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15話

 


 薄い金色の髪をした天使の属性を持つという少女セラフィーが、少し緊張しながら五芒星の床に胡坐をかいた。


「大丈夫だからね」


「うん」


 姉のような存在のマリンの目を見ながら答える。そうしている間に段々とお腹が温かくなってきたのを感じる。


「それほど心配しなくても「覚醒の儀」で死ぬ人は滅多にいないと言われています。体の力を抜いてください、そうでないと魔力を透すのが難しくなりますから」


「………はい」


 少し疑問に思いながら魔法講師のシオンが塩を撒いていく姿を眺める。


「それではいきます」


 背中に手の平が当たる感覚がして、お腹の中がビリビリっと来た。


「成功です」


 目の前の色が変わった。真っ白な部屋の中もマリンもシオンも全部が薄い黄色の幕がかかたように見える。やかんでお湯を沸騰させた時のように自分の体から色のある湯気が出ている。


「これはオーラと言ってあなたの魔力が放出させている状態です。人によって違いますけど、あなたのオーラはあなたの髪と同じ色をしています」


「そうなんですか?」


 セラフィーは嬉しそうだ。


「何か体調に変化、たとえば苦しいとか気分が悪いとかはありますか?」


「苦しくは無いですけど、どうやってこれを止めたらいいのか分かりません」


「今は止めようとしなくていいんです。魔力が無くなれば勝手に止まりますから、自然体でいてください」


「わかりました」


 少しほっとする。


「今から私は神様に対して祈りを唱えますのでセラフィーは体の力を抜いて目を瞑って何も考えない様にしていてください」


「わかりました」


 目を閉じた。


 体が温かい。最初はお腹だけだったのが、体全部に広がってきて、いつのまにかお風呂上りみたいにポカポカしている。じんわりと汗が滲んでいて一枚脱いでもいいくらいだ。


 なんだか気分が良い。もっとそうなって欲しくて体の力を抜いてゆるゆるになるようにしてみる。目も瞑ってみよう。


 低音の抑揚が効いた、歌の様な祈りの言葉が読み上げられていく。


 ますます体が温かくなってきた。温かいというよりも熱いと言ってもいいくらいで汗が出て来る。頭がぼーっとして、これはきっと長い時間は耐えられないという感じがする。


 暗闇の中に火の塊が灯った。


 これは自分の頭の中の映像の火なんだという事は分かっているのだけど、なんだか触れてみたくなって、手は胡坐の上で組んだままで、頭の中のイメージだけでその炎に両手を伸ばしてみる。


「降りてきた!」


 急にマリンの声が聞こえてビックリした。


 そうか、今ここには自分だけでなくてマリンもシオンさんもいるんだった。


 眩しい。


 目を開けて頭上を見上げると、太陽みたいな光が二つゆっくりと降りてきているのが分かった。


「さくらんぼみたい」


 温かくて柔らかくて酸っぱそうな光だ。


「クソやべえ!!」


 ぼんやりと言ったセラフィーの言葉が荒々しい言葉によって掻き消された。


「めちゃクソやべえぞこれ!最初の儀式でいきなり恵与が来ることだってあり得ねぇのにそれが二つも来る!?これはまじであり得ねえ!馬鹿ヅキだ!」


 両手を振り回しながら叫んでいるのは魔法講師シオン。落ち着いた大人の女性という今までの姿が嘘で、これが本性なんだと思ってしまうくらい、荒々しい言葉がスムーズに出ている。


 柔らかく強い光がゆっくりとセラフィーの頭頂部に吸い込まれて行く。


 温かい。


 頭の中だけ温泉に浸かっているみたいだ。


「こうしちゃいられねぇ!」


 勢い良くポケットに手を突っ込んだシオンが駆け寄ってきてセラフィーの前髪を勢いよくかき上げた。


「おら!」


 その勢いのままペタリとおでこに長細い紙を張り付けた。


「もういっちょ!」


 もう一枚。


「なにこれ?」


「良いからそのまま大人しくしてろ!」


 姿だけ見れば落ち着いた大人の女性なのだが、言葉は強盗と同じだ。興奮すぎてているシオンは、いま自分がどういう状態なのか全く分かっていなかった。


 目の前に2枚の紙がピラピラしている状態で言われた通りに待つ。そうしていると紙に黒い文字が浮き出てくるのが何となくわかった。この紙は魔法の力を持っているに違いない。


 それまで大人しくしていろという事なんだろうな、ということが分かって静かに待つ。


「コイツはきっと歴史に名を残すような魔法使いになる。まったくとんでもねえガキだよこいつは」



 ベテラン大工のような顔をしながら、腕組みで頷くシオンを見て、マリンもセラフィーも引いていた。





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