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━━━第三章・キツネの嫁入り黒き影━━━ 3


          * * *


 なんとか無事に行列をやり過ごした。きつねの嫁入りを見た者は、すみやかに殺される。双七郎そうひちろうに押し倒されなければ、キサの命は無かったかも知れない。

 しかし、そんなキツネにとっての常識が脳裏の片隅にも残っていない彼女は、駄々をこねまくって先ほどの埋め合わせを要求し、強引に押し通した。

「お、重いぞ……」

 いつもは背中にある師匠のおお太刀だちを左腰にぶら下げ、代わりにキサの身体を背負った双七郎そうひちろうが、ぼそりと不満を漏らす。

「女の子に向かって何てこと言うのよっ、みつくわよ?」

 キサは優しくカプッと、くちびるで彼の耳たぶを挟んだ。女心と秋の空──とはよく言ったもので、今までのヒステリーが嘘のように、不気味なぐらい機嫌が良すぎる。

「やめろよ、きしょ……」

 気色悪きしょくわるいと言いかけ、慌てて口をつぐんだ双七郎そうひちろう。この言葉のせいで、さっきはヒドイ目にったのだ。危うく、同じてつを踏むところであった。

「なんか言った?」

 日向ひなたのような明るい笑みを浮かべるキサが、耳にふぅっと息を吹きかけた。その直後、急な動悸どうきに戸惑う双七郎そうひちろう。今まで一度も病気にかかった事が無い自慢の肉体が、初めて異常を訴えてきた。

「どうしたの? 大丈夫ぅ?」

 立ち止まった双七郎そうひちろうに対し、彼女は耳元でささやく。やけに素直で甘い声色だった。

「なんでもねぇよ!」

 このままでは、あやしい雰囲気にまれてしまう。鋭く怒鳴った双七郎そうひちろうは、振り払うようにずんずん歩いてゆく。

「ねぇってばぁ、乱暴に歩かないでよぉ!」

 幸せ気分にひたっていたキサが、急にどうしたのかと口をとがらせ、彼の横顔を覗き込もうとした、まさにその時──。

「まじかよ……」

 いきなり足を止める双七郎そうひちろう。その反動で、キサは彼のほおくちびるをぶつけてしまった。

「なによなによぉ! どうしたのよぉ! いきなり止まらないでよぉ! ばかばかばかっ!」

 こうしてファーストキスを捧げてしまいました。と、多くの女性が語るらしい──よくある典型的な事故だった。お約束の展開にうろたえながらも、とりあえず彼をまくし立てて、ごまかしを図るキサ。

「あれ……、見てみろよ……」

 だが、それどころでは無いとばかりに、双七郎そうひちろうは川の方を指差した。その先をたどったキサの目が、驚きで見開かれる。

「なに……よ、あれ……、あんなに黒かった?」

 そう──。

 狐鯉こりがわの水が、いつの間にかドス黒く染まっていたのだ。さっきまでは、確かにきれいな色をしていた。この上流に位置する目的地で、何らかの異変が起きたに違いない。

「これって、ねぇ……?」

「あぁ……」

 一刻を争う事態になった。

 双七郎そうひちろうの背中を軽く蹴ったキサは、宙返りして着地。ただちに柔軟体操をして身体を慣らす。

 情けない事だが、いざと言う時に頼りとなるのはおのれの力では無く──キサであった。おそらくは長老も、そのつもりで彼女を同行させたのだろう。本当に、男として情けなかった。みじめだった。穴があったら入りたかった。

 ネガティブに、うだうだ考えてもキリがない。凄まじいスピードで走り出したキサに負けないよう、双七郎そうひちろうもダッシュをかけるのだった。

よくあるラブコメから、一気にシリアスへ。

ここから物語が加速します。

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