━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 12
「まーァ、身分の低いキミには勿体ない名乗りだァ……」
光房が、唇の端を歪めながら一歩を踏み出した瞬間、
「冥土の土産に持ってけェ!」
いきなり視界が赤一色に染まった。全身火だるまとなった光房が突進、目の前に現れたのだ。
「げほっ……、そりゃ師匠の奥の手じゃねぇかよぉ!」
鋭い反射神経のおかげで、かろうじて身をかわした双七郎だが、熱風にむせて咳き込んでしまった。追い打ちが来たら対処しきれない、致命的な隙だった。
「第一尾・纏火。こんな基本中の基本の能力が奥の手ってさァ、キミの師匠はぜんぜん、大した事なかったんだねェ。くひゃっ!」
しかし、容赦なく追撃をかけて一気に勝負を決めるかと思いきや、光房は余裕しゃくしゃくで、彼の師匠を小馬鹿にした。
「師匠はてめぇなんかよりずっと強えぇ! 馬鹿にすんじゃねぇよ、クソ野郎がっ!」
「分かってないねェ……キミぃ。狐火使いは尻尾が多ければ多いほど、強いのさァ」
光房は、師匠と同じ〝狐火使い〟のカテゴリーに属する<もののふ>。このタイプは尻尾が増えれば増えるほど、能力のバリエーションも豊富になってゆくと聞いた事がある。以上を踏まえれば、敵の主張もあながち嘘ではないのだろう。されど、それにしては火力が弱かった。何となくの直感なのだが──もし、双七郎の相手が本気の師匠なら、先ほどの纏火を同じように避けたとしても、タダでは済まなかったのは間違いない。師匠より官位が低いというのも、充分合点のいく内容だった。
「さァーて、次でトドメを刺してみるかなァ?」
舌舐りをした光房は、太刀を左手だけで持ち、空いた右手の拳を大地に打ち付ける。続いて、地面スレスレに身体を傾け、クラウチングスタートに近い姿勢をとった。
ごくり──と、双七郎の喉が鳴る。
「くーっひゃっはー。第二尾・煙火ィ!」
光房の溜めていた脚力が、ついに解放された。その勢いで纏火がかき消され、代わりに黒煙が吹き出す。
もう、敵の姿はまったく見えない。まるで黒ヘビが這うかの如く、煙だけが不規則な動きで迫ってくる。双七郎はアタリをつけて、めらめらと燃え盛る大太刀を横へ薙ぎ払った。むしろ、それしか術はなかった。
「ちぃ……」
黒煙が散っただけで、手応えが無い。
「バーカめーぇ!」
声は、双七郎の頭上からだった。それを頼りに光房の位置を予測。空振りした大太刀の勢いを殺すことなく、自らの身体も流れるように一回転させつつ柄を持ち上げる。
狙いは違わず、真っ直ぐに振り下ろされた敵の一撃を受け止める事に成功した──が、光房の全身は激しく燃え盛っていた。煙火から纏火に、いつの間にか切り替えていたのだ。このままでは大火傷を負ってしまう。
<もののふ>にもピンからキリまであるのです?!




