━━━第五章・敵地潜入━━━ 3
(あいつは……、あいつはっ!)
お雪を追う人影の横顔が、一瞬だけ明かりに照らされたのだ。師匠ばかりでなく、白露様までむざむざ死なせてしまったあの時──遠目に見ただけだが、忘れようはずもない顔。今まで、どれだけ憎んできた事か。
(評 利光っ! ここで会ったがなんとやら。てめぇは今、オレがぶっ殺す!)
力の限り大太刀の柄を絞り、怒りに呼応して刀身から炎が吹き出す。そうだ、師匠も後押ししてくれている。たとえ、勝ち目が無くてもオレはやる、やってやる。
だが、一歩進もうとしても身体が、身体が金縛りにあったように動かない。何故だ。
「待てよ。キサに何かあったら、テメェこそ今すぐブッ殺すぞ?」
大太刀の炎は、火柱となって双七郎の横に立つ。その中から現れたのは、よく知った懐かしい男。
そう──。
「バサ……ラ……、なんで……生きてやがったのか……この野郎……」
「テメェがキサを見捨てようとしてやがるから、おちおち死んでられねぇのさ。んでまぁ、こうして化けて出てきてやったのよ。うらめしや~ってな?」
お化けの真似事をしながら、相変わらず軽いノリで言ってのけるバサラ。感動の再会がブチ壊しだった。
「見捨ててねぇよ! テキトーな事ぬかすんじゃねぇ!」
「じゃあ、なんでキサを助けねぇんだ? 別んトコ行こうとしてたじゃねぇかよぅ!」
ふざけるな──と、バサラの右ストレートが双七郎の鼻先をかすめる。されど、予想していた感触と熱気は全く感じられなかった。本当に幽霊なのだろうか。
「そっ……それはなっ、師匠の仇が目の前にいるから、ヤッちまおうと……」
「じゃあ聞くけどよぅ。てめぇの師匠は仇討ちしてくれと、一言でも言ったのか?」
「うっ…………」
鋭い指摘に、もごもごと口ごもる双七郎。
「だいたい死んじまった者はな。生きてた頃の恨みつらみなんか、どうでもいいんだ……まぁ、例外も結構いるがな」
「生きてる奴に言われても、ぜんぜん説得力ねぇよ」
「んあ? 俺はとっくにくたばってるんだぜ。肉体はな……」
あの時──死を予感した師匠によって大太刀へと移されたバサラの魂は、双七郎達を陰ながら守ってきたという。そう言えば、光房との戦いで刀身から炎が吹き出たが、バサラの能力だとすれば全ての辻褄が合う。しかし、素直に認めるのも癪なので、
「果てしなく、うそくせぇな……」
胡散臭過ぎて信じられないと、ボディーランゲージで大袈裟にアピールする双七郎。
「うっせぇ、つべこべぬかすな! テメェはとっとと、キサとくっつきゃあいいんだよ。このウスラトンカチがっ!」
言うや否や、バサラは炎の粒子となって散った。あっかんべーをしながら。
「ちっきしょ……う、言いたい放題言いやがって……。しかも言い逃げかよ」
利光に追われるお雪の身が心配ではあったが、何故か──なんとかなるような気がした。そんな直感を信じる事にした双七郎は、バサラの望みをすみやかに叶えるべく、監禁されたキサの救出に全神経を集中させるのだった。




