━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 14
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「事情はよく分からんが……、そなたが次の相手という訳か……?」
二人のやりとりをただ眺めて──沈黙を守っていた評 利光は、おもむろに口を開き、
「そういう事です」
相変わらずのトボけた語調で長老が応える。
「潔く縛につけば命は保証しよう。投降するがよい……」
「またまた御冗談を」
「冗談は嫌いなのだが……、ならば仕方ない……。少々痛い目を見ていただこう……」
せっかくの無条件降伏を──即答で突っぱねられた利光は、刀身を口に引き寄せて冷たい息を吹きかける。
「言う事を聞かない悪い子には、きつーいお仕置きが必要ですねぇ。猿宝斎さん、懲らしめてやりましょう」
「やっと出番かいな。ほんま久しぶりやから、上手ぅできるか分からへんでぇ?」
フンドシ一丁の剛毛筋肉達磨。大剣豪と称されし猿宝斎が、長老の元へと歩み寄る。
水玉模様の鉢巻きを解いたその額に、きらりと輝いたのは〝白い鱗〟であった。
そう──キサと雪音、そして最後の一つは猿宝斎。
白露様が残した三つの鱗が、ついに揃ったのだ。
「私めは、正二位鎮西衛門督・碓氷 厳時と申し……」
猿宝斎の剛毛が果てしなく伸び、長老を包み込んで巨大な毛玉となる。
「<もののふ>の字は、悟り猿侯と言います」
藍色を基調に尾長鳥丸の有職文様が入った優雅な直衣、鶸色の袴を藤立涌の文様がおぼろげに彩る。立烏帽子からはみ出るのは、先程の白髪混じりの髪では無く、鮮やかな茶色に染まった若々しい毛。
バリバリと繭を破るかのように毛玉から出てきたのは、筋肉隆々の若返った肉体を持つ、まさに別人のような変貌を遂げた──長老であった。
「なんだと……」
相手の名乗りを聞いて、さすがに驚きを隠せない利光。行方不明になっていた鎮西地方随一の実力者が、反乱勢力に加担していたとは──しかも、里長というからには指導者であろう。
降伏を勧告しているどころではない。鎮西将軍として、落とし前を付けねばならなくなった。
「碓氷 厳時殿。恐れ多くも天朝様に対し、反旗を翻すとは……、血迷ったか……?」
氷河のような殺気を辺りに浸透させつつ、髭切太刀を下段に構える。
「私めは、天下万民の為に活動してるつもりですが、どうやら御理解頂けないようで、とても残念ですね」
「戯れ言を……」
厳時の言い分を一笑に付し、歩を進める利光。
両者の間合いが縮まり、一触即発の緊張が高まってゆく。




