━━━第五章・敵地潜入━━━ 8
キサは見覚えがあった。あの──年増女のマリが巻いていた、トゲトゲの悪趣味な首輪。
「これをハメたら二度と取れないよォ。ボクちゃんと<もののふ>になれるまで、じっくりいたぶってあげるからねェ。くっひゃっひゃっひゃ!」
「じょっ……、冗談じゃないわっ! あたしは、双ちゃんと<もののふ>になるのよっ!」
子ギツネの時から、双七郎の事を想い続けてきたのだ。こんなクソ野郎に邪魔されたくない。
「じゃじゃ馬は大好きだよォ、調教しがいがあってさァ」
「ちょっとぉ……。やだっ、来んなーっ! いやああああああぁぁぁ」
瞬く間に、キサの身体が汚らわしい手で掴まれ──茵が乱れる。ちなみに、平安時代の敷物の一種で、敷き布団のようなものが茵である。
縄で縛られているキサは、自由が利く頭と尻尾を激しく動かして首輪を巻かれないよう、必死に抵抗する。頭を振ったり──、手に噛み付こうとしたり──、尻尾ではたいたり──。
「お邪魔虫もいるみたいだからさァ……、手段は選ばないよォ!」
「何言ってんのよっ、きゃあっ」
くるりと、うつ伏せにされるキサ。イヤらしい光房の両手が太腿の裏を這いずり回る。
「尻尾が健気でカワイイねェ。ボクちゃん、興奮してきちゃったァ」
ボサボサの尻尾でお尻と大事なトコは防御しているものの、いつ突破されるか分からない。
「やだぁ……、やめてぇ……、あ……っ」
「今だァ!」
キサの意識が下半身に集中する隙をずっと狙っていた光房は、がら空きになった首へ右手を素早く差し込んだ。もちろん、黒い首輪が握られている。
「いやっ、やめてええええええぇぇぇ」
留め金はまだハメられていないが、時間の問題であった。こうなれば、あの最終手段を使うしかない。もう二度と、人間の姿になれなくても──双七郎以外の人間と<もののふ>になるより、はるかにマシであろう。
「あんたに……、あんたにヤラれるぐらいなら……」
全身から白い煙が吹き出し、活発な少女の姿が消えて無くなった。
だがしかし──。
「元の姿になって逃げても無駄だよォ!」
キサの思惑は見抜かれていた。決死の覚悟でキツネに戻ったにも関わらず、あまりにも報われない。サイズが小さくなる事で着物と縄が解け、身体は自由になったものの、尻尾を光房に握られていたのだ。そのまま持ち上げられ、逆さまで宙ぶらりんになってしまう。
(離してぇ! いやああああああぁぁぁ)
されど、キサの声は以前のような人語では無く、どうみてもキツネの鳴き声だった。
「今までの女どもは初めての時、必ずキツネになって逃げようとしたからねェ」
その言葉に、キサは思わず納得する。キツネの姿に戻ってしまえば、とりあえず交尾も首輪も避けられるのだ。
「でもォ、この首輪を一度ハメると元の姿になっても外れないしィ。あと、キツネにはキツネのいたぶり方ってのがあるんだよォ?」
光房の浮かべた表情を見て、ぞくりと背筋に悪寒が走る。とても嫌な予感──命の危険さえ感じたキサが、じたばた暴れようとしたその時、
「くーっひゃっひゃっひゃあーっ、血ィ祭りだァ!」
尻尾を掴まれた手が高らかと──そして、弧を描くように振り下ろされ、
「ギャウンっ」
身体が粉々になりそうな痛みの後、力が抜けていった。どうやら床に叩き付けられたらしい。
「さァさァ、あきらめて人間の姿になりたまえェ。かわいがってあげるからさァ」
残酷な仕打ちは続けられる。何度も何度も叩き付けられ、ほとんどの感覚がマヒしてきた。
(無理よ……あたし、もう人間にはなれないんだってば)
元々、お雪さんという恋敵が現れて起きた奇跡。でも──いくら頑張っても大好きなアイツを振り向かせる事はできなかった。こんなに、こんなにも頑張っているのに、見てもくれなかった。それどころか女扱いすらしてくれなかった。なんで、なんでよ。今みたいに、もうどうでもよくなって、死んじゃった方がいいって思った事も、いっぱいあった。
エロ&バイオレンス注意。




