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14 どの文化でも忌避され、どの文化でもなくならない行い

その人はしずしずと去っていき、仮面が並ぶテーブルの前に残ったのは、ぼおっと立っている俺一人だけだった。


「パウロ様、パウロ様」


気がつくとピエトロが目の前で手を振っていた。


「どうされました。」


息を切らしながら聞いてくる。どうやら異変を察知して控えの間から駆けてきたようだ。


「あの人を知っているか。」


「いえ、誰を指しているのか存じませんが、私は馬車から従者用の休憩場に直行しましたから、そもそも誰もお見かけしていません。」


がっかりだ。名前がわからないと手がかりがゼロだ。


「誰かに脅されましたか。ヴィスコンティですか、それともエステ家のものですか。」


ピエトロは慌てて見える。目を離した隙にパウロがしてやられたと思ってるんだろう。あながち間違ってはいないけど。ただ、先方はパウロを知っていたようだったから、ピエトロなら知っているかもしれない。


「ピエトロ、俺の以前の知り合いで、肌がまっさらに白くて、ほおがポッとピンクに色ずいていて、目がくっきりして、、、」


「全く要領を得ませんがどうしたんですか。もっと全体的な特徴はないんですか。」


自分のボキャブラリーにがっかりする。怪しんでいるピエトロに、「ああ、あの方ですね」と言わせたいのに。


「押しが強くないのになんだか存在感のある人だった。眩しくないけどどこか目で追いかけてしまうみたいな、、、」


「抽象論は大学に戻ってからにしてください。とりあえずパウロ様の表現力で私に誰だか推察がつくわけがありません。」


ピエトロは戻ろうといていたが、肩を掴んで呼び止める。


「ちょっと待って、美人!美人!」


「ロザリナ様では。あの方はパウロ様と親しかったかと思います。」


「いや違う、もっと柔らかい感じの方。」


「パウロ様、『柔らかい感じ』で誰かを特定できるわけがないでしょう。ここで時間を潰すより、仮面越しにその美人を鑑賞されてきては」


なだめすかせられるように、ピエトロにドアへと追いやられた。どうやらあの人の名前がわからないまま舞踏会に突入するらしい。渋々と仮面をかぶる。仮面越しに気づかれないように見ると言っても、目の部分は開いているから見ているのバレてしまうしね。


ドアはノックする前に開かれた。


「パリス卿、いらしていただけるとは思いませんでした。」


建物から仮面を被った背の高い青年が出てきた。歳はパウロとあまり変わらないだろう。パリス卿と呼ばれたのは初めてだな。


「仮面の上からでもばれてしまいますか。」


相手が誰だかわからないので、無難な返答をしてみる。仮面で顔は見えないが、茶色い長髪で貴族的な雰囲気がある。


「使用人達がこちらに知らせてきましたよ。あなたは彼女たちの間でとても有名なので。」


若者はにこやかに ―仮面越しだが― 答えた。俺が有名って言っても多分ナルシストの一件なんだろう。


この人はこの家の使用人と交流があるようだから、アンセルメ伯爵の息子だろうか。甥って可能性もある。


「そうですか」


色々気になるが無難にしか返せない。パウロを知っているようなので誰ですかとも聞けない。もどかしい。


もどかしいといえば、主催者側の人はひょっとしたらあの人の名前を知っているかも。


「ところで、私の前に建物に入っていかれた方は。」


「お一人でいらした方ですか。それとも二人組でしたか。」


「一人です。」


考えてみれば結婚していたら社交界はカップル参加が当たり前。未亡人説が出てきた。なんだか気分が上がってくる。


仮面の青年は思い出したように手を叩いた。


「そういえばカプレーティ様の奥様が遅れていたのですが、先ほど会場に入られたようです。入れ違いになったのでしょう。」

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