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━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 14



          * * *


「事情はよく分からんが……、そなたが次の相手という訳か……?」

 二人のやりとりをただ眺めて──沈黙を守っていたこおりの 利光としみつは、おもむろに口を開き、

「そういう事です」

 相変わらずのトボけた語調で長老が応える。

いさぎよばくにつけば命は保証しよう。投降するがよい……」

「またまた御冗談を」

「冗談は嫌いなのだが……、ならば仕方ない……。少々痛い目を見ていただこう……」

 せっかくの無条件降伏を──即答で突っぱねられた利光としみつは、刀身を口に引き寄せて冷たい息を吹きかける。

「言う事を聞かない悪い子には、きつーいお仕置きが必要ですねぇ。猿宝斎えんぽうさいさん、らしめてやりましょう」

「やっと出番かいな。ほんま久しぶりやから、上手うもぅできるか分からへんでぇ?」

 フンドシ一丁の剛毛筋肉ごうもうきんにく達磨だるま。大剣豪と称されし猿宝斎えんぽうさいが、長老の元へと歩み寄る。

 水玉模様の鉢巻きをほどいたそのひたいに、きらりと輝いたのは〝白いうろこ〟であった。


 そう──キサと雪音ゆきね、そして最後の一つは猿宝斎えんぽうさい

 白露はくろ様が残した三つのうろこが、ついに揃ったのだ。


わたくしめは、正二位鎮西(ちんぜい)衛門督えもんのかみ碓氷うすいの 厳時げんときと申し……」

 猿宝斎えんぽうさいの剛毛が果てしなく伸び、長老を包み込んで巨大な毛玉となる。

「<もののふ>のあざなは、さと猿侯えんこうと言います」

 藍色あいいろを基調に尾長鳥丸おながどりのまる有職文様ゆうそくもんようが入った優雅ゆうが直衣のうし鶸色ひわいろはかま藤立涌ふじたちわきの文様がおぼろげにいろどる。たて烏帽子えぼしからはみ出るのは、先程の白髪混じりの髪では無く、鮮やかな茶色に染まった若々しい毛。

 バリバリとまゆを破るかのように毛玉から出てきたのは、筋肉隆々の若返った肉体を持つ、まさに別人のような変貌へんぼうげた──長老であった。

「なんだと……」

 相手の名乗りを聞いて、さすがに驚きを隠せない利光としみつ。行方不明になっていた鎮西地方ちんぜいちほう随一ずいいちの実力者が、反乱勢力に加担していたとは──しかも、里長さとおさというからには指導者であろう。

 降伏を勧告しているどころではない。鎮西将軍ちんぜいしょうぐんとして、落とし前を付けねばならなくなった。

碓氷うすいの 厳時げんとき殿。恐れ多くも天朝様に対し、反旗をひるがえすとは……、血迷ったか……?」

 氷河のような殺気を辺りに浸透させつつ、髭切ひげきりの太刀たちを下段に構える。

わたくしめは、天下万民の為に活動してるつもりですが、どうやら御理解頂けないようで、とても残念ですね」

れ言を……」

 厳時げんときの言い分を一笑に付し、歩を進める利光としみつ

 両者の間合いが縮まり、一触即発の緊張が高まってゆく。

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