━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 22
「今じゃそいつは、たぶんキツネの中で一番強えぇんじゃねぇか。相変わらず、頭の悪いアホギツネだから、あたしは落ちこぼれでムネペッタンだって言ってるけどな」
「ちょっ……、ちょっと待ってよぉ! それって、もしかして……?」
「やっと気づきやがったか。そう……、お・ま・え、の事だよっ。この野郎ぅ!」
ニマリと意地の悪そうな笑みを浮かべたバサラは、拳骨を握ってキサの頭にグリグリと押しつける。
「いだだだだだだだっ。あたし、そんなんじゃないわよぉ! しかもムネペッタンなんて言ってないしぃ!」
「うっせぇ! とにかくお前は、俺なんかとっくの昔に超えちまってるんだ。いい加減自覚しやがれ。いくら天才でも努力家にはかなわねぇんだよ!」
しばらくしてパッと手を離したバサラ。
その穏やかな顔が──、強く瞼に焼き付いて──、いつまでも残っている。
「さて……と、そろそろお別れの時間が来たようだ。言っておきたい事も言ったし、もう思い残す事はねぇ……。最期に、俺の炎を全部使って、お前のとてつもねぇ力を覚まさせてやるぜ」
彼はパチンと指を弾き、親指の先に火を灯した。
「やだっ、ナニ言ってんの! そんな事されても嬉しくないわよぉ!」
示し合わせたように金縛りが──身動きできなくなった彼女に、親指が迫ってくる。
「キサ……、双七郎も……、長生きしろよ。すぐ会いに来たら承知しねぇからな……」
「やめてよぉ! バカアニキーっ!」
こうしてキサの〝白い鱗〟に、最期の炎が触れた。
彼女達の居た深淵の闇は一瞬で反転、まばゆい光に包まれる。悲しげなキツネの咆哮が幾度も響くのだった。
胸に深く突き刺さるようなキツネの鳴き声が、三つ目の白い光と共に黒雲を散らしてゆく。
「やっぱり、彼らは生きていましたか……、よかったよかった……」
黒震破の直後に、黒雲の中へ意識を向けていた厳時は、双七の意識をわずかに感じていたのだった。
「バ……、バカな……、ありえん……」
次第にはっきりしてくるその姿を見て、黒露大蛇以上に驚愕したのは利光である。狐火使いの特徴である尻尾の数が気になったので、カウントしてみる。
一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九──。




