助けて、私この子のこと好きになっちゃう
冬神 刹那 視点
私という人間は恵まれているということを、深くそれは深く深く理解している。でもどこまでいっても人間とは、満たされるものではないということは事実なのだ。
「ちょっと、何してるの!この駄目執事」
今日もまた、執事の三笠に罵声を浴びせる。
都心の一等地にある3LDK。そこで私と三笠は過ごしている。
執事がいる人間にしては、家が狭いのでは?と思われるかもしれないけど、これには事情がある。
端的に言ってしまえば、家の方針というやつ。
この冬神家では普通を知ることを大切に、という教えが染み込んでいて私もその教えのまま、高校に入ってからは一般的な生活というやつをしなきゃいけないわけ。
正直、最初は不満だらけだった。部屋は狭いし、体を動かしたかったら公園に行かなくちゃいけないし、料理は貧相だし。
でも、最近はこの暮らしでさえも恵まれているという部類に入っていると気づいている。
両親にはもうしばらく会えていない、別にもの心つく頃から両親にはほとんどあったことがないから、寂しい……とかそんな可愛いことは思わない。
両親の代わりに私は使用人たちと屋敷で過ごしていたんだけど、高校に上がったらさっき言った通りに普通?の生活をしないといけないから連れて行ける使用人は一人だけ。
使用人が普通?と思うかもしれないけど、大抵の家庭には家事をやったり手伝ってくれる人がいるだろうから、普通に入るという説明で納得してほしい。
そんな訳で連れて行く使用人を選ぶことになったのだが、私は悩んだ。これは私のアイデンティティが激しく関係している。
私はいわゆるLGBTというやつでその中でもL。要するに女の人が好きなのだ。
考えて欲しい。恋愛対象になる性別と一緒に過ごすというのは非常に疲れる。わかってくれるだろうか?使用人だから気を使う必要は無いとか、そんなの意識しなければ良いとか、その意見は非常に正しい。
だが、私はそう言った経験が全くない。こう言えばわかってくれるだろうか?今現在その状態の人はそうだし、そうだった人もわかるはず!
という訳で私は男性の使用人を選ぶことにした。自分の性的嗜好を誰にも伝えていないので、最初は反対されたけどワガママお嬢様になりきってなんとか自分の意見を突き通した。
男性使用人と言ってもうちには三人の使用人がいる。
一人はセバス。小さい頃、名前を聞いてセバスチャンと帰ってきた時はビックリした。見た目めちゃくちゃアジアなのに。いくらなんでも嘘だろうと思うだろうが、そんな小粋なジョークを言いモノクルが似合うダンディー紳士ではなく堅物という言葉が似合うタイプ。少しぽっちゃりとしただらしない体型とは裏腹に私に対して厳しい。やれ作法がなってない、歩き方が悪いだのなんだのとただ、私が産まれた時から一緒に過ごしているのでお互いにある程度の信頼関係があるため、漫画でも言うところの眼鏡クラス委員位の認識になっている。
まぁ、先日四十五歳の誕生日を迎えた見た目は全くそんなんではないのだが……。
二人目は小島 ロベルト。ロベルト君はなんと言っても筋肉、筋肉がすごい。私同様ハーフというのもあるのだろうがすーごい筋肉。筋肉が凄すぎて私の語彙もスー語彙ことになっている。私の部屋の掃除をしてくれた後に部屋に入ると、あったかい、いや暑い。おそらくあまりの筋肉量に体温が常人のそれではないのだろう。冬でもシャツを着ないでベスト一枚で過ごしているし……。というかなぜかセバスもそのことを注意しない。私ももう別に良くなったから何も言わないが……。
三人目が今の同居人である、三笠 傑。うんビバ普通。普通は良い。別に仕事ができる!という訳でもできなさすぎる!とかいう訳でもない普通。一個普通ではないことを挙げるとすると、三笠一族は揃って冬月家に仕えていることだ。三笠父は私のお父様に、三笠母は私のお母様にそれぞれついていっている。
そんな訳だからその子供の傑も小さい頃から使用人としてのいろはを叩き込まれていて、高校一年の私と同い年でであるが、高校には行かずに私に仕えてくれている。
別に傑に不満がある訳ではないが、なんとなく甘えるのは癪で強くあたってしまう。
うーん、まぁ一緒に育ってきたし大切な人っちゃ大切だし、信頼はしてるし、男の人の中だったら一番好き?かな。
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大きな音がして私は起こされる。
傑のことだ、どうせGにびっくりしたのだろう。
少しだけ急いで洗面所に向かう、お嬢様ではあるが実はこの家の蟲殺し担当は何せ私。
「うるさいわね、駄目執事」
起こされたことの不満を言うことは忘れない。これはもう何と言うかお約束。
ん?
私も大きな声を出しそうになった。そこには誰もが見惚れるような黒髪の美少女がいた。
私も例に漏れなかったけど、そこである考えが出てくる。
傑は?
傑はいつも私のお弁当を作るために早起きをしてくれている。起きる時に見た時計はもう起きている時間だった。もし寝坊をしていたとしても、大きな音がしたらすぐに動き出すのが執事である。
私はスーッと冷たいものが背中を這うような感覚に襲われる。
もしかして、傑は……
「あんた、三笠をどうしたの?」
思わず、胸ぐらを掴んでしまう。自分が思っているよりも動揺しているのか私の手は震えていた。
「私の、大切な執事をどうしたのって聞いてるの!」
答える気がないのか、口をぽっかりと開けた少女に思わず私は声を荒げる。多分、私は泣いているだろう。
「僕が三笠です」
えぇ……
とりあえず、リビングに呼んで話を聞こうと少女を椅子に座らせる。
三笠というなら何個か質問をしてやろうと聞くも全問正解。
ここに住み出してから好きになったロールキャベツまで当てられた。
そして何より、思わずツンの部分が出てしまうこの感じ間違いなく傑だ。美少女だというのに思わずビンタしてしまうこの感じ……
いつもだったら痛がるくらいの傑だが、体が小さいのが影響してか良いところに入ったのかわからないが私のビンタで失神してしまった。
申し訳なさを感じながら、傑の部屋に少女を運ぶ。その時、傑はずっと「お嬢様、お嬢様」とうなされていた。
私は、傑の寝顔を見ながら思う。
ヤバイ。
可愛すぎる。
私は多分、一目惚れというやつをするタイプではない。
傑のことを私はとても信頼している、そこは間違いない。ただ、恋愛対象かと問われればそれは間違いだ。なぜなら私は女性が好きだから。
さて、今私の目の前には一番信頼を置いている人間がいて、その人間の見た目は私の好みどストライク。
誰が好きにならずにいられるってんだ!
私は間違いなく、傑に恋をしてしまった。
好きな人と、憎からず思っている人、その対応が違うのは当たり前だ。
これからどうしよう、私は傑が起きるまで答えが出ないであろう問いに頭を悩ませることになっしまうのであった。
ちなみに、セバスチャンが執事の名前につけられることが多いのは、アルプスの少女の友達のアリスの車椅子を押してるあいつが由来らしいです。
なんで小説の応募って春に固まってるんだろう、もうどれがどれだかわからないよ〜!
更新遅くて申し訳ありません。