━━━第七章・白き三ツ鱗と黒き震皇━━━ 12
安堵の表情を浮かべた利光が太刀を鞘に収め、深呼吸しようとしたその時──。
「ボクちゃんはァ、死にましええええェェェん!」
砕け散った氷像から、妖しい汗でテカテカ光る光房が現れた。両手を高々と伸ばし、ひょろっとした肉体を誇らしげに見せている。
「うっぜえええええええぇぇぇ」
あまりのしぶとさに、双七は思わずブーイング。
「地獄へ落ちるのは、キミの方さァ!」
もちろん無視した光房は、電光石火の早業で鎌槍を掴み、腕の力だけで投擲する。
「槍投げとは……おろかな……」
利光が、己へ投げられた鎌槍に向かってダッシュ。ひらりと紙一重で避けつつ、太刀を抜き放った──が、目標の姿は既に消えていた。
「あぶねえええぇぇ」
キザで気取った利光の顔が、苦悶に歪むのを初めて見た気がする。
縮地によって彼の背後に現れた光房が、飛来してきた鎌槍をパシッと受け取り、無防備な背中めがけて突き出したのだ。
双七の叫びも虚しく──、
「ぐぁ…………」
銀の神威は砕け、血に染まった穂先は腹部まで達していた。まさに串刺しである。
「普通なら、死んでますねぇ……」
まるで他人事のような厳時の呟きは、誰にも聞こえてない。
「これが白露ノ大蛇という神を殺した男の末路だよォ! くーっひゃっひゃっひゃあっ」
光房の残虐なバカ笑いが響いた。彼のたまりにたまった恨みが、晴らされる瞬間でもあった。震拳を応用した衝撃が、刺さったままの鎌槍を伝って、利光の身体を隅々まで破壊してゆく。
「くっそおおおおおおぉぉぉ」
大太刀を携えて爆走する双七。いくら師匠の仇でも見殺しにはできなかった。そのような事を考える暇もなく、自分でも分からない衝動が身体を突き動かしていたのだ。
【もう……、心残りは無かろうて?】
されど、癇に障る笑い声が突如として止んだ。奈落の底から響き渡ってくるかのような、不気味な声が聞こえたのだ。それに、よろけながらも鎌槍を引き抜いた光房の様子がおかしい。頭を両手で抱え、ドス黒い煙が全身から吹き出している。
「どうなってやがるんだ……?」
利光の身体が崩れおれるのを見た双七は、爆裂爪の効果を逆噴射のように使って急ブレーキをかける。ざわりと身の毛がよだつ。
【ぐふふふふぅ。薄汚い人間に操られるのも、ここまでだ……】
「[もののけ]の分際で、ボクちゃんに指図できると思ってんのかなァ?」
【吾輩が[もののけ]だと……? このたわけめええええええぇぇぇ】
評 光房の魂──その断末魔の叫びが、けたたましく響いたのだった。
それでも、彼の身体は黒い煙に包まれながら蠢いている。
これから一体、何が起ころうというのか。
ヒドい展開になってまいりました(´・ω:;.:...




