━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 16
両者の火照った体温を、冷たい風がさらった。
【ムシケラの分際で…………、いいだろう……。一匹ずつ、確実に消してやろう!】
無力な人間の思わぬ逆襲を食らい、神としてのプライドを傷つけられたのか。怒気をはらんだ声が、空気にこだまする。
鎌槍を無造作に投げ捨てた黒露大蛇は、両手をクロスさせて腰をぐっと沈めた。ナマズ髭が妖しく波打ち始める。まるで力を溜め込むように──。
雷鳴のような轟音と共に、黒い皮膚から禍々《まがまが》しいオーラが湧き出ずる。
「双七郎君、逃げるのですっ!」
「がはっ……」
厳時の叫びが耳に届いて脳が理解するまでのタイムラグ──その刹那に衝撃を受けた双七は、真正面に黒露大蛇の顔を見ながら気を失ってしまう。
腹部に渾身のボディーブローを食らったのだ。
【ぐふふふふふぅ……、さよならだぁ!】
続いて、意識無き抜け殻となった相手の身体を抱え、ぐるぐると遠心力をつけて天高く放り投げた黒露大蛇。両手を上下に重ねて突き出し、双七に照準を合わせる。
「これは、まずいですね!」
不吉な流れを断ち切ろうと行動を起こす厳時だったが、時は既に遅し。突如、地面が大きく揺れて体勢を崩したのだ。
それは同時に──震皇の最大級であろう能力がチャージ完了した事を示す。
【黒震破で、砕け散れええええええぇぇぇ】
掌が、牙を持った獣の口のようにクワッと開いた。
そして、禍々《まがまが》しいオーラを圧縮した黒き死の波動が、空を引き裂く轟音と共に撃ち出されり。
上空を舞う双七の身体からチカッと、紅いスパークが発せられたように見えたが、巨大な暗黒に呑まれてすぐに消えた。
やがて視界は──いや、世界は一切の闇に包まれる。
どのくらいの時間が過ぎたか。
地揺れが収まり、世界は朝日による光を取り戻してゆく。
見上げれば、すっかり青くなった空を少しだけ焦がしたかのように、小さく黒い雲が不気味に漂っていた。




