同じような奴が毎日来て困ってるんだよ」


「いえ!私はそのようなことは一切言っておりません!本当です、私は嘘を申しません!」


 だるだるの涙袋の上のある目は泳ぎまくっていた。


 近隣の村々に住む者たちは魔王虎丸のことを、アコムみたいに思っていた。





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