━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 11
「なぁ……?」
刀身が燃え盛る師匠の大太刀を、中段やや上に構えつつ、
「なんだネ? 命乞いなら受け付けんよ。くっひゃひゃひゃひゃ」
「てめぇは、評 利光って名前か?」
苦し紛れの時間稼ぎ──いや、覚悟をキメる為の質問を、双七郎は思い切ってぶつける。
「ひゃ……」
クソ野郎のバカ笑いが、ピタリと止まった。
「まさか、こんなトコでくそ憎たらしい弟の名前がでるとは、思わなかったねェ……」
「やっぱ違ったか……、とりあえず安心したぜ」
双七郎の口から何気なく出た言葉。師匠のみならず、鎮西地方の守り神すら葬った絶望的な実力者を相手取るよりも、いくらか望みはある──という意味合いだったのだが、
「なんだってェ……?」
それを聞いたクソ野郎の、ニタニタした嫌らしい笑みが消える。
「どう安心したんだ、ボクちゃんの方が弱いからかァ? バカいっちゃあいけない、本当はあんな奴より、ボクちゃんの方が強いんだよォ! 正統な血を引くこの兄を差し置いて、なぜにあいつが当主になったんだァ! ボクちゃんの方が評氏の当主にふさわしいってのに、くそったれェ!」
徐々に憤怒の形相へと変わったクソ野郎は、これまでの人生で溜めてきた黒い憎悪をすべて吐き出すように叫ぶのだった。
そして、息を荒げながらも、しばらく黙る。
嵐の前の静けさのように──。
マリがその身を炎と化し、クソ野郎へ向かって走り出した。
二人が重なった直後、炎の竜巻が荒れ狂って周囲の木々をなぎ倒す。
「やぁやぁ我こそは、正五位鎮西衛門佐・評 光房なーぁり」
クソ野郎──光房が、妙にテンポのズレた名乗りを上げる。それを聞いて訝しむ双七郎。
官位は実力を現す。
天下最強クラスである〝評 利光〟の兄だと名乗るからには、それなりの強さだと覚悟していたが、まさか師匠より官位の低い正五位だとは──これは一体、どういう事だろうか。
竜巻は跡形もなく四散し、彼らの、<もののふ>の姿が明らかとなった。
墨染に菊唐草の狩衣を彩る銀糸雲鶴の有職文様。牡丹の色にうっすらと浮かぶ竜胆襷の袴を膝あたりで締める脛当てと、白い毛に覆われた靴。
立烏帽子から漏れる、真っ赤に染まった天然パーマの髪が波打つ。
「<もののふ>の字は、四尾公であーぁるぞ!」
そしてその名の通り、金色に輝くふさふさしたキツネの尻尾が四本、不気味にうねっている。
目の前の敵は、憎き仇の兄だった。
<もののふ>と化す強敵、果たして勝負の行方は?




