━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 21
「でも……、なんで……、なんでよ……。あたしなんかの為に、アニキが犠牲になる事なんて無いじゃない……?」
「いいじゃねぇかよ……、俺が勝手にした事だ。ありがたく思うこった……」
「あたしみたいな落ちこぼれが生き残って、アニキのような天才が死ぬなんて、なんか間違ってる。そうよ……、あたしの代わりにアニキが双ちゃんの相方になった方が、ずっといいよ。今より、ずっと強くなるって……、だから……、だからぁ……」
顔をぐしゃぐしゃにして泣きじゃくるキサに、やれやれと肩をすくめながら歩み寄ったバサラは、
「アホかっ! なんで俺が、コイツとホモらなきゃならねぇんだよっ。気色悪りぃ事を言うんじゃねぇ」
いつものカルい調子で、彼女の頬をツネってぐにぐに伸ばす。
「いたたたたたっ、いたいよっ、そんな意味で言ったんじゃないわよぉ!」
「それに俺は、天才なんかじゃ……、ねぇよ……」
両手をゆっくり離したバサラが、急に神妙な表情を浮かべる。
キサは呆気にとられて、何一つ言葉がでなかった。
「俺は……、確かに生まれつきの能力は高かったかも知れねぇが、すぐ近くに、とんでもねぇ天才がいやがってなぁ……。昔は、ずっとビクついてたもんだ。そいつが、いつか追い越すんじゃねぇかってよ……」
「何よそれ、そんなの聞いた事ないわよ……」
「なぁ、なぜキツネはズル賢いか知ってるか?」
「へ……?」
突然話題を変えられて、しかも質問されたキサは目をパチクリ。
「弱えぇんだよ、キツネってのはな。基礎体力から運動神経まで、[もののけ]の中でも最低の部類に入るんだぜ」
「で……、なんなのよ?」
「だから頭が良くねぇとダメだった。それがキツネの生きる知恵ってヤツだ。だがなぁ、そいつはキツネの癖に頭が悪すぎてな、生まれつきの能力も低かったんだ……」
「だめでしょ、それ。なんで、そんなのが天才なのよ……?」
「努力がとんでもなかったんだよ……。思い込んだら一直線でひたすら努力しまくったそいつは、あっという間に俺なんかブチ抜いていきやがった。もう、それから努力するのがバカらしくなってなぁ。格闘技とか、絶対勝てる気がしねぇ……」
「へぇ…………。アニキを超えるなんて、すごいんだねぇ」
その見知らぬキツネに感心する彼女を見て、苦笑しながら決定的な言葉を繋げるバサラ。




