━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 20
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ここは辺り一面、ただ真っ暗な空間──。
音も──、匂いも──、地面に立っている感触さえ──、無かった。
(どうなってんの、ここ……?)
キサが意識を取り戻した時、そんな場所にゆらゆらと浮かんでいたのだ。
(あたしは……確か……)
脳裏に浮かんだ記憶の断片を、パズルを組み合わせるように整理してゆく。
アニキにからかわれたおかげで、双ちゃんと結ばれた事。
続いて、念願の<もののふ>になれたあたし達がアニキの仇と戦っていた最中、憎たらしい長老に脅されてクソ野郎を追いかけた事。
最後に、震皇になったクソ野郎が使う縮地によって絶体絶命の危機を迎えたが、双ちゃんの身体を操ったあたしが逆に殴りまくった事。
そこで──記憶が途絶えている。
(おなかが……、急に痛くなったのよね……)
感触としては、想像を超えた重いパンチを食らったような気がする。
「やーっと、目を覚ましやがったか。いっつも、起きるのがおっせぇんだよ。この寝坊助がっ」
「うっさいわね! 寝る娘は育つのよっ」
バサラの声が近くで聞こえたので、思わず振り向いたキサ。
「どこが育ってんだ? ムネとか、ぺったんこじゃねぇか……」
確かに、彼はそこにいたが──、
「アニキ……っ、何があったのよっ?」
その姿はほとんど透き通っており、身を包む炎も消えかけていた。人間で言えば、満身創痍。まさに臨終一歩手前の危篤状態であったのだ。本来ならば、とても憎まれ口を叩く余裕など無いだろう。
「なぁーに……、震皇最大の能力ってヤツを食らっただけだぜ……」
そう──黒露大蛇が放った黒震破で砕け散るはずだった双七の肉体を、全身全霊の力を振り絞って守り抜いた結果なのだ。島一つ沈める威力の波動を受けてなお、今こうしてキサの前に現れているのは、まさに奇跡だった。
「それって…………、あたし達の代わりに……?」
「気にすんなって……。俺はあの時、もう死んじまってんだ。ここらが潮時って事さ……」
「ナニ言ってんのよぉ、このバカアニキっ」
涙をぼろぼろこぼしながら近づこうとするキサに対し、
「おぉっと、あんまり見せつけるとコイツが嫉妬しちまうぜ?」
彼は指を一本立てて、ぐるりと大きく円を描いた。
「えっ……」
バサラは簡略に、ここが双七郎の持つ意識の世界だと説明する。




