━━━第六章・名と狐火を継ぎし弟子━━━ 5
「予の銀世界で……安らかに眠るがよい」
双七郎の姿が、隠れ里全体を包む炎が、一切が──白に埋めつくされる光景を目にしたキサ。
次の瞬間、全身を隅々《すみずみ》まで貫き通す凍てついた風が魂までもさらってゆこうとする。まるで稲光の後に響く雷鳴のような流れに、彼女は無駄に抗う事をしなかった。
* * *
(あたし……)
辺りは嘘のように静まっていた。朝を迎えつつある藍色の空に、明星が一際輝いている。
キツネの鋭い嗅覚は、かき消えた炎の匂い──つまり、鎮火直後の煙が充満しているのを感じていた。
(……生きてるみたい?)
信じられなかった。間違いなく死んだと思ったのに──力を四肢に行き渡らせて立ってみる。少しよろけたが問題は無さそうだ。
キサはすぐに、周囲をきょろきょろと見回す。隠れ里を赤々と染め、全てを侵略するように燃え盛っていた炎は、跡形もなく吹っ飛んでいた。今は、煙が白い霧のように漂い、その不思議なベールで何もかもを包み隠しているようだった。
(双ちゃん……?)
師匠の大太刀が小さな炎を灯していたので、愛しい彼の姿はすぐに見つかった。
ただ、うつ伏せに倒れたまま動く気配は無い。まさか死んで──不安が頭をもたげる。一刻も早くそばに駆け寄ろうとするが、すらりと伸びた二本の足が絡まってこけてしまう。
(うそ……よね? 双ちゃんが死ぬはずないもん)
キサはぶんぶんと頭を振って、不吉な予感をぬぐい去ろうとする。そして、また立ち上がった所で気付いた。
いつの間にか、人間の姿になっている自分を──。
「あれ……、あたし……、なんで……?」
もちろん、着物など着ているはずも無い。さっきまで全身を覆い隠していた毛皮の代わりに、健康的な小麦色の肌が露わになっている。だが、素っ裸の少女は全く恥じらわない。それどころではないのだ。
「双ちゃん、しっかりしてよっ」
ようやくたどり着いたキサは、双七郎の身体をひっくり返して膝に乗せ、両手で揺さぶる。
触った彼の肌はとても冷たかったが、脈はある。今にも止まりそうな、弱々しいものではあったが──。
「ねぇ! ねぇってば! 寝たら死んじゃう! 死んじゃうよぉ!」
一層激しく、無我夢中で揺さぶる。
絶対、死なせるもんか。やっとあたしだけのモノになったのに。たとえ、地獄の閻魔様が来ようとも渡さないんだから。
「おい、キサ。それぐらいにしとけ……」
「なによ、うっさいわねぇ! ほっといてよ…………あ?」
背後からの馴れ馴れしい声に対し、キレ気味で振り向いたキサ。目を大きく見開いて口をパクパクさせる。




