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━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 5


          * * *


 音の発生源はすぐに特定できた。狐鯉こりがわのほとりで、立ちのぼる黒煙。

 その惨状に直面したキサは、たまらず顔をおおう。涙があふれてくる。

「なによ、これ……」

 うっすらと立ちこめる煙。木々を焦がす炎に、飛び散る火の粉。

 砕けたキツネのお面。ぽっかりと穴の開いた朱塗りの駕籠かご。無惨に焼けこげたしろ装束しょうぞくの女達。

「なんでよ……?」

 キサと双七郎そうひちろうの他に、この場に立っている唯一の者。

 短剣を右手に持ち、粗末な黒い着物を身にまとったキツネ耳の女が、こちらを向いた。

 赤毛にポニーテール、トゲが付いた悪趣味な首輪。

 そして──ところどころ血に染まった、その無表情なかんばせを。

「あんた……、キツネでしょうがっ! なんでこんな事したのよぉ!」

 ボサボサした尻尾の毛を激しく揺らし、キサは激昂した。

「答えなさいよ!」

 状況証拠でしか無かったが、犯人はこの女で間違いない。野生の勘で、そう決めつけていた。

 苛立ちに呼応して、手足の爪があかい光を発する。

「うふふふふ……っ、あーっはっはっはっはぁ」

 つやのあるハスキーな声で、キツネ耳の女が口に手を当てて笑った。声と仕草だけで判断すれば、おそらく三十路みそじは過ぎているであろう。

 完全に見下した視線を、キサへ向ける彼女。右のキツネ耳に付けられた赤い宝石のピアスが、あやしく光る。

「決まってるじゃない、ねたましいからヤッたのよ。ほんっとガキねぇ……」

 挑発するように自供──それが戦闘開始の合図となった。

 その言葉が聞こえた瞬間、しなやかなキサの足が地面を蹴る。

「おいっ、うかつに飛び込むんじゃねぇ!」

 双七郎そうひちろうの声は耳に届いていたが、キサの沸騰ふっとうした頭には響かなかった。

「花嫁が……、いったい何をしたっていうのよぉ!」

 ずっと憧れていた嫁入り。なかなか振り向いてくれない彼。一年前に突如として現れた恋敵こいがたき

 そんな自分を取り巻く、どうにもならない環境を重ね合わせたキサは、涙声でわめく。

 やっと、ゴールインできたのに。あんたみたいな年増女が、よくも──ぶち壊しにして。

 怒りに染まったあかい爪が、敵の顔めがけて繰り出される。

「ばっかねぇ! さっき……」

 キサの手首を左手の甲で払った年増女は、右手に持った短剣を相手の左胸へ突き立てようとする。狂喜の笑みを浮かべて、叫ぶ。

「言ったでしょうよぉ!」

 しかし、血まみれの刃は、キサの胸に触れる事さえ無かった。全身を右後ろへひねって避けたのだ。すぐさまキサは反撃に移る。脅威のバランス感覚を発揮させ、そのまま左足で上段回し蹴りを放った。

 対して、年増女は身体を一歩後ろへ。キサのあかい足爪が鼻先をかすめたのを見計らって、右手の刃を水平に振るった。

 スカった回し蹴りを収めて次の動作に移る途中、年増女と対面しつつ右足だけで立った状態のキサに、左からの刃が迫り来る。

「あっ……」

 反射的に後ろへ下がろうとしたキサは、思わず右足に変な力を入れて体勢を崩す。左肩を少し斬られた。

「死になさい、くそガキ!」

 次に、短剣を一旦引っ込めた年増女は、両手でつかを握りしめ全体重を前へ。

 仰向けに倒れているキサの腹部めがけて、必殺の一撃が刺されようとしたその時──。

女二人のバトル、スタート!

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