━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 15
「ところで、評 利光君と言いましたかねぇ? まだお若いのに従一位とは大したものですが、果たして私めに勝てるとお思いでしょうか?」
「ほぅ、どういう意味だ……?」
一筋縄では行かないのはすでに分かっていた。目の前に立つ<もののふ>は、悟り猿侯という字の通り、対戦相手の心を読めるらしい。だからこそ思い切った先手を打てず、間合いを詰めて様子を見ているのだ。
「なーに、簡単な事ですよ。アナタの相方であるお雪君は、ここの里人です。現に、さっきの銀世界という能力でも、誰一人死んではいません」
「雪音が手加減するので実力が出し切れないと、つまりはそう言いたいのだな……?」
「いえいえ、それどころではありません。私めには、アナタを無力化できる最終兵器があるのです」
「ほほぅ、面白い……、このような負け惜しみは初めて聞いたぞ……。はったりもここまで来れば大したものだな……」
額に手を当てて、利光はたまらず大笑いする。そんな彼の姿を眺めつつ、
「むふふふっ、よろしい……。ならば、お見せしましょう!」
厳時は、懐に手を突っ込んでごそごそと漁る。まるで、これからイタズラを仕掛ける悪ガキのように、ニヤニヤしながら──。
「これは……、お雪君の部屋にこっそりお邪魔して、お借りしてきた物です」
「見ちゃ、らめええええええぇぇぇ」
天高く透き抜ける絶叫と共に、利光をがっちり固める神威がダイヤモンドダストのように砕け散った。続いて、神々《こうごう》しい銀にきらめいていた髪は、艶のある黒色へと戻ってゆき、一陣の吹雪が前方に渦巻く。
そこから飛び出した雪音が、長老の手に握られた紙の束に向かって猛ダッシュ。彼の宣言通り──<もののふ>・冬将軍は、実に呆気なく武装解除されてしまったのだ。
「返してっ、返してくださいよぅ!」
雪音は、長老の周りでぴょこぴょこ跳ねて絵を奪い取ろうとするが、おチビな彼女の手ではとても届かない。
「んー、なになに……。鉄は熱いうちに打つっスよ。空吉の手に包まれて温められた双七郎の金棒が、刺激によって鍛え上げられてゆく」
変態と呼ぶに相応しい笑みを浮かべた長老が、その内容を読み上げた。真っ裸の美少年同士が抱き合う図が、ちらりと見える。
「読まないでええええええぇぇぇ」
宙に浮けば簡単に手が届く。その事にようやく気づき、長老から見事に作品を奪還した雪音は、即座にビリビリと破り捨てて証拠隠滅に成功。
早朝の清々しい風にさらわれ、紙吹雪が舞った。
「あーあっ、せっかく上手に描けてたのに。もったいないなぁ……、もう」
「女性の部屋に忍び込むとは、最低だな……」
あまりにも想定外な出来事に、呆れ果てた利光がぼそりと口を挟む。
「何を言うのです。里をまとめる長としての責務を果たしたに過ぎません。皆の事を知り尽くすのは、当然ではありませんか?」
「それを職権濫用と言うのだ……」
「そうよそうよぅ! 長老さま……、さいてーです……」
恥ずかしい過去をキレイサッパリ抹消して安心しきった雪音は、ちゃっかり長老を非難した後、利光の背中へ素早く駆け込んで隠れる。そこが彼女の定位置なのである。
「お堅いですねぇ。いくら顔が良くても面白味のない男はモテませんよ。知ってましたかぁ?」
「それで結構……、雪音だけに好かれれば……、それでよい……」
「お殿さま……」
愛する彼の言葉に、頬を赤らませてもじもじする雪音。はいそこ、ラブコメ禁止──とばかりに、長老の目が不気味に光った。
シリアスが木っ端みじんに砕け散りました(´・ω:;.:...




