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17話


黒部 圭太:何も知らずに異世界に飛ばされた、少し馬鹿でかなり生意気な少年。最初の村で無能と宣告され、追放された。相手を「無能」にするスキルを持っている。



 


 薄い金色の髪をした少女の笑顔がはじけた。


「お空を飛べるの?!」


「この本にはそう書いてあるよ。セラフィーは「ヴィーナス」っていう魔法を神様からもらったんだって」


「マリン!」


 笑顔のまま走ってマリンの腕をとった。そしてーーー。


「わあぁ!」


 五芒星が描かれた石造りの床からふたりの足がすぅっと離れた。


「本当だ!飛べるよ私、飛べる!」


「ふわ!」


 一気に天井スレスレまで浮き上がり頭をぶつけそうになったマリンが叫ぶ。


「危ないってば!」


「ごめん!なんか思ったよりもむずかしかった。けどもう大丈夫なんとなくわかったから」


 今度は横方向に一気に加速して石の壁に衝突しそうになった。


「だから危ないってば!」


「こんな狭い室内で飛んではいけません。今すぐ降りなさい!」


 魔法講師のシオンも叫ぶ。


「そうか、飛ぶならお外の方が良いものね。先生、私たち今からお外を飛んできます!」


 そう言うと反対方向にある窓へ向かって急加速して、両開きの窓を一気に開け放った。


「そういうことじゃねえ!」


「しばらくしたら戻って来るから安心してください!」


「このタコ助!ここは3階だぞ、失敗したら落とした完熟トマトみたいになっちまうぞこの野郎!」


「なんか行ける気がするんです!」


「魔法舐めんなふざけんな!」


 飛び掛かろうとしたシオンの手から素早く抜け出したマリンとセラフィーは窓の向こうにいた。


 完全に浮いている。


「じゃーねー!」


 セラフィーは笑顔で空いている手を振った。


「じゃーねーじゃねえ!とっとと帰って来やがれ馬鹿野郎!魔王になんて言えばいいんだよアホンダラ!」


「あーそうか、それはなんかいい感じにお願いします」


「テメェで言え!なんで俺がわざわざ魔王にぶち殺されに行かなきゃならねぇんだよ馬鹿垂れが!」


 霧吹きのように唾を飛ばしながら捲し立てる。


「行くよマリン!」


 そう言うと一気に地上へ向けて落ちていく。


「ふんばーーー!!」


 地面スレスレまで勢いよく落ちたところから急速に高度を上げ、つま先を擦りながらロケットのように斜めに発進した。


「危ないってば!」


 手を繋いだままでマリンが怒鳴る。


「ごめん!空の方に行こうとしたらなんか反対方向にいっちゃって私もびっくりしたよ」


「笑ってる場合じゃないって!シオン先生が言うようにちゃんと練習してからの方が良いって!戻りましょうよ」


「大丈夫大丈夫、今のでなんとなくわかった。一気に行こうとするんじゃなくてふわーって感じでやればいいんだから」


「木がある!」


「うわー!」


 小さい木の枝に突っ込みながらつき進む。


「何してんのよ!」


「よそ見してたゴメン!」


 薄い金色の髪の毛に、青青した若い葉っぱを沢山くっ付けながらセラフィーは笑っている。


「ゴメンじゃないよ危ないよ!」


 口の中に入った葉っぱをぺっとした後で、マリンが声を張り上げる。


「大丈夫大丈夫、もうだいぶ慣れてきたからこれからはもう大丈夫だから安心して」


 少しも反省していない顔でセラフィーが言う。


「ほら見てよ私たち空を飛んでるのよ?」


「確かにすごいけど………」


 認めたくないみたいな顔をしてマリンが言う。


「空を見てよすごく青くてきれいでしょ?」


「そうだけど………」


 もうすでに大きな木の何本分も高く浮き上がっているマリンとセラフィーは両手を繋ぎ雄大な自然の中を飛ぶ。


 草原も木も生命感にあふれた緑色をしていて空はどこまでも澄んだ青をしている。大きな白い雲がもくもくとどこまでも続いていて上部は太陽に光り、下部は青黒い影を帯びていて見事な陰影を作り出している。


「きれいだけどね」


「そうでしょ!」


 セラフィーは白い歯を剥き出しに本当にうれしそうに笑う。


「なんか首のところがもぞもぞするんだけど、なんかついてない?」


 マリンが体をくねらせる。


「あ、青虫」


 白くて細いマリンの首筋には小指くらいの大きさの緑色の虫が、元気よく登っている。


「ええぇ!?ちょ、とって、とってよ!」


 顔を振る。


「うーん、飛びながらだと難しいからゴメン」


「取ってってば!」


「きっとさっきの木にいた青虫だと思う。口が赤くてすごくウニウニしてる」


「青虫の説明はいいから!」


「私青虫嫌いなの」


「私だってそうよ!」


「あーこの子、マリンの髪の毛食べてるよ」


「やめてー!」


 青空にマリンの声が響く。



「戻ってこいタコ助ーーー!!」


 はるか遠くの魔王城からは怒声が響いていた。


 この後ふたりは遠くに海を見つけることになる。


 青空と白い雲を背景にして、手を繋ぎながら海を目指す少女達。それはまるで絵画のように美しい光景だった。



 彼女たちは知らなかった。


 魔法を使うには魔力が必要だということを。


 海へ向かう途中で魔力切れになることを。


 夕暮れの中、半泣きで魔王城に戻ることになることを。





最後まで読んでいただきありがとうございました。


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☆5なら踊ります。


◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆◎◆


特殊スキル 無能 Lv3

特徴:自分自身から30m以内の生き物に「無能」のバッドステータスを付与して無能状態にする。無能状態になると全ステータスが90%ダウンし、運は-100になる。ただしターゲットとして選択できるのは1体に限る。下位能力による付与阻害や能力低下の影響を受けることはない。


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