━━━第五章・敵地潜入━━━ 7
「くひゃっ、愛しのコギツネちゃんはまだオネンネかなァ?」
やはり来てしまったか。ぞわわっと虫酸が走るクソ野郎の声と言葉で、もう全身を舐め回されたような嫌悪感に苛まれるキサ。
「でもォ、ざ~んねんながら、今夜は寝かせないよォ。忘れられない夜にしてあげるからねェ。くーっひゃっひゃっひゃっ」
おそらく縄から脱出するのは容易だろう。さっきまでチュウ太がカジってたのだから、脆くなってるはず。キサは、ありったけの力を入れてひきちぎろうとしたが。
ビクともしなかった──。
(ちょっとぉ、なによなによなんなのよ、あのネズミ。全然、役に立たないじゃないのよぉ)
一世一代の見せ所はどうしたのよ──と、心の中でツッコミを追加せずにはおれないキサ。その間にも、足音はドタドタと近づいて来ている。
(どうしよぉ……)
このような危機的状況だからこそ、冷静にならなければ。
キサは双七郎のように本格的な武道は教わらなかったが、それでもアクビしながら彼の行動を眺めていた事がある。確か──座禅と言って心を落ち着ける術があったっけ。
(平常心、平常心……)
拘束された身体では座る事ができないので、せめて目を閉じるだけでも。
跳ね上がる心臓を意識的に抑えながら、すーはーと息を整える。
(よし……で、どうしよぉ?)
心を落ち着けた所で、当たり前だが状況は変わらない。しかし、頭の中は前より冴えてきたような気がする。
「くひゃっひゃっひゃあ、コギツネちゃんはどんな音色を奏でるのか、楽しみだねェ」
(決めた、この手しかないわ!)
ついにあのクソ野郎──評 光房が、部屋を区切る家具の御簾をかき分けて、入ってきた。
(ふっふっふ、見てなさいよぉ!)
丁度その時、キサの脱出法も定まる。題して──肉を切らせて骨を断つ大作戦。
身体を撫で回すのに、縄は邪魔でしかないはず。そうして拘束が解ければ、今までの鬱憤を晴らすべく滅多打ちにするのだ。
「おんやァ? ネズミでも入り込んだかァ?」
光房の発した言葉が、あまりにも図星をついていたので、キサはビクゥと反応してしまった。
ロウソクが灯された部屋に、彼らの影が妖艶にゆらめき始める。
「それに……、コギツネちゃんも起きてるようだねェ。どんな悪巧みをしているのやら、実に楽しみだねェ」
(なんで、そんな事まで見破られてんのよぉ!)
短い時間で出来上がった作戦が、全部パーになってしまった。この期に及んで、寝たフリをしていても仕方がない。キサは、瞼を開いてキッと睨み付ける。
「おーコワッ! そんな目で見ないでくれよォ。くひゃっ」
「冗談じゃないわよ。あたしに指一本触れたら、ただじゃおかないよっ」
「コギツネちゃんが誘惑してくるなんて、ボクちゃんたまらないよォ」
「ちょ、バッカじゃないの。いつどこで誘惑したのよっ」
荒い鼻息を立ててニマリと嫌らしく唇を歪めた光房は、懐から黒いモノを取り出す。
いよいよ……(; ・`д・´)ゴクリ




