16話 ~空を飛ぶ魔法~
体から薄い金色のオーラを放つ天使の属性を持つ少女、セラフィーを前にして、魔法講師のシオンはひとつ咳払いをした。
「さてそれではセラフィー。今あなたが神様から何の魔法を授かったのかを調べてみましょう」
そう言って額に張り付けられている長細い紙を剥がして取った。
「え、」
声をあげかけたセラフィーをマリンが制す。
ちょっと前までの大工みたいな乱暴な話し方からは一変して、いまはすっかり大人の女性の雰囲気に戻っている。マリンもセラフィーも戸惑ってはいたが、これ以上は触れない方が良いことをマリンは分かっていた。
「これは現在所持している魔法を調べるための魔道具で通称「護符」と呼ばれています。恵与が与えられたすぐの状態の時に体に張り付ければ、新しく得た恵与だけが書き込まれます」
マリンとセラフィーの視線に気づかないふりをしてシオンは話を進める。
シオンは幼馴染のハルトと共に治安の悪い地域で生まれ育った。魔法の才能を持っていた為、普通の子供よりも体力的に優れていて、近所のガキ大将的な存在だった。
しかしながら思春期を迎えたころから、挨拶代わりに男の子の金玉を強く揉むという、彼女の得意技は鳴りを潜めた。それはパレードで見かけた貴族の花嫁があまりにも美しくて自分もそうなりたいと思ったから。
言葉使いを正し礼儀作法の勉強もした。しかし興奮すると、どうしても昔のシオンが出てきてしまうのだ。それは彼女にとってとても恥ずかしいこと。だからそんな記憶はもうすでにすっぱり忘れているのだ。
分からない顔をしているセラフィーを見てシオンはさらに言葉を足した。
「つまりこの紙を張りつければ、そこに貰った魔法の名前が浮かび上がってくるというわけです」
「なるほどですね、いきなりだったからびっくりしたけど、なんとなくそうかなーとは思ってたんです」
セラフィーはようやく理解した顔をした。
「これは普段私たちが使う文字とは別の文字で書かれているので本を紐解いていかなければなりません。そうはいってもこちらの方は調べなくともなんと書いてあるかはわかりますけどね」
そう言って片方の紙を指さす。
「身体強化でしょ?」
マリンが元気よく言う。
「よくわかりましたね」
「私の時とおんなじ文字だからすぐにわかった。2番目に四角に〇がくっついてる文字があるなーと思ったから覚えてるの」
「すばらしい。何事にも興味を持って覚えることはとてもいいことです」
「えへへへへ………」
大福みたいな顔をして笑う。
「これは自分の体の中に魔力を通してスピードと強度を上げるという一番よく使われる魔法です。もう片方の方ですがこちらの方は見覚えが無いので今からこの「賢者の書」を使って調べます」
そういうと表装に豪奢な鏡の絵が描かれた、黒くて分厚い本をめくり始めた。
「その本を調べれば、どんな魔法を授かったのか全部わかるようになっているんですか?」
かなり使い古さているどこか重い雰囲気を纏った本で、マリンもセラフィーも自然と目を奪われている。
「いいえ。授かった物の正体が分からない恵与もたくさんあります。というよりもはっきり分かっているものの方が少ないといっていいでしょう。半分以上は原文だけが乗っていて、説明の所に「不明」と書かれています。もし新しく分かるものがあれば学者が喜ぶでしょうね」
「そうなんですか」
少しがっかりした様子でマリンが言う。
「私にも見せて!」
胡坐をかいていたセラフィーがオーラを出したまま立ち上がった。
「まだ覚醒の儀の途中です、大人しく元の席に戻りなさい。覚醒の儀というのは天上におられる神様に力を授けて頂けるように願う儀式なのです。さあ早く!」
「だって足が痛いんだもん。足の指の方なんて触ってみても何も感じないくらい痺れてるし。もう二つも神様から授かったんだから今日の所は一旦いいかなって思います」
「戯けたことをぬかすなこの蛸助!!」
「あわーーー!」
怒鳴り声に驚き仰け反ったせいで足首がぐねった。足に力が入らずにバランスを崩したセラフィーが、よろけながら中々のスピードでシオンの方へと向かって行く。
「あぶない!」
おでことおでこの衝突。
「いたたたた………」
「あれ、全然痛くない。なんで?」
「それはあなたが身体強化をもうすでに自然と使いこなしているからです。私はあまり得意ではないのでその差が出ているんです。いたたたた………」
おでこを押さえつつも冷静に解説をしているシオン。
「ごめんなさい」
「あ!」
「どうしましたか?」
急に声をあげたマリンに驚きつつシオンが問いかける。
「本が光ってる」
視線の先にはぶつかった衝撃で飛んでいって広がった「賢者の書」があり、開いたそのページの中の一部分が青く柔らかい光を発していた。
「えーとね、特殊魔法ヴィーナス………空を自在に飛ぶことができる。って書いてある」
マリンがあっさりした声で読み上げた。
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